第六話 智者

「私の名は『ウィジャス』。改めてこの私を図書館の司書にしなさい」


 ウィジャス。ウィジャスかぁー。

 いやー、似てる名前の似てる性格の似てる口調の人間もいるものだ……………。


 ん、な、わ、け、あ、る、か!


「おい、さっきから何を言い争っているのだ」


 とりあえず事態とウィジャスを収拾するために、間に入ろうとする。

 すると思いっきり不躾な目で、ウィジャスがこちらを見てきた。


 青髪青目の眼鏡野郎になっていた。しかも醸し出す雰囲気のせいで完全に知的イケメンになっている。

 なんだこいつ殺してやろうか。


「何ようですかボク?」

「いやお前も同年齢だろ。ってかテメェみたいなガキが司書なんかできんのか?」

「そ、そうですよ!」


 何ようですかボク? って同い年に聞かれる気持ちを知りました。

 知ってどうすんの。


 図書館の人間も俺の介入に怪訝な表情だったが、俺が正論で擁護に回ったことを知り、俺の言葉に賛同する。

 俺としては擁護に回ったというよりか、こいつがウィジャスであるという明確な証拠が欲しかっただけなんだがな。


「もちろんできますよ?」

「ほう? 司書の経験でもあるのか? どこの国にこんな少年を司書にしてくれる図書館があるんだ? ぜひ訪ねてみたいものだ」

「そ、それは………! い、言えません」


 もうこれほぼ確定でいいだろ。

 まあもう一声くらい欲しいというか、俺がアグニだと気付かせる方法ないかな?


「言えないんじゃなくて、したことがないんでしょう!? そんな嘘つきはこの図書館の司書になる権利はありません!」


 少し考えている間に、図書館の人間が鬼の首を獲ったと言わんばかりにウィジャスを責め立てた。

 お前は何もしていないだろう。


「だいたいねぇ……」

「うるさい。少し黙れ」

「ヒッ………!」


 図書館の人間が調子に乗り出したが、イライラしたので黙らせる。

 そもそもこの程度のガキの言葉にビビってるくらいなら尻馬に乗らないでジッとしていればいいものを。


「言えないとは何か隠し事でもあるのか?」

「いや、言っても信じてもらえないでしょうし、笑われるだけですので」

「ほう、笑われるとな。なんだ、前世で司書をしてたとでも言うのか?」

「………っ!」


 というかこいつ、絶対喋れるようになってからみんなに話して笑われたんだろ。

 嫌に実感こもってたし。


「あなたには関係のないことでしょう? 人間如きと馴れ合うつもりはありませんので、目の前から失せてくれませんか?」

「いや、生憎こちらには用事があってな。それより、人間をあまり馬鹿にするなよ。これはこれで存外捨てたものでもない」


 俺の部下でもだいぶ人間を見下していたやつは多いからなぁ。まあ恩も事実も把握せずに「魔族ブッ殺」を唱える連中だし?

 しょうがないと言えばしょうがない。


 まあそんな人間でもいいところはあるからな。そこを見てやって欲しいのだ。


「あなたは何を言っているのですか?」


 ウィジャスは超絶うざったそうな顔をしていた。

 まあそりゃそうだ。急に現れていきなり仲介役の顔をしだした上に、ご高説まで垂れてくる相手がいたらマジでうざい。

 俺だけど。


 ただし、みんなが尊敬する魔王様なら話は違う。

 急に現れたら頭を下げられ、仲介してもらえたら涙を流し、ご高説を垂れようものなら書き留めて額に飾って拝まれる。

 それが魔王というものだ。

 それが魔王というものだった。


「いや、大したことじゃないんだがな?

 転生したのがまさか自分だけとは思っていないだろう? 

 王城図書館の司書、ウィジャス公?」

「まさか、あなたは…………!」


 ウィジャスは目を見開く。

 そりゃな、急に昔の主人が現れたらな。


 ウィジャスは急に膝をついた。


「数々のご無礼をお詫び申し上げます!」

「いや待て待て。ここ公衆の場。もうちょっと周りの人間の目を気にしようか!」


 うん、周りからの視線がいた〜い!

 ほら、図書館の人間も何事!? って顔してるから!


 ウィジャスは頭を上げる。

 ついでに立ち上がって欲しいなぁ。


「ふむ、こいつは俺と用事ができた。司書になる気もなくなったそうだ。騒がせたな」

「い、いえっ。ありがとうございました!」


 敬語になってるよ。まあ別にいいけども。

 

 こうしておれとウィジャスはナハーティーの図書館を出たのだった。



––––––––––––––––––



 とりあえず図書館からでて、そこら辺にあるベンチに座る。

 ナハーティーはいい街だ。煉瓦造りの家が立ち並び、そこかしこで露天商が店を出している。

 住人の邪魔にならなければ、どこでも商売をしていいという方針をとっているのだ。

 自然に人は集まり、大きな街になる。

 そうして発展してきたこの街は、今もたくさんの人が道を行き交っていた。


「まさか転生なさっていたとは……」


 ウィジャスが口を開く。

 その言葉には、いろいろな感情が詰まっていた。


「いや俺も驚きだぞ。勇者どうした勇者!」


 そう、ウィジャスには勇者の補佐を頼んでいたはずだ。

 それがなんでこんなところに……?


「あー、あのゴミですか。私が『では補佐をさせていただきます』と、恥を忍んで出ていったら、『まだ生き残りがいたのか! 死ね!』と言って斬られましたね」

「勇者ェ……」

「あんのクソガキゃ……! 次会ったときは私の図書館でぶち殺してやる」


 いやしかし、見事なまでに俺の話を聞いていないやつだ。ウィジャスが勇者恨むのもよおくわかる。

 というかウィジャスなしで勇者でうまくやってんだろうなぁ?

 やってなかったらぶっ殺してやる。


「で、魔王様? こんなところにいるってことはこの街を占領するんですねわかります。

 そしてそのあとここを足がかりに他の6大都市を次々と占領していき、この国を潰してついでにあの●●ピー勇者も△◯ピーするとわかりますわかります」


 お、おう……。

 相当溜まってんなぁ……。

 まあわからんこともないけれどね? ていうかウィジャスに任せとけばそれも多分実現すると思うけどね?


 でも違う。魔王という役目から解放された俺は自由に生きるのだ。


「いや、せっかく魔王という損な仕事から解放されたんだ。俺は冒険者として自由にやっていく!」

「そーいやあなたそんな方でしたねぇ……」


 あっれ、バレてた? 魔王やりたくなかったのバレてた?

 うまく隠蔽してたと思ってたんだが……。


「部屋にでっかく堂々と『魔王やめたい』って書いた紙を貼って毎日拝んでるの見てましたしね」


 隠蔽できてなかったぞい。

 つか拝んでるの見られてましたか。恥ずかしいことこの上ないな。

 

「まあそもそも私の主なんてあなたひとりしかいませんし? 図書館も入れなかったのでしょうがないからついていきますけどね」


 ツンデレか。

 まあありがたいし、そもそもついて来させる気だったからね。


 ウィジャスは世界中の本を読破したまさに「知識のるつぼ」。これで図書館通わなくてよくなるというものだ。


「ところで魔王様。お父上にバラされ、勇者に封印された力はどうなさるんですか?」


 ウィジャスはよくものに気付く。


「あー、そうだな。暇を見て封印を破りに行きたいとは思っているが……。アレが封印された状態じゃスワーディシュターナのチャクラを使うのが限界だ」


 勇者程度を相手にとるなら、スワーディシュターナでも充分すぎるくらいだ。

 だが、勇者が俺の頼みを聞いていなかった可能性が出てきた。ウィジャスがここにいるのがその証拠だ。

 もしそうだとしたら、魔獣や帝国を相手にしなくてはならない。

 それには最悪でもアナーハタを、それと俺の武器もとりにいかなければならない。


「ほんとを言えば今すぐにでも解放しに行きたいところなんだがな………」

「ああ、わかりますよ。身体スペックが死んでますからね、人間のこの体」


 ウィジャスがうんうん、と同意する。

 そうなのだ。この体は脆すぎる。ある程度鍛えられるところまでは鍛えたのだが、それでも鉄の剣で斬られても傷がつかない程度。

 これではあまりに心許ない。


 この体のせいで無茶ができない以上は、力を解放しに行こうにも、武器をとりに行こうにも時間がかかりすぎる。


 時間をかけて強くしていかなければいけないとかダルすぎる。


 でもしょうがない。とりあえず今は冒険者として依頼をこなしていこう。

 ウィジャスと共に。


「じゃあとりあえず、冒険者ギルドで冒険者登録しに行こうか」

 

 まあまた15歳がどうのとか言われるかもしれないけど、あのジジイならわかってくれるだろ。だってウィジャスも俺と同じくらい強いしな。


 あのジジイとの試練も難なくこなしてくれることだろう。

 

 ジジイの気持ちは分からないが、多分俺と同じ強さのやつを連れて行ったら喜んでくれるはずだ!

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魔王は討伐されました!〜転生したら人間だった!?〜 馬場淳太 @babajunta127

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