@twElVE
「しかし、酷いことをする奴もいるもんだなぁ」
「何を呑気に。そして今更そんなこと、わかっているだろう?これまでどれだけそんな事案に関わってきたんだい?君」
「まあ、そうなんだけど、なかなか強烈な部類に入らない?」
杜乃は、今しがた朝霧から受け取ったIDとパスワードでシステムからMeTISにアクセスするところだった。
操作をしながらも、杜乃は返答をやめない。
「そうかもしれないけれども、過激であればあるほど、それはピースであるから、ヒントであるんだよ。これは残虐性に反比例して、意外と解決は早いかもしれないよ」
さも、今日の夕飯はなんにする?というような気軽さで言う杜乃。
「ならそれに越したことはないんだけどさ」
「あと」
と、言って杜乃は、蓮宮に取っても珍しく言葉を濁した。
「…あと、なに?」
「…もしかすると、君の境遇に近い可能性も、私は考えている。朝霧君たちが奔走してくれているが、情報が届くの今日の遅くか、もしくは明日になるとは思うから、今日は実家に行ったほうがいいんじゃないか?週末の土曜日だ」
「…そうかい?」
「うん。天加は拗ねるだろうが、明日はいてもらったほうがいい予感がしている。私の杞憂に終わればそれまでなのだけれど」
「いや」
そこで、蓮宮は椅子から立ち上がった。
「なら、今日行ってくるよ。どうせ、アポなんて取らなくても大丈夫だし」
「それは失礼だろ」
杜乃が笑いながら言って、蓮宮も苦笑する。
「そうだな。さすがに電話くらい入れておくよ。あと、この後一食ぐらいするだろ?電話しながら買い出し行って作り置いたら向かうよ」
「いいのかい?」
「まだ14時半だぞ?大丈夫だよ」
なら、お言葉に甘えて、と言う杜乃の言葉に従い、蓮宮は部屋を一度離れた。
扉を閉めて、少しだけ感傷に浸る。
“…もしかすると、君の境遇に近い可能性も、私は考えている”
その一言は、刺激でもなんでもなく、一切の不快感も纏わずに、もううんざりするほどの眠りから目覚めさせてくれる目覚まし時計から流れてきた喚起のように、彼の過去を、その脳裏に再生する。
真っ黒い壁と天井。
真っ赤な絨毯。
まるでどこかの有名ロールプレイングゲームのラストボスの居室に向かうために施設されたようなその廊下に一歩踏み出して、古びたフィルムが、カタカタと音を立てて、脳内で再生し始めてしまった。
反対側では、どんな夕飯を作ってやろうかと考えているにも関わらず、である。
踏み出す足が、頭のイメージの中にある8mmを回す。映写室のようだ。
天井の隅に埋められた照明がその足を照らし出すから煩わしい。
再生したくない。再現などしたくない忌まわしい記憶。であろう。
しかし蓮宮の頭にも心にも、そんな思いは微塵もない。
それは、自信を今の自身たらしめるために必要な経験であり、薄味の地獄でしかない、と言う強がりなのかもしれなかった。
#WhiteRoom;Beta:"濁" 唯月希 @yuduki_starcage000
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