ふたりの関係

 秋も過ぎて師走となった。地味なオフィス付近の街もクリスマスモードの雰囲気が漂っている。クリスマスまで1週間を切ったその日も、ヒロシはいつもの時間に電車を降りてオフィスに向かって歩いてた。すると、いつものあの姉弟がこちらに向かって歩いて来るのが見えた。


「んっ? おや?」


何かいつもと違う・・特別なものを二人の雰囲気に感じた。特に寒くなった朝で二人が温かい防寒の服装をしていたから? いや、そうではない。


ヒロシは気が付いた。二人は今朝は離れてではなく並んで歩いてきたのだ。その光景はヒロシが初めて見るものだった。


そして・・、二人とすれ違った瞬間・・・、さらに、ハッとした。


「この二人、手を組んで歩いている・・!」


ようやく全てを理解した。


「この二人は・・姉弟じゃなくて・・恋人同士ということか。」


 ヒロシは自分の鈍感な思い込みに苦笑した。あの夏のカフェで見掛けた時あたりから一緒に住んでいたと思われる。どうやらまったくの赤の他人の秘密を知ってしまったようだ。でも、二人の光景が微笑ましく、妙に嬉しくなったヒロシだった。並んで歩く二人の雰囲気を見て・・その年は二人にとって良い思い出のクリスマスを過ごしたと察するヒロシであった。


 年が明けて・・大学の休みなどあったのだろう。朝のすれ違いの時、暫く彼を見ることはなくなった。彼女とだけのすれ違いが続いた。そして春となる。4月に入って・・、また、変化があった。再び二人が揃って歩いてくるところにすれ違うようになったのだ。ただし、彼はもうジーパンは履いていない。髪型がすっきりとなっていて、服装は紺地のリクルートスーツに変わった。彼女はこれまで通り颯爽と堂々歩き、そして彼は、慣れない曲がったネクタイをして・・慣れない革靴を引きずるように焦る表情で駅に向かうところを見掛けるようになった。

ヒロシは、すれ違う都度に心の中でつぶやいた。


 「就職おめでとう。頑張れよ。」

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