第42話-学生の本分①

 グラルたちは学生だ。

 だからこそ学生の本分というものは、友達をつくり、勉学に励む必要がある。

 そこでアイズはグラルを部活に誘う。


「グラル、部活にいこ」

「ああ。それならトラインも誘ってみないか?」

「トライン? そういえばトラインってどの部活に入ってるんだろう……?」


 アイズは首を傾げてグラルも顎に親指をあてて考える。

 グラルもアイズもトラインが今頃どこにいるのか、それを想像しながら会議室のほうへ向かう。

 会議室のほうではマレーネたち先輩方が待っているはずなので、少し急ぎめだ。


「今度トラインも誘ってみようぜ!」

「うんっ!」


 二人は会議室のドアノブを握って捻った。


「やあやあやあ! さっさと作業始めるよー!! 歴史の研究を! はっじめっるよー!!」


 マレーネの子供を相手にするような口調にグラルとアイズの思考が止まる。


「どこかの子供番組かな!?」

「いや、これは全然違うだろ……!」


 マレーネに背を向けて、コソコソと二人は話をする。

 マレーネはその様子に頬をぷくっと膨らませて、


「や、やあやあやあ! さっさと作業始めるよー!! 歴史の研究を! はっじめっるよー!!」


 さらに一際大きな声で同じ言葉を言う。


「やかましいですよ、部長。少しは後輩の気持ちも考えてあげて下さい」


 一見、寡黙そうなカイがマレーネを注意する。

 アイズがトライン──否、トラインに取り憑いていたバースによって危険な目にあったのは既に周知の事実となっていて、カイはそれを汲んであげたのだろう。

 いつもの様子とは異なって、口元が曲線を描いていた。


「わ、わかったわよ……」

「大丈夫か、二人とも?」


 カイはそっと優しく微笑んで、さっと自分の作業に戻る。


「それじゃあ、二人とも! 新入部員でもやることはしっかりとね!」

「「は、はい……」」


 結局、マレーネは二人に自分の言葉を押し通して、グラルとアイズはがくりと肩を落とす。


 そして、歴史の研究という名前のを終えた時には、既に太陽が沈みかけていて、薄暗くなっていた。




 また明日。授業を終えて、部活に顔を出したグラルとアイズ。


「あ、そういえば! 今度プリアント王国の論文コンペで私たちも出席することになってるから、よろしくね~」

「「は……?」」


 来て早々にマレーネから盛大なカミングアウトを受けた。


「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? どういうことだよ!? って、そもそもプリアント王国ってどこだよ!」

「ぐ、グラル……ここよ。つい最近も授業に出てきたよね? やっぱり聞いてないでしょ」

「まあ、そりゃあ数学じゃないし?」


 グラルは恥とも考えず、軽快に笑う。そんなこんなで、行く先不安だらけの論文コンペが始まるのだ。

 このときのグラルたちには──すべての転生者が一同に会することになるなど、知る由もないのだった。

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数学オタクの転生賢者~すべてはジェットコースターから始まった~ 文壱文(ふーみん) @fu-min12

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