第10話 くろーと

 「それってアレだろ?」


 土曜日。


 俺は、間中と駅前のハンバーガー屋で昼食を共にする。


 俺たちは、すっかり休みの日にも落ち合う間柄になっていた。


 「知ってるのか?」


 間中は流行に敏感らしく、ネット上での有名人のことも、すぐにピント来てい

た。


 それってアレの正体。つまるところ、俺が少しだけ、本当に少しだけ気になってい

た黒髪女の正体。


 「クロートちゃんだよ、たぶん」


 「くろーとちゃん?」


 一方の俺はというと、全くピンと来てなかった。


 「え? ヒデっち知らないの?」


 「ヒデっちってなんだよ」


 「いや、今そこじゃなくて。…彼女は、有名なネット配信者で、ゲームの実況から

歌まで、多方向に活動してる人なんだよ」


 「へえ、なんかすごそうだな。テレビとか出てる人?」


 俺は感心しながら間中に質問すると、心なしか、少しだけムッとしているよう

な、はたまた自分が持っている知識を披露できて気分がいいような感じだった。


 「テレビには出てないけど、ネット界隈では超有名なんだよ」


 ネット界隈って、たかが電波を通しての遊びだろうに大げさだな。


 「テレビに出ない人でも有名なんだ」


 「だからそうなんだって。ヒデっち、歌い手さんの動画とか実況とか見たことな

いの?」


 「んんん?? ちょちょちょっ、なんてなんて?」


 俺は聞きなれない言葉を追いかけるのに必死だった。


 「あれ、もしかして、ヒデっち。あ~、やっぱり、…そういう人か」


 間中は、大きなため息を吐くが、がっかりしているわけでも怒っているでもなく、

どこか嬉しそうだった。


 「なんだよ?」


 「家にいるときはゴールデンのバラエティ番組とかリアルの俳優が演じるドラマ

とか見てるだろ?」


 「ああ、よく分かったな。最近のテレビは面白いんだよなあ。特にお笑い芸人。

一発屋で終わりそうなんだけど一人面白い人がいてさ…」


 「そうじゃなくて! ネットで活動してる歌い手さんとか知らないでしょ? そ

の人たちの動画もちゃんと見といたほうがいいよ! テレビ番組なんかよりそっち

のが絶対面白いから!」


 「それはお前の主観だろ…」


 本当にこいつは、ネットが好きなんだな。普段よりも八割増しで口数が多いし。


 「ヒデっちもクロートちゃんの動画観てみなよ! めっっっちゃ面白いからさ

っ!」


 「ああ、ちゃんと観とくよ…」


 しょうがねえ、俺もネットとやらを観てやるか。


 ヒーローに襲われる前に…。

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