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***


駅までの道を二人並んで歩く。


微妙な距離感が、二人の初々しさを物語っていた。

恋人になったことに慣れない広人が、緊張した面持ちで言う。


「杏奈さん、その…。」


「はい?」


「えっと…。手を…繋ぎますか?」


「いいですよ。」


はいと出した手をそっと握る広人。

握り方まで優しくて、そんなところまで性格が出るんだと、杏奈は笑みがこぼれた。

杏奈は握られた手を一度開いて広人の指に絡める。


「もう恋人なんだから、こっちの方がよくないですか?」


それはいわゆる恋人繋ぎというやつで。


広人は眼鏡をずらしそうな勢いで照れていて、手からも緊張が伝わってくる。

あまりにも広人が照れるので、それを見ているだけで杏奈まで必要以上にドキドキしてしまった。


こんなじれったい恋は初めてかもしれない。

だけど、こういうのもなんかいいなと杏奈は心がほわほわとした。


二人は顔を見合わせて微笑み合うと、その手をしっかりと握って歩き出す。


二人を纏う空気はとても穏やかで優しくてあたたかかった。




【END】

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そんな恋もありかなって。 あさの紅茶 @himemon

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