第35話


 まず先行するのはリリアーナ。

 ゴーレムが振り下ろす拳を見事なフットワークで回避していく。


 拳は地面に撃ち込まれ、ぼこぼことした穴が出来上がっていく。

 その中でも強く拳が打ち込まれ、ゴーレムが拳を引き抜くのに時間がかかっている隙にリリアーナがボディに向かって思い切り一撃を打ち込む。


「せやあああ!」

 しっかりと地面を踏みしめ、腰の回転を使って、彼女の拳から鋭い一撃が放たれた。


 ドゴンという大きな音と共に、ゴーレムの金属でできた身体に拳が突き刺さり、拳の形にあとを残す。

 彼女の拳の勢いで数歩吹き飛ばされ、たたらを踏むゴーレム。


「そ、その程度!」

 エルフの拳にゴーレムが吹き飛ばされたことに焦りつつもローブの男が、離れた場所からゴーレムに魔力を送る。


「ほう、これはすごい」

 男の魔力に反応するように光ったゴーレムのダメージが魔力で修復されていく様子にユウマは感心していた。


「も、もう、感心してないでなんとかして下さいよ!」

 困った様子のリリアーナはゴーレムの攻撃を避けながら攻撃を当てていくが、全てローブ男によって回復されてしまい、ダメージを与えられていない。


「あー、わかったよ。”展開、石石石石”」

 ユウマは石を出現させ、それらをローブ男に向かって放つ。


「なっ!?」

 何もなかった空中に突如として現れた石。それがローブ男の手、足、腹、顔に飛びかかる。


 ゴーレムは確かに強力だったが、それを操るローブ男に戦闘能力はなく、なすすべないまま全て命中していく。


「がはっ……」

 そして、ローブ男は頭に当たった一発で気絶してしまった。それと同時にゴーレムは動きを止める。


「ふう、終わったな。俺はゴーレムの核を抜き出しておくから、リリアーナはこいつを縛り上げておいてくれ。”展開、縄”」

「わかりました」

 二人はそれぞれのいる場所を交代し、すれ違うところでユウマが縄を渡した。


「こうしてこうしてっと」

 縄を受けったリリアーナは変な動きができないように、ローブ男をぐるぐる巻きにして、後ろ手に縛りあげる。


「さて、ゴーレムの核を抜き出すか。”収納、核”」

 一方でユウマは動きを止め、膝をついた状態で止まっているゴーレムの胸のあたりに手を当てて収納魔法を発動させていく。


 すると、手を当てているあたりが光り輝き、そこから核が浮かび上がっていく。

 

 ゴーレムを動かすために術式が組み込まれていたが、ユウマの魔法にそんなものは関係なくあっさりと収納されていった。


「これでゴーレムが動くことはないだろ……そいつが、黒幕かどうかはわからないが少なくとも黒幕の一味だろ。だから連れていかないとだろうなあ」

「ですよねえ……起きたら自分で歩いてもらうことにしましょう」

 どちらかが担いで運ぶとなると、かなりの労力を要してしまうため、それが最善だと二人は判断する。


「と、その前にこの通路の奥に何があるのか調べてみるか」

「それでは、私はこの人の見張りをしていますので、ユウマさんにお願いしてもいいですか?」

 奥に移動している間に男が目覚めて逃げ出すことを考えたリリアーナがそう提案する。


「了解。変な動きをしたらぶん殴ってやれ」

 ユウマはパンチを打ち出す動きを見せて、笑いながら通路の奥に向かって行った。


 さほど広くない通路はしばらく続いており、壁に手を当てながらユウマはゆっくりと進んでいく。


「――ん? なんか、ここ……」

 手を当てていたからこそ気づいたことだったが、一か所、といっても扉一枚分くらいの範囲はあったが、そこだけ素材が違うことに気づく。


「どこかにスイッチか何かがあるのかな? まあ、いいか。”収納、壁”」

 ユウマが収納魔法を使用すると、他とは別の素材でできている部分が収納されていく。


 偽装されていたが、その奥はまるで家のようにいくつかの部屋がある。

 一人で過ごすには広すぎるほどの間取りだった。だが誰の気配も感じられない。

 右手には何やら研究室のような部屋があり、書類や何かの専門書が散乱していた。


 その内一枚の書類を手に取ると、ゴーレムについての研究が記されている。


「これは、さっきのローブ男のやつか。まあ、何かに使えるかもしれないから全部収納しておこう。”収納、書類”」

 部屋の中にあった書類をひと通り収納し終えると、ユウマは別の部屋へと向かって行く。


「ここは、食事をするところだな。特に見るものもなし」

 といいながら、ユウマは手際よく食料を収納していく。

 あのローブ男だけならば何か月も籠城できそうなほど充実していた。


「これは……」

 そして、一番広い部屋に到着したところでユウマは驚く。


 部屋の中心に大きなテーブルがあり、乱雑に置かれたカップのほかに、街の地図が広げられている。

 近くにあったソファの近くには飲み物が入っていたであろうビンが乱雑に転がっていた。


 そしてユウマが視線を向けた地図にはいくつかの家に丸印がついていた。


「これは、ボブスの家も入ってるのか。ということは、これが呪いの対象ってことになるな……」

 事前に計画して、目標の家の者に呪いをかけている。そのことがこの地図からわかる。


「こっちのやつは呪いの元か?」

 奥の箱には、何やら怪しい力を感じる小瓶が入っていた。

 透明な小瓶の中には紫色の液体が揺らめいて入っている。


「……これも証拠として持っていくか。”収納、小瓶”」

 その小瓶、そしてその他の地図なども全て収納してユウマはリリアーナのもとへ戻っていった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る