償い

僕は人に悪いことばかりします。でも人並みに罪悪感はあります。

僕は愚かなので、後先考えず「とりあえずやっちゃえ」と行動を起こしてしまうタイプです。理屈で動くことは、そんなにありません。

そう言う人格からでしょうか、物事を理屈で捉える人間が苦手だったりします。

「これはこうなるからこうすべき」と言われた時、「僕の気持ちは考慮してくれないのか」と腹が立ってしまうのです。短気もいいところです。

そう言う人間に腹が立った時にも、「とりあえずやっちゃえ」の精神で心ないことを言ってしまいます。

さすがに最近は抑えてます。「愛されずに死にそうだよね」とか言いたくなってしまうのを飲み込んで生きています。


人を傷つけた時の償いとは、何が最適でしょうか。

謝ることでしょうか。

相手に何かを与えることでしょうか。

それとも自分が何かを失うことでしょうか。

悪いことをして人を傷つけることが多い僕は、この問題にぶち当たり続けました。

一時期、「謝ることが大事だ」と思っていたので、とにかく謝っていました。

しかし、ある人から「何が悪いか分かってないからとりあえずで謝ってるだろ」と痛いところを突かれたせいで、謝るだけの攻撃はダメになりました。

それからしばらく「悪いことをしたらどうすればいいだろうか」と考え続ける日々が続きました。

そのうち何かを相手に献上すべきか、と言う考えに至りました。しかし、自分がやられた時に「重い」と感じます。却下になりました。

その次に自分が何かを失うべきか、と考えました。同じ理由で却下になりました。

そして答えは出ないままでした。なので悪いことをした時は未だにどうしたらいいかわからないので、心にもない謝罪をします。


ただ、最近答えが見つかったような気がしました。

自分が人を傷つけた時、相手にできる最大の償い。それは、『許されないこと』ではないでしょうか。

軽音楽部に入部した僕は、数多くのライブに出演することで、そこそこ人と話せるようになりました。

バンド活動をしている人間には、色恋のトラブルはつきものです。知り合いからそう言う話を聞かされることもありました。

そこで元カレや元カノの愚痴を言う人間には共通点がありました。

それは、謝られていないこと。もう一つは、やけに活き活きしていることです。

関係が悪化した恋人ほど気まずいものはありません。何かトラブルが起きた時、謝られた人間はあまりいませんでした。

そしてその話をする時、当事者はやけに楽しそうなのです。

しばらくなぜだろうか、と考えた結果、こんな結論にたどり着きました。

人を憎むことは気持ちいいんじゃないでしょうか。

人間はみんな、自分はまっとうに生きてると思いたいでしょう。でも実際には足りないものだらけと言うのが人間です。だから、自分がまっとうに生きてる証として、人を憎みたいのです。

あいつはひどいことをする。あいつはずるをする。あいつは人を泣かす。とにかく理由をつけては、人を責め立てるのです。そうすれば自分が「まっとうに生きていない人間に怒っているまっとうな人間」になれるからです。

僕は、そうなんじゃないかと思います。


今の僕は、謝って済みそうなことなら謝ることにしています。

しかし、本気で憎んでいそうなら、あえて謝らず憎まれてあげています。

その人が死ぬまで、僕が悪者でいる。それが、謝って済まない罪の償いです。

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