第34話


 何か言いたげであったマリアスを置いてギルドマスタールームを出た三人は、すぐに行動に移っていく。


 タイグルはまず件のボブスに会いに行き、そこから情報収集を開始していく。

 ユウマとリリアーナは街で馬を借りると西の洞窟に向かって行った。


「なあ、どう思う?」

「洞窟のほうですか?」

「あぁ、明らかに罠なのはわかりきったことだが……」

 洞窟までの道すがら、ユウマは眉間に皺を寄せている。


 わざわざ洞窟におびき寄せることにどんな意味があるのか? そこにユウマは疑問を持っていた。


「確かにそうですね。金品などが目的であれば、呪いをネタにして治すから金を、といえばいいでしょうし。こんな遠回りをする必要はありません」

 ユウマに言われて、リリアーナも今回の一件に対して疑念を強めていく。


 洞窟まで向かう途中、何体かの魔物と遭遇するが、ユウマの射出した剣によってあっという間に掃討したため、移動速度を下げることなく進むことができた。


 洞窟が見える頃には既に夜中になっており、二人は離れた場所で一夜を明かすことにする。

 もちろん、ここでも城で手に入れた聖域のテントを使用することでまるで宿に泊まったかのごとく快適な睡眠をとることができていた。





 翌朝、考えてばかりでも始まらないと、二人は洞窟の中へと足を踏み入れていく。


「特に、なんてことのない普通の洞窟か」

「みたいですね。特におかしな気配も感じませんね……」

 これまた城で手に入れた松明を持って洞窟を進んでいくが、魔物と遭遇することもなく二人は順調に奥に進んでいた。


 洞窟はまっすぐな一本道で形成され、自然な形で切り抜かれたであろう岩でできた空間だった。

 二人の歩く足音が一定間隔で響く程度の静かな場所だ。


 それこそ順調すぎて、おかしいと思うほどに。


 道なりにしばらく進んでいくと、ちらほらと淡い光が見えて来た。


「なんだ? 明るい……」

「もしかしたら、壁に光るコケが群生しているのかもしれませんね」

 リリアーナは自分の知識の中にあるヒカリゴケの情報を口にする。

 古い洞窟では割とよくあることで、自然か意図的かは不明だが広いエリアの壁には灯り代わりにコケが生えていることがある。


「なるほど、な。しかし、見通しがよくなったってことは……」

「はい」

 何かの予感を覚えながら二人はそこから無言のまま開けたエリアに足を踏み入れる。


 事前に話していたとおり、壁にはびっしりとヒカリゴケが生えている。

 淡い光も集まれば光源として十分な役割を果たしていた。


「”収納、松明”」

 これだけの明るさがあれば、松明を持つ必要がないため、それをしまう。


 しかし、これが引き金となった。


「な、なんだ?」

「こ、これは魔法陣!?」

 ユウマの収納魔法をきっかけに、エリアの地面に描かれていた魔方陣が発動する。

 それは文字の形に赤い光を放っている。


「ユウマさん! 奥に誰かいます!」

 このエリアからは更に奥に繋がる通路があり、そこに黒いローブを纏った男が立っていた。


 ぬらりと立つローブ男はニヤリと笑う。

 獲物が自らやってきて、罠に引っかかってくれた。

 そんな滑稽な姿は笑いを誘う――彼はそう思っていた。


「ユ、ユウマさん、どうしましょう!?」

 今にも泣きだしそうな表情でリリアーナがユウマにすがる。

 そんなことを話しているうちにも、禍々しい赤色は強くなってきている。


「大丈夫だ。”収納、魔法陣”」

 ユウマが地面に手を当てて魔法を唱えると、赤い光は一瞬で焼失する。

 泣きそうだったリリアーナの涙も一緒にしまわれたかのように引っ込んでいた。


「……はっ?」

 そんな中、一人間抜けな声を出したのはローブ男だった。


 彼はこの魔法陣をつくるために、丸二日をかけていた。

 一度作成すれば、何度も発動できる強力な魔方陣だったため、その労力もなんとか乗り越えることができた。

 発動した際に、魔法陣の上に乗ったものの生命力と魔力を吸収する魔方陣――彼にとって最高傑作である。


 それが、いとも簡単に、それも一瞬のうちに消えてしまった。


「まあ、こんなもんか……それで、お前は何者なんだ?」

 なんてことないようにつぶやいたユウマはいつの間にか取り出していた剣を手にして、その先端をローブ男に向ける。


「くっ、一体何が……貴様らは何者だ!」

 ユウマの質問に答えることなく、舌打ちをしたローブ男は質問を返してくる。


「いや、俺が先に質問したんだけど……まあいいか。俺たちは冒険者だ。街で具合が悪い人がいて、それを助けるにはここの洞窟にある水が必要だって聞いたもんでな」

「くくくっ、それを信じてわざわざやってきたということか。ご苦労なことだ」

 ローブ男はユウマを馬鹿にするような口調でニヤリと笑う。


「あー、まあそれが嘘だっていうのはわかってるけどな。具合が悪い人が出て、それとほぼ同時にこの洞窟に助ける方法があるなんて、あからさますぎて笑えるだろ」

 今度はユウマがあえて悪い笑顔を浮かべる。


「くっ……! だ、だがやってきたのはその通りだろ! ここは俺たちの得意とする場所だ! いけ、ゴーレムたち!」

 悔しそうなローブ男が何とか形勢逆転を狙おうと持っていた杖を掲げると、後ろの通路から数体のゴーレムが現れてユウマたちへと向かって行く。


「リリアーナ、ゴーレムってのは強いのか?」

「えっと、石や金属でできているので防御力はかなり高いと思います。もちろん硬い身体から繰り出される攻撃も強力だと思います」

 見た目からわかる情報ではあったが、リリアーナは真面目に説明をする。


「じゃあ、弱点は?」

「身体のどこかにあるコアを破壊することだと聞いています。その場所は制作者によって違うようです」

「なるほど、それじゃ……いっちょやりますか!」

「はい!」

 ユウマは剣を構え、リリアーナは拳にナックルを装着して戦いが開始する。


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