第6話 コンクールの結果がすごいです

 部室を出ると、たまちゃん――寺下先生に会った。

 手には、コンクールの結果らしき用紙を抱えている。


「おっ! それってT放送のコンクールの結果ですか?」

「そうそう! それでね、なんと入選二人の準特選一人という好成績でした!」

「おおー! M高校の生徒も多く出してただろうに……、すごいですね!」

「佐藤は出してなかったからね、出品した二年生全員が見事賞に入りました―!」


 ちなみに佐藤とは、俺と同じ二年生の佐藤 桃のことだ。

 ダンスが忙しく、あまり部活に顔を出せていないが、それでも来るときには来て作品を仕上げていっている。

 特選に入ったのは、遥。俺と桜は入選だったが、そもそもこのコンクールは県全体から高校生以上を対象に募集するのだ。

 本格的な書道の先生も出しているようなコンクールなので、入選しただけでも凄いことだろう。

 すると寺下……もうたまちゃんでいいや。

 たまちゃんが、財布の中身を確認していた。


「ちょっとお祝いのケーキ買うわ! みんなショートケーキでいいのかな?」

「えっ!? あー……いいと………思いますけど…?」


 早速、自分の車に走っていくたまちゃん。

 というか、もう仕事は終わったのだろうか?

 俺も、とっとと帰ることにしよう。

 駐輪場で自分の自転車を押す。サドルにまたがって進もうとすると、LINEの着信音が聞こえた。

 気になって取り出すと、書道部グループのLINEにたまちゃんからのメッセージが入っていた。


『ショートケーキ買ったよー! 明日はできる限り集合してねー』

「いやこれ、何のためのショートケーキか言ってねぇー」


 まあ明日になれば分かるだろう。それに、桜と遥辺りになら、この後にLINEで教えてやればいい。

 俺は、家に帰ることにした。





 大変な坂道を通って帰り、姉ちゃんと憎まれ口を叩きあって夕食を終えた俺は、自室に籠った。

 遥に特選おめでとう、とでも送ってやろうか。

 そう思い立ったので、LINEのトーク画面を開く。同時タイミングで電話がかかってきた。

 相手は……優斗だ。


「もしもし?」

『もしもし。どう? 順調?』

「順調って……何が?」

『xを探してるんだろ? そのことだよ』


 しまった。うっかり忘れていた。

 いや、勘違いしないでほしい。単に聞くのを忘れていたのであって、決して彼女が欲しくないとかそんなのではない!

 誰に向かって言い訳してるんだと思いつつも、優斗と通話を続ける。


「えと……順調?」

『どうして疑問形だよ(笑) その様子だと、忘れていたんだな』


 何も言えない。事実だもん。

 優斗がさらに続ける。


『まっ、気長にがんばれー』

「うん、そうするよ。……で、電話かけてきた理由は?」

『あっそうだった! ゲームしない?』

「もう少し待ってな。あと、それくらいならメッセージ送ってくれ」


 優斗と通話を終え、改めてメッセージ画面を見る。

 一覧から遥の名前を探して……トーク画面見てたら悲しくなってきた。

 グループやら企業広告、女子との個人LINEが多く、男友達がすくない。

 にも関わらず、彼女がいないのはどういうことか?

 現実から目を背けるように遥とのトークを開く。

 まずはお祝いの言葉っと。


『例のコンクール特選だってさ。おめでとー』


 返信を待つ間に、桜にもメッセージを送る。


『俺と桜、コンクールで入選だってさ。遥が特選。明日のケーキはそのことだって』


 桜のほうはすぐに既読がついた。返信も早い。


『マジ!? やったー! さすがは遥ね!』

『適当にショートケーキでいいってたまちゃんに答えたけど……良かったよな?』

『(^^)d』


 謎の顔文字を最後に会話を終える。

 背伸びをすると、遥から返信があった。


『やった! もしかして先生からのケーキって……』


 さすがは遥。中々鋭い。

 明日の一番の主役に激励の言葉を送ろう。


『そうそう。特選とかホンマにすごいと思う!』

『(ありがとー、と書かれたスタンプ)』

『(がんば! と書かれたスタンプ)』

『(OK、と書かれたスタンプ)』


 最後はスタンプの送り合いになったが、まあ気持ちは伝わっただろう。

 このコンクールは、賞に入ると作品がT放送のCM中にテレビで紹介されるのだ。

 めぼしい番組は録画しておこう。

 さて、そろそろ優斗からのお誘いを受けますか。

 そう思って合図を送ろうとすると、またしても電話。

 その相手は……。


「あれ? 尾崎先輩? 珍しい……」


 相手は尾崎先輩だった。何の用だろう?

 通話ボタンを押して繋げる。


「もしもし先輩?」

『あっごめんね、こんな時間に』

「まだ早いですから大丈夫ですよ。どうしました?」

『えっとね……さっき見せた写真なんだけど、少し違っててね』

「なるほど。じゃあ、代わりのやつ送ってください」

『後で送るね。あと、暇だったら話効いてくれない?』


 学校のアイドルと名高い先輩からの通話だ。

 切ったと知られたら男子連中から何言われるか分かったものではない。

 それに、よく考えたら今だけは勝ち組じゃね?

 優斗には悪いが、しばし先輩との会話と洒落こもうじゃないか!

 その後、先輩から色んな話を聞かせてもらい、通話は終了した。中々に充実した時間だったと思う。

 ちなみに。優斗とのその後だが……。

 二人でFPSゲームをしたのだが、長電話をしていたことと、相手が尾崎先輩だという二点で怒られて(少し妬まれ……ロリコンにも人気の先輩って凄い……)五回ほどチームキルされた……。

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