「Pride」――砂塵の彼方 あとがき

最後まで読んでくれた皆様へ

この物語は、9・11の追悼のために以前書いたものを書き直した作品です。

私には勿論、戦争の経験はありませんし、話を聞いたこともありません。平和な日本に生まれ育ち、今現在も人が人を殺めるそんな瞬間をテレビなどで他人事のように見るだけです。もし自分が都並のような立場でいたら、そして彼のような専門的な技術と知識を持っていたなら、彼のような行動が出来るだろうかと考えたことがあります。


現在の日本は荒んでいると感じています。政治も企業もそして個人でさえ、自らの利益や立場を守るために弱者を犠牲にしているように感じているからです。

戦国時代、信長は農民を守るためにあえて田畑では戦をしなかったそうです。それは、農民こそが国の礎であり、国力であることを知っていたからでしょう。

大声で叫べない弱者の声こそ耳を澄ませて聞くべきであり、守るべき存在ではないでしょうか。


この物語のタイトルであるプライド「 Pride」、和訳は「誇り」

都並は医師としての誇りをもって、ケビンは平和維持軍の兵士としての誇りをもって、ドクタージャラルも戦地の国民としての誇りをもって、他の登場人物たちもそれぞれの立場の誇りをもって行動してくれています。

しかし、時としてその誇りが傲慢なプライドに成り下がることも背景として描いています。

まさに、現在の日本がそんな状況に成りつつあるのではと、心を痛めています。

誇りは、自らの利益や権利を守るためのものではなく、その人物の存在を示すものだと感じます。


最後に、私は神戸も宮城にも震災後訪れました。僅かではありますがボランティアの経験もあります。

その被災地で聞いた言葉があります。

倒壊した家屋の前にいた老婆でした。

「私よりもっと悲惨な人が沢山います。その人たちを助けてあげて。私は元気やから」と。

翌日、私はその老婆を再び訪ねました。僅かな食料とペットボトルを持って。するとその場所に、花が添えられていました。

涙が止まりませんでした。

もしあの時、無理やりにでも避難場所に連れて行っていれば、信頼できる誰かに老婆の保護を依頼していれば、老婆は優しそうな笑顔で笑ってくれていたはず。

戦争ではありませんが、弱者が声を上げることもなく散っていく。

もし、全ての人間が正しい誇りをもって行動すれば、世界中から争いが少なくなるのではと感じます。


ドクタージャラルの言葉には、そんな意味をこめました。

―― 守るものは、領地やプライドではなく、多くの民衆である。


                       森 出雲

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「Pride」――砂塵の彼方 森出雲 @yuzuki_kurage

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