第16話 魔導研究所 2

 ミアとセスが話していると「セスじゃないの」という声が聞こえてきた。声のした方を見ると白衣を着た二十代前半くらいの眼鏡をかけた美人が立っている。


「珍しいわね。セスがここに来るなんて」

「来たくてきたんじゃねぇ~よ、護衛なんだよ」


 セスは嫌な奴に会ったと内心で舌打ちをした。

 女はセスの態度を気にした様子もなく、ミアを見ると、にこりと笑みをつくって話しかけてくる。


「ミアちゃんかしら?」

「はい!」


 名前を呼ばれて勢いよく返事をしていた。


「私はローズよ、マグナスさんから話は聞いてるわ」

「よろしくお願いします」


 優しい笑顔に幾分か緊張が解れて、ミアも笑顔で答えることができた。


「案内するからついてきて」


 そう言うとローズは背中を向けて歩きだす。ミアとセスはローズの後について歩きだした。

 研究所の廊下には等間隔に扉があり、扉には番号が書かれている。

 それを興味深く見ながら、ミアはセスとローズのやり取りを思い出す。


「セスさんはローズさんと知り合いなの?」

「あ~‥‥‥‥ローズは魔導学園の同級生なんだよ」

「同級生!」

「そうなのよ」


 相づちを打つと、ローズは5と書かれた扉の前で止まり、扉を開けてミアたちを中に招き入れる。


「ミアちゃんはその椅子に座って」


 そう言うとローズは部屋の奥にある棚へ向かう。


 ローズに言われた椅子は背もたれの角度を調節できる、皮製の生地を使ったものだった。

 ミアは椅子に座って部屋を観察する。

 部屋は六畳程の広さで奥の窓際は長いカウンターで魔道具が幾つも並んでいる。あとは何種類も形や大きさの違う瓶が入っている棚が一つと椅子が二つ、一つはミアの座っている椅子でもう一つは木の背もたれのない丸椅子だ。


 ローズは棚から掌に収まるくらいの大きさの瓶を一つ取り出してミアに渡してきた。


「それ飲んで」


 瓶の中の液体は透明で、蓋を取って鼻に近づけると、僅かに甘い匂いがする。変なものを飲まされるとは思わないが、中身を知らずに口にするのは躊躇われた。


「これは?」

「私特製の痺れ薬‥‥‥‥弱いものだから、三十分もすれば戻るから」

「!」

「なに、ミアちゃんに飲ませようとしてんだよ」


 ミアの傍に立って二人のやり取りを見ていたセスがミアから瓶を取り上げた。


「魔力の流れを診るには、身体の抵抗を無くすのが良いのよ」


 そう言うとセスの手から瓶を取り返してミアに渡してきた。


「飲んで」

「これ、ほんとに、大丈夫なんだろうな?」

「ええ、かなり薄めてあるからね」


 セスは何か言いたそうだったがそれ以上口を挟んでこない。

 再度「さあっ」と施され、ミアは覚悟を決めて瓶の中の液体を飲んだ。

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