第18話


 宿に部屋をとった二人はそれぞれが置かれている状況についての確認を行って行く。



「さて、これから一緒に行動するとなると俺が置かれている特別な状況について話しておいたほうがいいだろうな」


 腰を据えて話せる場所についたことで、ユウマは自分が勇者として召喚されてからリリアーナと出会うまでのことを話そうと思っている。



「――待って下さい。ユウマさんが色々と抱えていて特別な方だというのはなんとなくわかっています。それを先に聞いてしまうのはフェアではないような気がします。なので、私の話からしてもいいですか?」


 助けてもらって、力を認めてもらって、お金を出してもらって、仲間にしてくてとユウマに世話になりっぱなしであるため、リリアーナはまずは自分のことを話したいと思っていた。



「あぁ、それは構わないけど……まだ何かあるのか?」


 以前にも魔法が使えない話は彼女から聞いていたため、ほかに何かあるのかユウマは尋ねる。



 コクリとリリアーナは頷き、真剣な、そしてどこか苦しそうな表情で語り始める。



「私は前にも言いましたが魔法を使うことがほとんどできません。魔力を流したりはできるのですが、これはエルフとしては致命的なんです……」


「なるほど……」


 ユウマは殴りエルフカッコイイと前に言った自分に恥ずかしさを覚えながら相槌を打つ。



「というか、その、私、正確にはエルフではなくて、あの、ハ……」


「ハ……?」


 言葉が止まってしまったリリアーナに対し、ユウマは最後の一言をオウム返しする。



「――ハーフエルフなんです!」


 勢いをつけたからか、ギュッと目をつむったままリリアーナはやや強めの口調でその事実を告げる。



 エルフが他種族と交わることは禁忌と言われている。


 ましてやその間の子どもとなれば忌み嫌われる存在であった。


 リリアーナがまともに魔法を使えないのもそれが原因である。



「へー、そうだったんだ」


「あれ?」


 しかし、ユウマのリアクションは決死の覚悟で告げたリリアーナの予想と全く違うものだった。



「ちなみにエルフとどの種族のハーフなんだ?」


「え? えっと、聞いた話では虎の獣人だと聞いています。見た目の特徴は出ていないんですけど、ユウマさんにも見せたあの力が獣人のものらしいです……」


 再びユウマの頭には殴りエルフという言葉が浮かぶが口にはせずに飲み込む。



「まあ、魔法が使えないのは問題なのかもしれないけど、あれだけの力があれば十分戦うことはできるんじゃないか? だったら、そんなに悲観するようなことでもないような……」


「ユウマさんはお優しいですね……私がハーフエルフと知っても全く反応を変えないでいてくれて……」


 これまで受けていた対応とは明らかに違うユウマの態度は彼女の心に温かいものをもたらした。


 ふにゃりと笑ったリリアーナは目尻に涙を浮かべていた。



「あー、もしかして普通はハーフエルフって聞いたら変な顔をするものなのか?」


「えっ? も、もしかしてユウマさんはハーフエルフがどういうものなのかご存じないのですか?」


「もちろん」


「あ……えっと、簡単に説明しますとエルフとは種族としての血を大事にします。なので他種族の血が混じることを酷く嫌うのです。いえ、嫌うというのは優しい言い方ですね。憎んですらいるのです。なので、私という存在は……」


 そこまで言って、改めて自分のことを情けなく思ったリリアーナは肩を落としている。



「なるほどな。よし、それじゃあ次は俺の話をしよう」


 リリアーナが本来であれば人に言いたくない話を打ち明けてくれた。


 しかも、理解していないユウマにきちんと説明までしてくれた。



 となれば、ユウマも誠意をもって説明する必要がある――そう考えていた。



「俺の話も驚くところがあると思うけど、とりあえず最後まで聞いてくれ」


「わ、わかりました!」


 ユウマが覚悟を持って話をしていると感じているリリアーナは表情を引き締めて返事をする。



「――俺は、この世界の人間じゃないんだ」


「!?」


 最後まで聞いてくれと言われているため声には出さなかったが、衝撃的な話であるため口に手を当てながら顔では全力で驚いていた。



「地球っていうところから、学校のクラスメイトと一緒に城に召喚されたんだ」


 リリアーナはただただコクコクと頷いている。



「みんなはとんでもない職業に、とんでもないスキルをいくつも持ってるなか、俺だけは職業収納士で使えるのは収納魔法。ただものをしまえる使えない能力だからってことで、汚い部屋でしかも鍵をかけられて、しまいには役立たずは殺そうって話にまでなっていたんだよ」


「ええっ!? で、でも大丈夫だったんですよね? 幽霊……ってことはない、ですよね? 足があるから生きてますよね? 温かい……生きてます!」


 衝撃的な話を聞いたリリアーナはユウマに近づくと、肩を触り、手を触り、足を触って体温を感じたところで生きていることを確認する。



「まあまあ、少し落ち着こう。”展開、紅茶セット”」


 ユウマは城で入手しておいた紅茶セットを取り出すと、高級なカップに注いでリリアーナに渡す。



「あ、ありがとうございます……美味しい! もしかして、これもお城の?」


「あぁ、色々拝借してきたからな。で、続きを話すとどうやら城を脱走したやつっていうのは命を狙われるらしいんだよ。この街はあの城から結構離れているから平気だとは思うけど、そのせいでリリアーナのことを巻き込むことになるかもしれない……」


 最後の部分がユウマが気にしていたことであり、視線をリリアーナから逸らしながら口にしていた。



「っ……なに言っているんですか! 私とユウマさんは同じパーティなんです、仲間の問題は私の問題でもあるんです! だから、一緒に頑張りましょう!」


「この街から移動することになるかもしれないが、いいのか……?」


「もちろんです!」


 心配そうなユウマの質問に彼の手をぎゅっと握ったリリアーナが力強く即答する。



「もしかしたら、どっかの国に反逆することになるかもしれないが……」


「構いません! そもそも私はエルフの国を追い出された身で、特定の国に所属していません!」


「ははっ、それは頼もしい」


 エッヘンと胸を張って、安心させようとするリリアーナにユウマも苦笑していた。




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