第27話 終息

俺達のパーティに新しいメンバーが増えた為、パーティ登録を兼ねて明日ギルドにスタンピードの状況を聞きに行く事にした俺達は、今日はこのまま酒場でダラダラすることにした。


正直、一般人から見るとダラけているように見えるだろうが、冒険者としてはよくある事だ。まあ、良い依頼が無かったりとか、休養に当てたりだとか理由は様々だが、危険と隣り合わせの冒険家業は適度な休息が必要なのだ。


で、俺達も何をするでもなく、飲んだり食べたり話をしたりしている。


「そういやエリスってさ、この街に寝泊まりしてるんだよね?。宿屋はどこなの?」


「私が泊ってるとこは、もうちょっと街外れのとこなのです。安宿ですが、あの、手持ちも少なくなってきていたので仕方なく・・・」


「じゃあさ、俺達が泊ってるこの宿に来ないか?。宿代は心配しなくてもいい、手持ちもそこそこあるからさ」


「い、いいのですか?。私としてはホント助かるのですが・・・流石にそこまでして貰っては・・・」


「俺達は仲間だろ?、気にすんなって!。それで、部屋の事だけど今は三部屋取ってるじゃん?。それは二部屋にしようと思うんだ」


「え!?、どういう事?何で減らすのよ??」


「うん、それはね・・・、俺は男だから一人部屋にして、女性陣は三人部屋にしようと思うんだ」


「あら・・・? 私はアルさんと一緒でもいいんだけど?」


エメルダはそういうと、艶めかしい笑みを浮かべ俺を見ている。

やめてくれ、その顔・・・俺の理性が保てる気がしないんだって・・・。


「一人部屋4つ取るより安いのは元より、女性陣は何かと一緒に居てくれる方が俺的に安心だしね」


そうなのだ、宿代を安く済ませるってのも勿論あるが、この街は他の街より治安が良いと言われているが、それでも何かあっても良い様に一緒に居てくれる方が助かる。


「ただ、どうしても一人部屋が良いっていうなら考えるけどさ・・・」


「あたしはそれでも良いわよ、なんか楽しそうだし~!」


「うむ、私も構わない。誰かさんが抜け駆けしないか監視できるからな・・・」


「ふん、お互い様よ!!」


「わぁ! こういうの憧れてたんですの!!。女子会みたいで楽しそう~なのです!」


三人は概ね好意的な意見だし、俺も変わらず一人部屋でゆっくり出来るし・・・

部屋の話も一段落つき、俺達は各々で好きなものを食べ、好きなものを飲み、好き勝手に話をしている。


こういうのって、ホント楽しいな。気兼ねしない仲間でダラダラして・・・

明日から、また調査したり他の依頼こなす日々を過ごすことになるのだから、今はこの時間を楽しみたいな。



その夜、俺は自分の部屋で防具や剣の手入れをしていた時、ふとシーナさんを思い出した。

俺達の街のギルドの受付嬢で、底辺でパッとしない俺にも優しく接してくれ、世話もしてくれた彼女には感謝してもし切れない程の恩がある。


僅か一週間ちょっとしか経ってないが、今何してるんだろう・・・。俺達の事、心配してくれてるかな・・・と少し自意識過剰気味なことを考えてしまう。


(俺なんて、数いる冒険者の一人としか思われた無いんだろうけどさ・・・)


ここのスタンピードが終息したら、直ぐに戻って報告に行こう。

俺は窓際に立ち煌々と輝く月を見ながら、そう心に決めた。


          ◇


次の朝、俺達は一階の食堂にいた。

モーニングを食べながら、今日の予定の確認をする。


「じゃ、この後はギルドに寄ってエリスのパーティ参加申請をしてから、スタンピードの状況確認。それによって、調査が討伐になるかもしれないけどな・・・」


「了解よ。で、もしよ?スタンピードが終息していたらどうするの?」


「その場合は、こっちで依頼をこなしててもいいが、俺的にはシグマの街に戻りたいと思ってる。シーナさんにも報告しておかなきゃならなしな」


「そうだな、アルがそうしたいなら私は構わない。依頼は向こうでも出来るしな」


「私も、皆さんの街に行ってみたいんですの!。新しい地で頑張ってみたいのです!!」


「ありがとう、みんな。まだスタンピードの件は分からないけど、とりあえず今の話しの通り進めて行こうぜ!」


そう締めくくると、俺達は残りのモーニングを食べ終えて食堂を出たのだった。

少し街中を歩いていると、いつもより人通りが多いような気がする。


少し気になったが、ギルドに着いた俺達は早速、受付嬢にエリスの事を話して申請を行った。

申請は無事許可されて、晴れて俺達は四人パーティになれたのだ。

その後、俺はその受付嬢にスタンピードの話を聞いてみた。


「あ、その件ですね。昨日の話なのですが、スタンピード討伐を受けた複数のA~Bランクの冒険者パーティが共同戦線を張り大規模討伐戦を行ったようで現在、当ギルドメンバーが上級冒険者達と共に現場に向かっております。そこでダンジョンや周辺の状況を確認し、モンスターの数が減少していれば、そこでスタンピード終息宣言を出す予定になっております。ですので、もう暫くお待ちください」


「あ、やっぱりそうだったんですね・・・。ところで、どれぐらいで確認できるのでしょうか?」


「はい、早ければ明日の昼前・・・遅くても明後日には確認が取れると思います」


「分かりました。では、私達は別の依頼を受けさせてもらいますね」


「はい、お願いします」


俺は今の話を三人に話し、今日は掲示板の依頼をこなそうと話してみた。

彼女達もそれに同意したので、四人で掲示板の前に来てみたいのだが、先に来た冒険者達が取って行ったんだろう、これといった良い条件の依頼書が無い。


あるのは、採取系かお手伝い系・・・畑仕事を手伝って欲しい等だな、この辺りは上~中級冒険者辺りには不評なので余りやすいのだ。


俺は、一度に3枚の依頼書を取ってきて、彼女達に見せてみた。

一つ目は、俺が得意としている薬草とキノコの採取物。二つ目は廃家屋の片づけと不用品の処分、三つ目は老夫婦宅の屋根の補修と煙突掃除だ。


「え?、こ、これをするの?」


「そうだよ?。どうも大分前から依頼されてるようだけど、報酬額が少ないせいか誰も手を伸ばしてないようだから、俺達がやってやろうと思ってさ。どうだろう?」


「多分、ギルドも困ってただろうし、私達がやってやれば双方が助かるだろう。私達にあった依頼じゃないか?。優しいじゃないか、アル」


「いや、優しいわけじゃないが・・・でも、困ってる人にとって事案に大きいも小さいも関係ないんだよな。小さい事で困ってる人も、大きい事で困ってる人もそこに差はないのさ」


「アルさ・・・私、感動したのです!。貴方のパーティに入れて良かったですの!」


褒め慣れてない俺としては、そこまで手放しで言われると照れるを通り越して、恐縮してしまう。

まあ確かに俺はそういう気持ちもあるんだが、やはり危険性が無いというのが一番の魅力なのであって・・・。


ま、それは、敢えて皆には内緒にしておこう・・・

それより、この3つをどうするか聞いてみるか~


「みんなはどう?。やってみる?やめとく?。この3つぐらいなら1~2日あれば終わると思うし」


「じゃ、あたしはこの採取系がいいな~」


「それでは、分担してやればいいんじゃないか?。私はこれでもエルフだから、山の中での採取はお手の物だ」


「じゃ、エメルダとエレノーラがこの採取クエを、俺はこの屋根の修理と煙突掃除をするわ。エリスはどうする?」


「わ、私は・・・アルさんと一緒でいいですの?。一人じゃ、ちょっと不安なのです・・・」


「分かった、じゃあエリスは俺の手伝いをしてくれ。で、残った家屋の片づけは翌日、みんなでやろう」


「了~~~解!」「了解した」「はい、ですの!」


それからの俺達は二組に分かれ、速やかに行動に移した。

エメルダはリオノーラの案内で山中に入り採取を開始、俺とエリスは老夫婦宅に行き屋根の修理と煙突掃除に取り掛かった。


初日は無事、二組とも依頼を達成した。

午後になりギルドに行き達成の報告に行くと、受付嬢はかなり喜んでくれた。やはり、かなり困っていたのだろう。


しかし、まだスタンピード終息の報告は無いようだ。

俺達は予定通り、翌日は廃家屋の片づけと不要品の処分をするため、目的の場所に向かった。


そこは人が住まなくなって数十年って感じの屋敷だった。

昼間なのにそこだけは暗くなっている感じで、ちょっと薄気味悪い感じがする・・・


「あ、あたし・・・こういうのに、苦手なのよね・・・」


「なんだ、エメルダ。幽霊とかオバケが怖いのか?」


「ダ、ダメなの!。本当に怖いの・・・」


「意外だな・・・」


「良いでしょ、あたしにだって怖いものの一つや二つぐらいあるわよ!」


「いや、そっちじゃなくて・・・。こういう時、ツンデレなら「はん!、そ、そんなもの怖くないわよ!。ま、まあ貴方が怖いっていうなら、私がついて行ってあげても良いけど・・・?」とか、言うのかと思ったのでな」


「あんたの頭の中でのあたしって・・・ってか、あ、あたしはツンデレじゃないからね!!」


そう言って、エメルダは頬を膨らまして抗議している。

いや、しかし最後のはツンデレっぽくて良かったぞ?、うん。


とにかく俺達は依頼人と打合せをしてから、必要な物と不要な物を廃屋から出して分別したのだが、かなりの量があったため、終わった頃には、だいぶ日も傾いてきていた。それでも、すんなり行った方だと思う。オバケも出なかったしな・・・


処分に関しては専門の人達にお願いしてあるので、俺達は依頼完了の印を貰ってギルドに戻ってきた。

が、ギルドの周りはこの時間だというのに、まだ人が多くいる。


勿論だが、ギルド内にも人が多く見られる。俺達は人を掻き分け、受付嬢に依頼達成の証を見せて報酬を貰う。


「アルさん、本当にありがとうございました。あの3つの依頼は、だいぶ前から不良案件として残っていまして・・・。報酬も少ないですし、人気が無かったので困ってたんです。なので、ホント助かりました!」


「いえいえ、少しでも不安が取り除けて良かったです。こちらも、ちゃんと仕事として報酬も貰えましたし」


「報酬と言っても・・・相場よりだいぶ少ないと思うんですが・・・」


「それでも、仕事は仕事です」


「凄いですね、文句ひとつ言わずにやって貰えるなんて・・・。あの、これは報酬とは別でギルドから貢献度を上乗せしておきました。ほんの気持ち程度ですが・・・」


「え?、あ、ありがとうございます!。その気持ちだけで報われますよ!」


俺はそう言って微笑んだ。

あ、ところで例の件を聞かなきゃ・・・


「ところで、スタンピードの方は・・・」


「あ、言い忘れていました!。お陰様で、スタンピードは終息宣言が出されました!」

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