第59話 仲直り?

 PTメンバーはどんなに離れていても、マップを見ればどこにいるのかすぐにわかる。

 同じPTである黄色のマーカーが、位置を示してくれるからだ。


 が、合流したものの、斜に構えて反省の欠片もない態度のツヴァングに、はやくもヴィルフリートがキレた。


 ツヴァングは知らないけれど、昨夜、タイミングよくPT加入申請を出してしまい、ヴィルフリートの告白を邪魔をされた恨みもあっただろう。


「殺そうとしてゴメンナサイ」


「死ね」


 ツヴァングが謝る前から、既に殺気を漲らせたヴィルフリートの手には【カリス・ウォイド】が握られているし、背後に飛びのいて避けながらツヴァングも抜け目なく【ジャッジメント・ルイ】を装備している。


「心行くまで、ごゆっくりどうぞ」

 

 かくして第2戦:ヴィルフリートVSツヴァングのゴングは、切って落とされた。


 ダンジョンでのやりとりだけでなく、これまでのお互いの鬱憤もあるのだろう。最初から出し惜しみのない本気モードだ。


 【カリス・ウォイド】の一突きで前方の木々がなぎ倒され、紙一重で避けたツヴァングがオリハルコンの魔弾を放ち、散弾銃が辺り一帯を焼野原にする。


 強スキルを惜しみなく使いたい放題なので、見事だった森林があれよあれよと破壊されていく。


 その間、自分はというと苦手な治癒士になって、2人から少し離れた位置から同じPTの仲間?同士が戦って死なないように、HPバーが半分近くまで減ったら回復魔法。


 幸いにも今いる場所は『ジルの森』と呼ばれ、広大な森林が広がっている。街や建物を壊したりする心配はない。こんな森の奥に来る者も滅多にいないだろう。


 ヴィルフリートは新しい槍にまだ慣れていないのでその練習。ツヴァングも先日のダンジョン攻略は別として、半年ぶりのPTだ。戦闘感覚は戻っているとは思えない。


 好きなだけ暴れたらいい。


「ふぁ……」


 大きな欠伸がでた。


(いい天気……。なんだか眠くなってきた……)


 空を見上げれば、青い空に白い雲が流れていて、風も気持ちいい。

 こんなほのぼのした景色に、2人のむさ苦しい戦闘音だけが残念なので、ミュートギリギリまで周囲の音を消しておく。


 この様子だと、2人の喧嘩は今日一日続きそうだ。 

 たまにはこうしてのんびり過ごす時間があってもいいだろう。


 ハムストレムのダンジョンより、ピピ・コリンの裏ダンジョン攻略は、けっこうしんどいものがあった。


 それが後々に騒ぎになっていると知るのは、もう少し先のことだった。






  夕方になっても2人の#挨拶__喧嘩__#は終わる気配を見せなかったので、シエルが強制的に終了させた 。心行くまでどうぞ、とは言っても、こちらは夜になれば流石に寝たい。


 というか、回復に飽きた。


 ヴィルフリートたちが散々暴れた場所から移動して、今夜も野宿である。

 焚火を焚いた周りに腰を下ろし、夜食はピピ・コリンである程度まとめて買った食料をアイテムボックスの中に入れていたものを食べる。


 その間に、ツヴァングの立ち位置について、ヴィルフリートに説明した。


(いきなり強くなったのもだけど、何で和解できたのか何も知らなかったら、ヴィルも納得できないだろうし。でも説明難しい……。苦手だ……)


 こういう難しいことは、もっと説明上手な人がすればいいと思うのだけれど、自分以外に人がいないのが現状で。

 というかこういうのは、他人ではなく本人が説明するべきものではないのだろうか?


「つまり~、ツヴァングの中には、ロクデナシ放蕩息子の『ツヴァング』と、自分が来たのと同じ世界の『ツヴァング』がいて、リアルの記憶を取り戻せたことで強くなったって流れかな」


 考えながら説明してはみるものの、上手く説明できているか非常に自信がない。

 ツヴァングも自分のことを説明しているんだから、補足とか入れてくれてもいいのに、焚火を落ちていた枯れ木の棒でつついて我関せずだ。

 

 腹が立つけれど、それでまた2人が喧嘩し始めたら面倒なので、放っておくことにする。


「要約するぞ?ツヴァングは、シエルと同じ神の1人ってことなのか?」


「だいたい合ってる。神っていうほどではないけどね。この世界の人間の中に心だけ遊び来てたら、そのまま世界に取り込まれてリアルのことをすっかり忘れちゃってた感じ。だから自分みたいなデタラメな強さは無くて、この世界でヴィルみたいな強者の類に入る人たちと同格。ただし、リアルの記憶はあるから、アイテムボックスとかシステムも自由に使える」


「ふむ。人の心の中に遊びに来てた、ね……。ならどうして同じ世界から来たシエルを、このアホは消そうとしたんだ?」


「元の世界で働いて過ごすより、こっちで遊んで暮らしたいんだって。なのに自分が来ちゃったもんだから、元の世界に強制送還されると早とちりして、ケンカ売ってきたんです」


「結局ロクデナシってことか」


「デスネ」


 身も蓋もない言葉だが、擁護の余地もない。

 ヴィルフリートが白い目で見ているが、ツヴァングは涼しい顔で受け流している。


 ツヴァングが自分と同じ世界から来たと説明していた当初は、ツヴァングを兄の啓一郎と同格の神とか誤解しかけて、驚愕と畏怖の眼差しになりかけたけれど、丁寧に「そうじゃない」と詳しく説明したら、元の「ロクデナシ」に戻った。


 ツヴァングも自分のした説明に補足は入れないが、かといって訂正も入れず黙っているのなら、自分の説明でだいたい合っているのだろう。


「それでね、ツヴァングみたいに、この世界に心が取り込まれてリアルの世界の記憶を忘れていたり、運よく思い出している人のことを<プレイヤー>っていうのね」


「ツヴァングみたいな神様モドキが他にもいるってことか?それなら、俺たち以外で裏ダンジョンの魔法陣発動条件のPTを組めるやつらは、プレイヤーってことに?」


「その可能性は非常に高いね」


 本当にヴィルフリートの飲み込みの速さは感嘆に値する。環境の順応力が飛びぬけて高い。


(ソロだと臨機応変、順応力が生き抜く鍵だもんね~。コミュ力も高いし、あとはアレさえなかったらパーフェクトMANだったわ………)


 昨夜のことを思い出し、そっとまた心の中に封印する。

 突然の告白にはものすごく驚いた。混乱しすぎて頭がいつになく冷静になってしまうほどに。


 しかし中身は恋愛経験ゼロ。誰かと付き合ったこともない。

 どう対処していいか分からない。なので、ヴィルフリートのご厚意に甘えて、しばらく封印することにした。


「だったらこっち来ないで、ピピ・コリンでまた遊んでいればいいだろ?それをわざわざ」


「おっと!いい質問きました!それは自分も知りたかった!なんでわざわざこっち来たの?」


 ここぞとばかりに質問の矛先をツヴァングに向ける。

 自分としてはツヴァングがリアルに戻らず、アデルクライシスでだらだら過ごすのは、全く構わない。今後この世界がどうなるのか分からないけれど、それを分かっていて居残るのなら自己責任でお願いします。


 なのに、悠々自適に暮らせるハズのピピ・コリンを出て、旅を続ける自分たちのところにやってきて、また同じPTに入る理由が分からない。


(お金は困ることはないけれど、ニートを養う気はないよ?)


 酒飲んで、だらだらしたいだけならPTに入らずにどこか気晴らしに旅でもすればいい。 鑑定のスキルがあってそれなりに名前も売れているなら、どこでもやっていけるだろう。


「街に転移された裏ダンジョンのモンスターを俺が倒しただろうが。あれで騒ぎになって居心地わりぃんだよ。シエルだって俺の店に逃げ込んできたんだから、それがどれくらいウザいか、知ってるだろ?」


「それは自分も体験済みだから気持ちは分かるんだけど、だったらあと少し待てば、みんな熱が冷めて忘れるんじゃない?」


「あの後、ザナトリフが街を救ったから勘当解いてやるとか偉そうに言いに来た」


「わぁー。上から目線、さっすがー。貴族のお手本デスネ。街の話題大盛り上がり(棒読み)」


 ワザと仰々しい言葉を選んで、口調は棒読みだ。

 ツヴァングが心底ザナトリフを嫌っているのが、言葉の端々から見て取れる。偽の記憶とは言え、ツヴァングとザナトリフの親子関係は完全に崩壊しているらしい。


 自分が直接ザナトリフに会ったことはないけれど、さぞかし厳しい性格が伺える。元々自由なプレイスタイルを好むツヴァングの性格からすれば、当然相容れないだろう。

 勘当を解く解かないの問題ではない。


(でも、お祭り好き?な性格の街の人たちからしてみれば、話題のツヴァングが勘当を解かれたなんてことになれば、さらに大盛り上がりするよね。未来の領主ってことになれば、噂が沈静化することなんて無いだろうし)


 ツヴァングが街を出てきた気持ちが分からなくはない。

 せっかく沈静化してきた火に、大量の油を投下したようなものだ。


「だから街出てきた。ついでに暇つぶしするなら、こっち来た方が面白そうだと思って」


「んー。それはいいけど、ウチは働かざるもの食うべからずだよ?」


「分かってるよ」


「ならいいよ。ということでツヴァングも同じPTね」

 

 ツヴァングの確認を取ったところで、念押しのためにヴィルフリートをチラと伺う。


 無、だった。

 確認する前から分かり切っていたことだけれど。


 ツヴァングが同じPTに入るのは嫌だけど、自分の言うことなので反対はできず、黙って堪えてる気がする。

 ならば、これ以上、藪をつつくような真似はせず、さっさと話題を変えるに限る。


「じゃあ、次の行先なんだけど、ダンジョン攻略はちょっと置いておいて、ドワラグルに行こうと思ってる」


「ドワラグル?ドワーフの国か、遠いな」


 と、ヴィルフリート。


「2人の装備を一度きちんと整備しておこうと思って。新しい装備を作るにしろ、今の装備を改良するにしろ素材は持ってるんだけど、設備がないのがね。いい装備があれば買ってもいいし」


 アイテムボックスの中にはS10武器防具がフルセットで入っているだけでなく、希少な鉱山資源を初めとした素材が最初から多種大量に入っている。

 生産職の主要な道具はある程度ある。


 だが、作るためには設備がいるのだ。鍛冶師であれば鉄を溶かす炉が要るように。布を作るには織機が要るように。


 ドワラグルはドワーフの国だ。

 鉱山が豊富な山々に囲まれて、腕利きの鍛冶士や彫金士が多く集まっていた。武器や防具も多く作られ、強大な軍事国家として知られている。

 腕のある鍛冶師たちは国のお抱えの鍛冶師として取り立ててもらえ、とても優遇してもらえるので、我こそはと自然に鍛冶師たちが集まる仕組みが出来上がっていた。


 ただし、ピピ・コリンとはドワラグルは距離がある。

 海を越えた南の大陸だ。


 返却してもらったエアーボードでも行けなくはないが、海の上では休憩するところがない。何よりさすがに1人乗りのエアーボードに3人乗りはしたくない。


「あそこには確か、貸出の設備があったと思う。時間はかかるけど、情報収集しながらドワラグルに行こう」



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