幸せの手紙

 お久しぶりです。

 本当なら「初めまして」で書き出すつもりでした。戸惑ってますよね? 差出人がないとダメだというので適当な名前を書いたんですが、実はあなたの顔見知りなんです。

 すみません、気持ち悪い真似をして。

 いきなり手紙を出したのには理由があるんです。実はこの手紙は「幸せの手紙」と言いまして――あ、破らないでください。受け取った幸せの手紙を破くと不幸になっちゃうんですよ?

 怪しいと思ったんですよね。分かります。私もそうでした。でも、これはチェーンメールによくあったようなヤツじゃないし、昭和の時代に流行った「不幸の手紙」みたいに他人に不幸を送るようなもんじゃなくて、本物中の本物なんです。

 仕組みは本当に簡単で、私が出したように「幸せの手紙」とタイトルに書いた手紙を知り合いに送るだけで大丈夫なんですよ。

 もちろん条件があります。送る相手が見ず知らずの他人ではダメで、一度でも話したりメールのやりとりをした人に限ります。

 一人一通で、きちんと届いたことによりその効力が発揮するそうですよ。

 どう幸せになるか気になりますよね?

 送った枚数が多ければ多いほど、より幸せになれます。リターンは送った人によって様々だそうで。

 私に送ってきた親友は、こじれていた同僚たちとの仲が元に戻って、以前に比べて倍ぐらいの仕事ができるようになりました。劇的な出世はなかったものの、次の昇進は間違いなしだそうです。

 その彼に送ったある人は、借金をしていた人が急死して相続人もなかったことから帳消しになったそうですよ。

 私も色々とトラブルを抱えていて、二百人ぐらいに送ったんです。

 ぜひあなたもやってみませんか?

 でもこう書くと、賢いあなたなら「何かあるはずだ」と考えてやらない気がします。よくあるショートショートみたいに、最後は全部自分に跳ね返ってくるんじゃないかって疑ってますよね?

 でも、本当にそんなことはないんです。

 私の周りではみんながやっていて、大小様々ですが、それなりに幸せを掴んでるんです。しかも待てばやってくるような幸せじゃなくて、偶然手に入れた、棚ぼたのような幸せを。

 気付きませんでしたか? 周りの人たちがどんどん幸せになっていってるのを。

 実は、私も周りの友人たちが次々と抱えていた悩みを解決していったことに気がついて、そのうちの一人を問い詰めてようやくこの幸せの手紙のことを聞き出したんです。

 まだ疑ってますよね? 確かに胡散臭い話だけど、真実なんです。

 デメリットなんてありません。手紙を送るだけですよ?

 手紙を送ったからって不幸な目に会ったりはしません。

 ここまで言ってもあなたは送らないでしょうね。頑固者だなあ。

 でも、それはそれでどうなんですか?

 あなたは頑として送らない。でもあなたの友達や家族、同僚はみんな考えが柔軟だから、きっと送るでしょう。

 すると、どうなります? あなたは不幸にならないけど、他のみんながどんどん幸せになっていくんです。送った枚数に応じてより一層、間違いなく幸せに。

 つまり相対的に見ると、あなただけが取り残されちゃうんですよ。みんなより幸せが少ない状態で。

 それってある意味不幸じゃないですか。

 そろそろやる気になってきたんじゃないですか?

 さあ、送ってみましょう。

 誰にしましょうか? そうですね、まずはあなたにとって一番大事な人にしましょう。

 さあ、便箋を出して、ペンを持って、幸せの手紙を……。

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