イケメン

イケメンがとても憎いです。

顔がいいだけでいろんな人にチヤホヤされる、そこが憎いです。


軽音楽部にもイケメンはいました。パフォーマンスでオーディエンスの女の子の頭掴んで耳元で囁くなんて事してるの見て「自信があってすごいなぁ」と思うと同時に「俺があんな事したら通報されるなぁ」思うばかりでした。

そのイケメンはクソほど歌が上手く、表現力も高く、どの高校の先生も一目置かれる存在でした。

なぜかはわかりませんが、イケメンに限ってスペックが高いです。

恵まれて生まれてきているから、考えも明るくなり、真っ直ぐな気持ちで努力出来るのでしょう。

だからこそ僕みたいな人間を真っ向から否定するのも心が痛まないのです。だって僕は「努力を怠った人間」なのですから。


体育の授業で、バスケの試合がありました。僕は何もできないので、ボールを回されてもどこにパスしていいかわかりません。迷っていたら横取りされ、同じチームのバスケ部はため息をつきました。

試合が終わり、バスケ部の男は僕に近寄ってきました。

「なあ、お前、弟どうした」

僕には双子の弟がいます。こいつもあまり運動は出来ませんが、真っ直ぐな気持ちで努力出来るので、欠けてるところを補える人間です。そのため、行事などでは中心に立てる人間でした。

このバスケ部の男と弟は仲が良く、よく遊んでいました。ただ、この日弟はインフルエンザで学校を休んでいました。そのため、バスケの試合には出れていません。

僕は「休んでるよ」と答えました。するとバスケ部の男は、

「お前はいまどうなんだ」

と聞いてきました。体の調子を尋ねたのでしょう。素直に体調は大丈夫である旨を答えました。すると彼は、

「お前が休めばよかったんだ」

と言い放って彼の友達のところに行ってしまいました。

弟は彼と同じクラスではないので、僕が休んだところで弟とチームは組めません。でも彼はそんなことなどお構いなしに、弟のインフルエンザの事実を使って僕を真っ向から否定したのです。

きっと、その場の苛立ちを何も考えずにその場で解消しただけなのでしょう。

そして、これに関して謝られることはありませんでした。

当時の僕はその場からいなくなりたい気持ちでいっぱいでした。


ただ、イケメンにもスペックが低い人間はいます。

音楽の授業、ペアを組んでギターの弾き語りをすることになり、僕はクラスのイケメンと組みました。彼はギターが苦手でした。

僕はリードギターを担当して、彼にはコードを弾かせました。リードギターは曲の主なフレーズを奏でるものです。対してコードは伴奏で、あまり目立ちません。

僕は本番でリードのフレーズをミスなく弾ききりました。彼もかなり頑張って演奏していましたが、はっきり言って上手とは言えませんでした。

僕はそれが終わって、彼と一緒に教室に帰ることになりました。いざ席を立ったその瞬間、彼に1人の女子が寄ってきました。

「さっきの演奏凄かったよ〜!すごく上手だった」と横の彼を褒めました。

彼はすぐ謙遜しました。いやいや、こいつがリード頑張ってくれたからさ、俺簡単なことしかしてないよ、と。

そう言われた女子は迷うことなくこう言いました。

「そんなことないよ」

僕はこの一言で自分の存在全てが否定された気がしました。

彼の謙遜の内容は「自分は大したことはない。こいつがリードを頑張ったから」というものでした。

それを否定するということは、僕はさっきの発表で大した活躍をしていないことになります。

気にしすぎかもしれません。でも、彼の横に僕はいました。「この謙遜を否定したら彼を否定することになる」という気遣いを、僕にする必要はないと判断されたのです。

このダメージは3日引きずりました。


こうした体験は、僕の精神をゴリゴリ削っていきます。

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