エピローグ

 数年後

 ザワザワと人の出入りの多い店内は、順番待ちの人達で溢れていた。

 盆が明けたばかりのせいか、それとも給料日のためか、ATMですら長い列が出来ていた。

「草加さん! 草加蛍子さん!」

「はーい!」

 窓口の必要以上に丁寧な女性行員が名を呼んだ。

「財団への振込み分も記帳しておきました。あと、定期預金などいかがですか? 今なら……」

 そばで走る子どもたちを見つめながら、曖昧な返事を返し、早々と銀行をでた蛍子。向かい側の横断歩道では、煙草を吹かし勇太が手を振っていた。

「こっち!」

 ボディサイドに『和菓子:草加』と書かれた白いワゴン。信号が変わると、幼い兄弟が走って、勇太の乗るワゴン車に飛び乗った。

「おとうさん! アイス買って!」

「和也、あとでって、おかあさんが言ったでしょ?」

「おねえちゃん、黙っててよ!」

 勇太は、シートベルトを絞めながら、エンジンをかける。同時に、蛍子が助手席に乗り込んだ。

「夏海も和也も静かになさい!」

 ソロソロと動き出すワゴン車。

「なぁ蛍子、そろそろ車買い換えようよ」

「ダメよ。まだ動くじゃない?」

「えー? 動かなくなるまで、このオンボロで行くの? 新しいの買ってくれよ」

「ねぇ、アイス買って!」

「ウルサい!二人とも。ダメなものは、ダメッ!」

「ほら、叱られたっ」

 夏は、盛りを過ぎ、空に流れる雲も、そのカタチを変えていた。

「急いでよ。おば様が待っているから」

「ああ、スピード出ねえぞ」

「ウルサい!」

 街の北側の古い寺。

 菜摘は一哉の墓に入った。

 もう、二度と離れる事も無い。

 毎年夏には、彩とりどりアサガオが、二人の墓石の周りにだけ咲き誇る。


 ずっと…

 それは、変わらない事。

 ずっと…

 それは、決して諦めない気持ち。

 ずっと、ずっと、ずっと……。





                                                                END


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ずっと……。 森出雲 @yuzuki_kurage

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