満腹 お嬢様、恋文!?

 ゴールデンウィークが開けて、校内で見る雪乃はいつも通りのお嬢様だった。お淑やかだし、口調も丁寧、あいさつは“ごきげんよう”だ。レストランのときのように、進んで僕に話しかけてくれることもない。


 やっぱり、僕はこの学校になじめないのだろうか……?


 いままで通り、僕は朝から放課後まで、誰とも会話することなく学校を出た。

 これからの高校生活が、果てしなく続く暗闇に思える。


「やっと来たわね。待ってたのよ」


 校門の横に隠れるように立っていた雪乃が、僕に駆け寄ってきて、胸の内ポケットから何かの紙を取り出した。


 校門前で待ち伏せて、手紙を渡す。

 このシチュエーションって……。

 まさか、ラブレター?


 友達すらいないのに、いきなり恋人ができる。そんなウルトラCだろうか。

 いや、待て待て。これはウルトラCどころじゃない、相手は校内一のお嬢様で、スタイルはモデル級だし、顔もアイドル並に可愛い。

 舞い上がりつつ、視線を下ろすと、紙には網で焼かれる肉の写真が写っていた。

「へっ、肉?」


「なに間の抜けた声を出してるのよ」

「だって、これは?」

「今度は焼肉の食べ放題に行きたいのよ。でも、焼き肉の店って女一人じゃ入りづらいし。一緒に行ってくれるでしょ!」

「最近は一人で来る女性も多いって聞くけど……」

 女一人が浮くとしたら、高校生の男女カップルだって浮くに違いない。

「分からないの? デリカシーがないわね」

「どういう意味?」

「だから、私一人で山ほど食べるのは恥ずかしいから、男のあんたにいて欲しいってこと」

「そんなこと言われても」


「お金ないのなら私が出すわ!」

 焼肉の食べ放題、料金は平日学生割引ガクワリで二千五百円。安くはないけれど、払えない金額じゃない。


「それくらい自分で出すけど、今日は無理だって」

「だったら、いつならいいの?」

 雪乃は一歩も譲る気がないようだ。


 僕はため息をつきつつ、スマホのスケジュール管理アプリを開く。

 画面をタッチしながら、目の前の霧が晴れていくような気がしていた。

 金持ちばかりの私立高校。馴染めるかどうかは分からないけれど、これからの三年間が暗黒ということはなさそうだ。


「早く。いつがいいのか教えてよ!」

 雪乃がじれったそうに、僕の腕を引っ張った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おかわり!! ~金持ち学校のお嬢様は、食べ放題でもエリートでした~ @strider

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ