主人公枠から外されたオレ。

第九話 恋のキューピット

 ここで一度オレに課せられた使命をまとめておこうと思う。


 一つはオレは大木桃子、通称モモ会長に撮られてしまった強迫効果のある写真の消去。これはミカンととある協力関係になったことで解決は時間の問題……か?

 ミカンが確実に例の写真を消すことができる訳ではないし、相手はあのモモ会長なので尚更難しいかもしれない。

 でも今はモモ会長の犬となってミカンがなんとかしてくれるのを待つしかない。


 そして問題は二つ目にある。二つ目は大木蜜柑が恋を成功させること。

 相手は中村太陽。クラスで人気を誇っている将来のサッカー部部長候補のあの中村太陽だ。

 問題は彼は既にフルーツ美少女セブンの一人とかなりいい関係になってきている。もしかしたらもう付き合っていたりするかもしれない。


 それにオレはあまり人とよく関わるタイプの人間ではない。自分でもよくわかってる。だから当然中村とあまり話したことはない。

 話したことといえば……。


「佐藤くん、だよね? 一年間仲良くしようね」


「よ、よろしくお願いします」


 と最初挨拶したのはいいもののそれからあまり会話してない気がする。昨日助けてくれたことが最初の挨拶以来の会話だったわけだ。

 つまりオレが大木蜜柑と中村太陽をくっつけることは至難の業なのだ。



 チャイムと同時に四限目の授業が終わり昼食の時間となった。いつもなら売店に駆け込むのだが今日はそれをやめた。

 オレの例の写真を消してもらうためにミカンとの協力関係になったので、オレが何もしないというのは駄目だ。


 オレが席を立ち向かっていったのは中村太陽の席。

 そんなオレを中村は無表情で見つめてくる。何こいつ何しに来たのとでも言いたそうだ。


「どうしたんだい?」


 中村は目で誰かにヘルプを求めているので動揺していることはわかった。

 そのヘルプに応えて女子グループがこちらへと向かってくる。彼女らはよく中村や藤原などの男子と関わっているグループで、フルーツ美少女セブンの一人が取り締まっているある三人グループだ。


 そして先頭を切ってこちらに向かってきたのはやはりフルーツ美少女セブンの桜木さくらぎ芽楼めろん。彼女は自慢の金髪を揺らしながら中村の隣で立ち止まった。


「どうしたの太陽くん? なにかトラブルだったり?」


「別にそこまでのことじゃないさ。……それで佐藤くん、何か用かい?」


 そうだ、オレはとりあえず中村に付き合っているかどうか聞かなきゃならない。だけどそれを今聞くってのはまだなにか違う気もする。


「実はさ──」


「──ねえいいからさ、早く売店いこうよ! 今日は俺が奢るって言ってたこと忘れたの?」


 マイペースすぎるメロンはオレの存在など気にもしないで中村と話を続けようとする。

 彼女の中でオレは完全に空気なのだろう。もしかしたらクラスの大半がそう思っているかもしれないけど。


「勿論忘れてないさ。土曜日のお詫びだからさ」


 土曜日のお詫び? もしかしてお前らもう付き合ってるの?


「でもこんくらいで許してくれるとはおもわないでよ?」


 ……これが主人公か。これが主人公ってやつなんだな? よければオレと中村の立ち位置を交換してほしいものだ。


「わかってるって」


 言いながら中村もオレの存在を忘れたかのように教室を出ようと歩きだした。そして何かを思い出したように立ち止まり、オレの方に振り向いた。


「佐藤くん。話があるなら部活の後にでも話をしよう。君が俺に話し掛けてくるなんて簡単な話じゃないんだろう?」


 確かにすぐ終わるような話ではないし、オレとしても今日その時間は生徒会が終わる時間とほぼ同じなので好都合だ。


「ならそうさせてもらうよ」


 返答を聞いた中村はうんと頷き彼女らと売店へと向かっていった。

 ……リア充め。



 オレもその後すぐに売店に向かい、新メニューの大爆発カレーを注文してそれを受け取り、一人さびしく席に座った。

 中村達もすぐ近くに座っているので話がこちらにまで聞こえてきた。


『太陽くんありがとう!』


『約束だからね。それに一度遊園地に行く約束を破ることになっちゃったし』


『もう、それは許さないからね! あたし、初めて人をデートに誘ったのにさ……』


『それは本当に悪かったよ。でも妹が急病で倒れたんだ。ほっとく訳にはいかないよ』


『それ何回も言わなくてもいいよ。わかってるから』


 自分でも思う。盗み聞きとは趣味が悪い。でも今は中村太陽の情報を集めるのは重要なことだ。それに聞こえる声で会話するのが悪い。


「先輩、手が止まってますよ?」


 そういえばまだこの新メニューの大爆発カレー食べてなかったな。どんな味するんだろ。


「あの先輩、まさか無視ですか? 泣きますよ!」


「ん? オレ?」


 気づけばオレの前方に一人の少女が立っていた。普段この時間に声を掛けられることなどないので無意識にスルーしていた。

 そして冗談っぽく言ったのかと思えば少女の目は本当に少し潤んでいた。


「先輩以外に誰がいるんですか!」


「そ、それもそうだよな……」


 わかんねーよ。


「それでどうしたんだ? もしかしてこの新メニュー『大爆発カレー』を食べに来たのか? すまんがやら──」


「そうです」


「え? 一応今の冗談で言ったんだけど……」


 まさかの即答はビビる。


「実はミカン、ここの売店結構好きで毎日通ってるんですよね。それで新メニューが今日でるって聞いてたのにここに来てみればもう売り切れで……」


 へぇ、毎日……確かに一人異様な雰囲気を漂わせてるぼっちな美少女がいたような。


「ん? もしかしてお前いつも一人でここ来てんの?」


「先輩もいつも一人じゃないですか! ミカンにもいろいろあるんですよ!」


 確かにオレもいつも一人だけど。まさかミカンってオレの仲間だったりするのか? でもそんな人当たり悪そうでもないし──むしろいいほうだろ。


「……ミカンのことはいいんです! それより先輩、例のことちゃんと考えてくれています?」


 例のことって言ったらあれだろ。中村太陽との恋のキューピットになってほしいっていうあれ。


「大丈夫。ちゃんと考えてあるからさ」


「本当ですか? なら今すぐにでも教えてください!」


「今は駄目だ」


「どうしてですか? 意地悪ですか? 確かに私、昨日は例の写真は消去できませんでしたけど」


 まじかよ。本日もモモ会長の意地悪は確定かよ。


「それも本当に頑張ってくれよ……」


「あ、はい。任せてください! ……なら違う理由があるんですか?」


 ガッツポーズまで作っているのを見るにやる気があるのは確か。それに相手はあのモモ会長だし一日でとは思ってない。


 理由か……中村に恋人が既にいるのかどうか今日中に確かめるだけなんだが、中村がすぐそこにいるのでここでそれは言わない方がいい。


「まぁ明日には作戦を実行するから、それまでは心の準備をしておいてくれ」


「……わかりました。絶対ですよ?」


「もちろん絶対だ」


 オレの絶対という言葉を聞いた後、ミカンはオレの隣の席に座る。そして何かを入れてくれと言わんばかりに口を大きく開けていた。


「……どうしたんだ?」


 本当はわかってる。カレーが食べたいんだろう。でも一応確認しとかないと、あとでキモがられるのも嫌だし。ていうかそもそも……。


「先輩は意地悪です」


言いながらミカンは席を立ってどこかに行ってしまった。別にあげてもよかったんだけど、中村がいる前であんなことやこんなことはできない。変な誤解を生んでしまうだろ?

 ……てかあの子ちゃんと昼食食べたのかな。

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ある日突然オレの青春ラブコメがぶっ壊れたんだけど。 まい猫/白石 月 @mainekosiro

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