第19話 絶体絶命

さて、街中での一波乱があった後、俺達は気を引き締め直し、街を出て目的の場所を目指し街道を進んでいく。目的の場所は、街から北東に一時間ほど歩いたところにあるダンジョンである。

 

      ◇


歩き始めて三十分ほどたった頃から、異変を感じ始めた。と言っても俺ではなく、リオノーラだったが・・・。

森の中での生活がメインだったリオノーラには、森の中の異変を肌で感じ始めていた。


「どうした、リオノーラ?。体調でも悪いのか?」


「いや、そうではない。おかしいのだ・・・森が静かすぎる。それに、動物たちの声や気配が少なすぎる」


「え!、もうかよ?。街を出てまだ四十分も経ってないぞ?。いくら何でも早過ぎないか!?」


「いや、間違いない。嫌な気配も感じる。それもかなりの数だ。ただ、全部が街に向かっているわけじゃなさそうだな。まるで逃げまどっているようだ・・・」


「うん、確かに間違いないです。気配が森の中からしてきますが、明らかに人の気配とは違います!」


エメルダも、異様な気配を感じ取っているようだ。

早くもかよ・・・俺は一気に気を引き締めて、いつでも剣を抜ける状態に持っていく。


「皆さん、気を付けて!。何かがいます!!!」


「奴等、こっちに気付いたぞ!。様子を伺っているようだな・・・」


俺達は、両側から挟撃される危険性を避けるため、片側が壁になってるところまで移動して、陣形を作る。


「前衛は俺に任せて、リオノーラは後ろで風魔法を使える準備をしてくれ!。エメルダは、隠密で動きながらリオノーラの援護だ」


正直、これで上手くいくか分からない。正直、本来なら前衛はCランクのリオノーラに任せたいが、数が多いので一気に彼女の魔法で片付けたい。全部いけないにしても、ある程度の数を殲滅させたい。


「アル、こっちは準備が出来たぞ。いつでもいける」


「じゃ、俺が奴等を引き付けるから合図したら打ってくれ。エメルダは、俺とリオノーラの魔法で打ち漏らした奴を殺れ。みんな躊躇するなよ、命とりだぞ!」


リオノーラなら大丈夫と思うが、念の為に忠告しておく。


「くれぐれも自分の身を一番に考えてくれ。身の危険を感じたら、すぐに撤退すること。俺の事は構うな、良いね?」


「それは出来ない。自分の身は自分で守るが、アルリーダーが危なくなったら何を置いても助けに行く」


「だから、それはダメだ!。今回のメインは偵察や探索だ。討伐は二の次だから、何かあればすぐに街の戻ってギルドに連絡するんだ」


「ちょ、ちょっと!、そんなこと言ってるうちに出てきちゃったよ!!!」


急に、エメルダがそう叫んだ。

すると、背の低いモンスター達が林の中から顔を出し始めた。


「チッ!、とにかく今は俺が囮になって注意を引くから、魔法頼むぞ!」


俺はそう言い終えると、剣を抜いてモンスター達が出てきた所に突っ込んでいく。

出てきたのはゴブリンだった様で、少し安心した。ただ、気を抜くことはしない。


おおおおおおおおおおおお――――!と、大きな声を出して気を引き、棍棒を振り上げて近寄ってきた一匹を姿勢をかがめて横なぎに一閃する。


「GAAAAAAOOOOOOO-----・・・」


絶命の一鳴きを聞く間もなく、次の獲物をめがけ突進する。

さっきの悲鳴で仲間が出てきたようで、ざっと見るに十六~七匹はいる。


いくらゴブリンとはいえ、流石にこれだけの数だと俺達では全滅しかねない。

俺はなるべく大きな声と動作で、奴等の注目を集める。


「おらぁ~~~~~~~、こっちだこっちだーーーーーーー!」


俺は息も絶え絶えに、走り回り大声を出す。とにかく目立たなければ!。でないと、彼女達の元に殺到しちまうからな・・・。


よし、だいぶ集まってきた。俺も息が切れてきたから、そろそろだ・・・

俺は二匹目を切り伏せてから、奴等の周りを動き回ってから一気に反転し、彼女達の元に向かう。


「リオノーラーーーーーーー!、今だーーーーーーー!!」


「【風の嵐ウィンドストーム】」


俺がそう叫び、リオノーラが呪文を発した瞬間、俺の真後ろでゴォーーーーーーーーーーッて音と、物凄い風が後ろに向かって吹き荒れた。


「GAOOO???」「KYAAAAAAAAGYAAAAAAAAA・・・」


俺は後ろを見ると、前に見た風の精霊魔法よりも大きい竜巻が、ゴブリン達を巻き上げて行くのが見えた。

俺は、逃げ戻るのも忘れて見入ってしまった。


「す、すげーな・・・」


「で、ですね・・・」


リオノーラの近くにいたエメルダが、いつの間にか横にいて同じく眺めていた。


「ボーっとするな!。奴等を地面に叩き落とすぞ!」


そう言うと、リオノーラは竜巻を消し去る。すると、舞い上がっていたゴブリン達は、瞬く間に地面に墜落してくる。体が頑丈なせいか、落ちてもまだ生きている者もいるが、打ちどころが悪いものは即死している。


俺とエメルダは、まだ息があるゴブリンにとどめを刺して回る。大体、十三~四体は屠っただろうか。

そしてリオノーラだが、少し疲れた様子を見せてはいるが、それでも周りを警戒しながら歩み寄ってくる。


「さすがだな、正直驚いたよ・・・」


「リオノーラさん、凄い凄い!!。あたし、尊敬しちゃう!」


「いや、それもアルが囮になって纏めてくれたお陰だ。エメルダも私を援護してくれていたしな。私一人では、一度のこれだけを倒すことは出来ないさ」


「そうだ、エメルダもちゃんとリオノーラを守りつつ気配を消して、石礫で注意を俺に引かせてくれてたんだろ?」


「あ、もしかして分かってたんですか~?・・・そういう事は直ぐに分かるくせに、あたしの気持ちは分からないなんて・・・ボソボソ」


「いや、それは分かっ――ゲフンゲフン・・・・あ、うん、後ろや横から石みたいなのが飛んできて、リオノーラの方に注意が行かない様に、ゴブリンにぶつけてくれてたよな~」


「うむ、これこそチームワークだな!」


何も気づいていないリオノーラはそう言って、俺達はお互いをねぎらう。

そうして俺達は、一応ゴブリン達の討伐部位を剥ぎに掛かる。




その時・・・


「GYAAOOOO・・・、ギザマラ・・・人間カ・・・?」


まるで地獄から呼ばれたような、掠れた低い気持ち悪い声が森の中から聞こえてきた・・・

その声もそうだが、凶暴な殺気の様な気配に俺達はゾクッとした・・・


「逃げろ!!!」誰が言うでもなく、俺達は一瞬にして道を引き返して走り出した。

勝てない・・・、格が違う。


何度も言うが、今回は偵察だ。討伐目的ではないから、逃げても誰にも文句は言われない・・・はずだ。

それに、さっき言葉を話した。ということは、普通のゴブリンではないのは間違いない。


多分、ホブゴブリンか・・・。まさか、ゴブリンロードとかではあるまいが、どちらにしろ俺達の手には余る。ここで死ぬわけにはいかないので、逃げの一手しかない。


エメルダとリオノーラを先に行かせ、俺は殿を務める。

後ろを見るが、追ってきてはいない。逃げられそうか・・・


しかし、そう思った時点で俺は、フラグは立ててしまっていたらしい・・・

突如、俺の横の森から何か巨大なモノ・・が飛び出してきた!。


俺は辛うじて体を捻って、そのモノ・・を避けることが出来たのだが、たたらを踏み転げてしまった。

幸いに一回転して立ち上がったのだが、そのモノ・・が前に立ちはだかった。


見るとそれは、ゴブリンの二倍ぐらいの大きさで俺より少しデカい。ただ、見た目は粗末な服のような物を着ており、鎧のような物は身に着けていない。

コイツはホブゴブリン・・・・・・だろうか・・・、しかしちょっとマズい、いやかなりマズい・・・・・・


奴は、俺と彼女達の間に入っている。つまり俺達は分断されてしまったのだ。

俺は剣を構えて、とっさに彼女らに叫ぶ!。


「お前らは、早く逃げろ!。俺がこいつを引き付けておく!」


彼女達は大きな声で拒否する旨を叫んでいるが、俺はそれどころじゃない・・・

奴から目を離したら、その場でやられるだろう・・・間違いなく。


くっ・・・やっとここまで来れたのに・・・

いや、ダメだ!!今ここで悔やんでも仕方ない。悔やむのは、死ぬ間際でいい。


今は、どうにかして逃げる事を・・・生き残る事を考えなければ・・・。

俺は戦うことなんか、はなから考えて無かった。コイツとは絶対的な力の差があるからだ。


まだ俺は生きている。なら、今考えうる最善の行動をするまでだ。

そして、せめて彼女達だけは逃げ延びさせる。今は、これだけを考えるんだ!


「おい、バケモノ!!。俺を殺れるもんなら、殺ってみろ!!!!」



俺は剣を構えたまま、渾身の力を込めてホブゴブリンめがけて突進して行った。

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