第3話 始まりの町

 勇者と魔王はなんとか魔王城から脱出して、始まりの町へと瞬間移動の道具を使い着いていた。


「つーかさ、魔王よ...そろそろ服を着ろ!」


「余だって着たい!、こんな時間に幼女が全裸で徘徊なんて考えただけで犯罪の匂いがするしな!」


 そう、とっくに日は暮れていて、町は夜の姿を見せていたのだ。


「とにかく俺の家にこい、俺の昔の服がまだあったはずだ」


「やだ〜、汚される〜」


 魔王らしかぬ子供のような声で目をウルウルさせている。


「汚されるも何も、今は俺も女だろうが!」


「全裸の幼女を家に連れ込むなんてこの変態!強姦魔!ドスケベロリコン紳士ィィ!」


「よくもそれだけの言葉が次々にでてくるな...、なんだ?お前はそういうノリを持ってきてほしいのか?」


「ち、違うもん...」


 魔王は下手くそな口笛をしながらそっぽを向いた。

 勇者がため息を吐くと不意に声をかけられた。


「...ユウリ?」


 勇者はドキッとした表情で後ろからの声に汗をタラタラと流していた。

 魔王は勇者の後ろに立っている赤髪の少女に目をやる。

 身長は大体女体化した勇者と同じで、長い赤髪を腰のあたりまで伸ばしている。


「ユウリよね!、いつ戻ってきていたの?」


 赤髪の少女は勇者の手を握りしめてくる。


「人違いじゃないですよね?..」


 勇者だと確信を持てていないのか少し礼儀よく言ってくる。

 勇者はなんとか誤魔化そうとするが、どうにも上手い言い訳が思いつかない。

 なんとなく察した魔王は目を輝かせながら勇者に耳打ちする。


「この子がお前の彼女か?」


 勇者はヒソヒソと答えてくる。


「そうだ、余計なことは言うなよ...、特にお前は信用ならないからな」


 勇者は深く深呼吸をして覚悟を決めて振り返る。


「ただいま!、レスカ!」


 レスカは変わり果てた勇者の姿に空いた口が塞がらないようだった。

 当然だ、男だった彼氏が気がついたら女になっていたのだから。


「ユウリ...よね?、どうしたのその姿、それにそっちの子は?」


「ああ、話せば長くなるんだが...」


 勇者がレスカに話し始めようとすると魔王が横槍を入れてくる。


「レスカと言うのか貴様は、我が宿敵勇者の恋人なのか、ならば我が敵ということなのだが、汝は見た目が良い、勇者などではなく余に仕えぬか?」


「人の恋人に手を出すなよ!、このクズ魔王!」


 つい口が滑ってしまう勇者。


「魔王...?」


「いや、これは...、そうそうこの子はマオって言うんだけど、どうやらこの街で盗賊に身ぐるみ剥がされてしまったらしいんだ、それで俺は勇者としてこの子を救ったってわけだ」


 疑わしく勇者を見るレスカ。

 勇者はごくっと息を飲み冷や汗を流す。

 しばらくするとレスカはやれやれと言うように手を動かす。


「どうせユウリのことだから面倒ごとにまた巻き込まれたんでしょ、私も手伝うから今度は置いていかないでよね」


「ああ、2年越しに謝るよ...、本当にごめん」


 レスカはふふっと笑うと魔王の方を見て屈み目線を合わせる。


「マオちゃん、一人で寂しかったよね、でも大丈夫!、これからはお姉さんとそこの勇者があなたの力になってあげるからね」


 レスカは魔王にウィンクをしながら誓っている。

 流石の魔王もここは空気を読む。


「うむ、くるしゅうないぞ!」


 魔王は満足そうな顔をする。


「とりあえずマオちゃんの服を取りに私の家に行きましょうか、私の昔の服がまだあったと思うから」


 レスカの提案に乗った俺と魔王。

 魔王は俺に殴りたくなるニヤけ顔を向けてくる。


「勇者よ、お前も隅に置けないな、あんなに可愛くて美しい娘を町において一人で旅してくるなんてな」


「仕方ないだろ、彼女には剣を振るって欲しくなかったし、俺が一人で世界を救えばレスカには戦いを強要しなくて済むと思ったからな」


「だからって本当に一人で魔王城まで攻め入ってくるとは思わなかったぞ」


「まあ、レベリングにあれだけ集中する勇者についてきたい奴なんかいなかったしな、レスカが変わり者だっただけさ」


 そんな勇者と魔王のやり取りを見ていたレスカは少し羨ましそうに二人を見つめていた。

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