第20話 死闘

俺は、渾身の力を込めてホブゴブリンめがけて突進して行った。


ホブゴブリンは、普通のゴブリンよりも体も大きく力も強い。なので、リーダー格として群れの行動を率いたりすることがある。

ましてや、コイツは人の言葉を話した。つまり、相当知能も高いのだろう。


多分、走って逃げることは出来ない。何しろ、疲れていたとはいえ俺の全力疾走に追いついて、しかも攻撃しながら前に回り込んできたのだ。


つまり、俺に出来るのは捨て身の覚悟・・・”死中に活”を見出すってやつだ・・・

しかし、流石に格上の相手だ。向こうは泰然としたまま、こちらからの攻撃を待っている。


俺は自分のショートソードを自分の体の後ろに隠し、居合い切りの如く敵の目前で斜め上に一閃してみた。

相手は俺の剣の長さを見誤り、避け切れずあわよくば・・・とは、ならなかった。


向こうは、体を少し後ろにズラしたスウェーだけで躱した。

俺は急ブレーキをかけ直ぐに下がり、今度は剣を構えたまま、今度は右から回り込み上から下に切り下げてみた・・・が、今度は持っていた太い木の枝みたいな棍棒で、簡単に防がれてしまった。


とっさに下がったが、無理だと感じた・・・。何をしても防がれるイメージしかない・・・

チラッとホブゴブリンの後ろを見ると、さっき逃したゴブリン3~4匹がエメルダ達と対峙していた。


少し心配はしたが、まああの程度なら平気だろう。

俺はものの1秒程で、こっちに意識を戻した。こういう時、魔法が使えればとつくづく思う。


すると、今度は相手から向かってきたんで、俺は少し下がりながら相手の攻撃を待ち構える。

奴は太い棍棒を真上から振り下ろしてくる。あれは剣じゃ絶対受けられない。力任せに振り下ろしてきた棍棒を防ごうもんなら、俺の剣もろとも潰されるだろう。


俺は体を左に倒しながら捻り、一回転してすぐに起き上がり躱す。すると、奴は今度は棍棒を右に横薙ぎに振るってきた。


「ヤベッ!・・・・・間に合わ――ゲハッ!」


俺は体を逸らせて躱そうとしたが、振りが早すぎて間に合わず、棍棒の先端が当たった。

だが、ギリギリ剣の腹で受けられた為、直撃よりはダメージが少なかったかもしれないが、それでも俺は吹き飛ばされた。


いてて~・・・

しかし危なかった。コレが無かったら肋骨逝ってたな・・・

自分の体を見てみると、衝撃を受けた箇所のハードレザーの鎧部分が凹んでいた・・・。おっそろし~・・・・


だが、俺はすぐ立ち上がった。痛くてもすぐ立ち上がらないと、嬲り殺しされるからだ。

しかし、完全に手詰まりだ・・・。幸い、奴はまだ俺だけをターゲットにしているから、今のうちに彼女達には逃げて欲しいのだが・・・


しかし、まだ俺から見える位置にいるが、ゴブリンは倒したみたいだ。しかし・・・

何やってんだ!、早く逃げろ!!そう叫びたいが、それをしたらヤツは彼女達に気が付いて、危険にする可能性があるから叫べない。


くっ!こうなったらヤツはここで殺る!絶対殺る!!死んでも殺る!!殺されても殺る!!

俺は今までに感じたことがない、体の芯が熱くなる興奮の様な感情で満たされる。


「ううぅぅおおぉぉああああああああああ―――――――――!!」


脳内からアドレナリンが体中に駆け巡り、瞬間的に体に力を湧いてくる感じがして、俺は何も考えずにただ突進する。

無論、相手も見ているだけではない。棍棒を振り上げ、俺を待ち構えている。


俺は構わず直前まで走ると、上から棍棒が振り下ろされる・・・が、俺はさらに加速して腰を掴みタックルする形になって、そのまま街道脇の大木に突っ込んだ。


ドガッと物凄い衝撃を感じ奴が少し動きを止めたので、俺は奴から離れざまに右手に持っていたままの剣で、奴の腹を突き刺した。

よし!やった!!!と思った瞬間、今度こそ棍棒が俺の脇腹にヒットした。


「グハッ!!!」


剣が腹に刺さっている状態だったのが良かったのか、威力は少し落ちているが、それでもさっきよりも吹っ飛ばされた。ぐっ・・・駄目だ、激痛で動けない・・・


今度こそ、骨が逝っちまったかも・・・。口の中も切ったのか、鉄の味がするし・・・

”肉を切らせて骨を断つ”ってヤツを俺がやられちまったか・・・俺は、そんな事をボーッと考えていた。


くっそ・・・駄目だったか・・・そうだ、エメルダやリオノーラは逃げられたかな・・・

奴の方を見たら、腹に刺さっていた剣を抜いて出血させながら、こっちにゆっくり歩いてくる。アルの剣は、その場に捨てられた。


ああ、死ぬってこんな簡単に訪れるんだな、悔しいな~・・・悔しい・・・

殺すなら、せめて一撃でやってくれよ・・・


そんな事を考えていたら、突然巨大な火の玉みたいなのがホブゴブリンの体を包こんだ。

な、なんだ、何が起きた?


「GGGGGAAAAAAAAAOOOOOOOOOO-----!」


俺は横たわったまま、絶叫しながら茫然と燃えるホブゴブリンを見つめていた。

奴が燃えてる・・・ホント何が起こった・・・?


「アルさ~~~~~~~~~~ん!!!!!」


「アルーーーーーーーーーーーー!!!!!」


二人は俺の名を呼びながら、駆け寄ってきた。エメルダは既に涙を流している。

だが俺は、まだ危険だから来るな!!と言おうとしたが、上手く声に出せない。


「く、来る・・・・ぁ~・・・ハァハァ」


「大丈夫だ!、ゴブリン達は殲滅してやったぞ!!」


「ですです!。魔物の気配も今は近くには感じません!!。だから、今は自分の体を心配してください!!!」


「ハァハァ・・・・・・俺・・・は・・・だいじょ・・ぶ・・・だ・・・・・」


「全然、大丈夫そうじゃないじゃないですか!!。今、回復ポーション使います。待ってて!」


「た、たすか・・・る・・」


エメルダはそういうと、バックパックから初級の回復ポーションを出してきて、俺に飲ませてくれた。

取り敢えず、出血とかはこれで収まるが骨折は治らない。


もっと上級のポーションとか回復魔法があればだが、今は出血が止まっただけでも助かる。

俺は二人に抱えられて、立ち上がる。


正直、よくこれだけの被害で助かったなと思う。

俺はホブゴブリンにとどめを刺した炎について聞いてみた。


「あれは、リオノーラの火の精霊魔法なのか?」


「そうだ、アレを使うには少し準備が必要で、火種を起こなければ私は使えないんだ」


「確かに、ここには火は見当たらないからな・・・」


「そうだ。風では広範囲に影響が出て、あれだけヤツの近くにいると、アルにも被害が出てしまうからな。だから火魔法にしたんだが、それを使うには火種とアルがヤツから離れてくれる瞬間が必要だったんだ」


「凄かったよ、助かった。しかし、完全に死ぬまでは近づかない方がいいぞ。奴等は体力だけはあるからな、死んだフリして襲ってこないとも限らない・・・」


「その辺は大丈夫だ。あの魔法は、敵の息の根を止めるまで消えないのだ。火の精霊は残忍なところがあるからな。だから、私はあまり使わないのだが・・・」


「さすがは、Cランクの中級冒険者だ。俺やエメルダとは格が違うな・・・」


「もうーーーー!、お二人とも!。早くココを去りますよ!。いつ追手が来るか・・・。それに、早くアルさんを治療しなきゃ!!」


「あ、そ、そうだったな。すまん、早く戻ろう!」


「ま、待ってくれ!。ここにいるゴブリンやホブゴブリンの左耳を持ち帰りたい。すまん、俺のわがままだが・・・」


「そうね、急いでるけどあれだけ死に物狂いで倒した敵だもの、討伐証明部位は取って行かないとね」



俺は木に少し寄りかかり、二人には近くにいる奴等だけの部位を剥いでもらった。

その後、俺は二人に肩を貸してもらって、来る時の倍以上の時間をかけて、デボネアの街まで戻ってきた。






何とか宿屋まで連れて帰ってもらい、すぐにベッドの上に横になったが正直、俺は痛みの限界に来ていた。


エメルダには、調査内容の報告と討伐モンスターの部位の処分に行ってもらってるので、今は一人で横になっているが、今は熱が出てきたのか目がかすんできている。


リオノーラはここまで一緒に運んできてもらったのだが、その後から姿が見えなくなった。

その事にも少し気を揉んだが、それよりも脇腹の痛みによって俺はとうとう意識を手放してしまった。

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