第26話わずかだが確かな再開

 俺達は、ルディの助けを得て漸く死を迎えた。


 そして今、転生前と同じようなまっさらな空間に居る。


 少し違うのはテラスにある様な上品なティーテーブル、椅子――――


 そして……


 俺を迎える様に、並ぶ見慣れた人たち。


「お疲れさまでした。フェル様っ、素敵でした」

「ああ。アデル、ごめんな。そばに居てやれなくて」


 やっと会えた。


「フェルちゃん、私が間違っていたわ。私も死んじゃダメだったのね」

「母さん、それが俺の目的でしたから。守れなくてごめんなさい」


 母さんが微笑む。


「私は貴方を選んでよかった。私の願いは果たされた。ありがとう」

「アルファ、共に戦うはずだったのにあんな形ですまない」


 アルファがお礼を言う。


「フェル様、どこまでもご立派になられて、母冥利に尽きますわ」

「ケアリー母さん。俺はあなたを守りたかったのに、すみません」


 ケアリー母さんが、褒めてくれた。


「兄さま……勝手に離れて勝手に死んでごめんなさい」

「シャノン、会えてうれしいよ。駆けつけてやれなくてごめんな」


 シャノンは離れてしまった事を謝罪してきた。


「お兄ちゃん。役に立ちたくて離れたのに、何も出来なくてごめんなさい」

「フィーは、よく食事を作ってくれたな。ありがとう。

 いつも役に立ってくれていたよ。それなのにごめんな」


 俺は皆にずっと言いたかった言葉、守れなかった事の謝罪をした。


「あんた、メルは助けて私は助けないってどういう事?

 そんな事で私をこうやってこき使うなんて図々しいわよ」

「ありがとな、リーア。お前のおかげでまた会えた」


 やっぱり最後までこいつはこいつなんだな……

 と、メルと二人で皆を眺めていると、アデルが呟く。

 

「ですが、やはり納得できません。私だけ結婚して頂いてないです」

「ああ、俺だってそうだよ。ここじゃ何も無いからな。

 言葉だけになってしまうが、いつだってお前は俺の最愛の人だよ。

 ずっと、ずっと一緒に居て欲しいから、結婚してくれないか?」

「はい、私も愛していますっ! 嬉しいです……」


 と、アデルは駆け寄り、抱き着こうとして、行動を止めた。


「どうしたんだ?」

「すみません、ここでは触れる事が出来ないので」


 と、アデルは自分の手と手を合わせる様にして、自分の体ですら触れない事を教えてくれた。


「そうか。本来会う事すら叶わないはずなんだよな」


 と、俺達はうつむいていると、母さんがおかしな事を言い出した。


「皆ずるいわ。今度生まれ変わったら私もフェルちゃんのお嫁さんになりたい」

「……母さん? 息子にそれはどうかと思うんですけど」

「でも、私だけずっと離れてたし、一緒に居たいんだもん」

「だもんって、まったく、母さんは母さんだな」


 と、俺は言うつもりの無い言葉が、勝手に漏れた事に気が付く。


「あれ? ここってもしかして、思考が全部漏れちゃうのか?」

「はぁ? 前に言ったじゃない。表層なら読み取れるって」


 と、リーアが何故知らないの? とでも言うかの様に問いかける。


「いや、お前神だから出来るんですみたいな感じだったじゃん。

 天然あほ娘はこれだから……」

「あんた……いつもそんな風に思って居たのね。ぶっ飛ばす」


 と、リーアは俺を突き飛ばそうと体当たりをして来たが、すり抜けて

 一人、地面に転がった。


「うっわー……自分は何でも知っているみたいに言って置きながらなんて無様な」


 と、メルが思考したことが漏れた。


「ふふ、フェル様を愚弄するからです。天罰です」


 と、アデルが言い


「天罰……一応、女神ですよね?」


 アルファが疑問を口にした。


「うん、ここは危険だな。リーア、思考が漏れないように出来ないか?」

「嫌よ。あんたたち次に生まれ直す時は覚えてなさいよ。

 絶対に後悔させてやるんだから。女神舐めるんじゃないわよ」


 と、その言葉を聞いて俺は思い出した。

 彼女は、女神は、記憶を持ったままの転生をする事が可能である。

 と言う事を。


「なあ、女神様の力を持ってすると、もしかしてここに居る全員、記憶を持ったまま転生させる事って可能だったりする?」

「……可能か不可能かで言うなら、可能よ。けど嫌」

「そうか。たかだか12年ちょっとで人生が終わってしまったし。

 前世でならあと30年近くは生きられたはずなんだが……

 こんな人生だったし、今度はリーアも含めて変な使命とか無しに皆で楽しく生きられたらいいなと、思っていたんだけどな」

「ぐっ、悪かったわよ。私も初めて人の世で生きてみて色々と分ったわ。

 貴方の魂を抜き取ってしまった事は反省してる」

「いや、本音でもうそれは怒っていないよ。

 リーアのおかげでこの世界にこれて、皆に会えた。

 それだけで、十分幸せだ。だからこそ、その幸せを放したくないんだけどさ」

「そうね。その気持ちも良く分かるわ。

 パパとも話したけど、パパはすぐに生まれ変わる事を望んでしまったわ。

 私の事そんなに愛してくれて無かったのかと思ったけど、私の力が減ってることを知って私の素晴らしさを広めてくるって、行っちゃったのよね。

 私はもっと一緒に居たかったのに」


「力が減っているか。それで記憶を残して転生させる事が難しいって事なのか?」

「まあ、そうね。出来なくは無いけど、それをやると世界の調和をする余裕が無くなって、いつ天変地異が起るか分からなくなるわ」

「そうか。じゃあ、ただ同じ村に生まれる様に場所を指定する事はどうだ?」

「そんなの、一つも問題無いわ。魔力で言えば1使うとかそんな程度よ。

 ただそうなると、フェルは魔法を使えない事になるけどね」

「あ~魂に刻まれたもんだからか。記憶が残ってれば使えたのか?」

「そりゃそうよ。自分でイメージを記憶してて何度も使ってるんだもの。

 魔法の原理を知っているなら自然と分かるでしょ?」

「まあ、そうだな。

 そう言えば思考が漏れないようにする事を嫌がったのも、力の関係か?」

「いいえ。それはただ、嫌だっただけよ。すぐ隠し事するし」

「そ、そうか。悪かった」


 それについて、反論できる余地が無かったため、俺は素直に謝罪した。


「なあ、じゃあ神託はどうなんだ?

 生きている人間と話すのはどの位力を使う物なんだ?」

「ん~繋げてる時間にもよるけど、何時間か程度ならほんの少しよ」

「じゃあ、父さんにつなげて貰ってもいいか?」

「仕方が無いわね。ちょっとだけよ」


 と、言った後、俺達の目の前の景色が変わり王城の謁見の間に座っている父が映し出された。

 そこには父さん、お爺ちゃん、オルセン王、の三人が話をしていた。

 オルセン王は通信機の向こうで、だが。

 

「なっ……カトリーナ、フェルっ! どうして……」


「父さん、お爺ちゃん、まずは謝罪しなければなりません。

 俺は、母さんや最愛の者達の死に絶えられず、自決しました」

「……そうか。人族に特攻したのだろうとは思っていたが」

「ちなみに、人族の国王と上位メンバー10人の内7人は始末しました。

 ああ、いえ、6人でしたね、最上位のアルテミシアだけは隷属を解いて生かしました。

 人族に復讐をしてくれる事でしょう」

「そうか。フェルは凄いな。

 ほんとに俺の息子かと思ってなくても問いてしまいそうになる。

 すまないな。不甲斐ない所ばかりで」

「父さんは俺の自慢の父さんです。

 精神魔法を食らっても俺達の事を最優先で考えてくれました。最高の父さんです」

「すまない。ありがとう」

「フェル、ミッシェルがお前達に謝りたいと言っておった。

 こんな役目ばかり押し付けてしまってごめんなさい、と。

 わしも同じ気持ちじゃ。すまん。ありがとう」

「お爺ちゃん、やりたい様にやって死んだだけなんですよ。

 俺は皆に謝ろうと思い、女神にお願いして繋げて貰ったのです」


「謝る必要はないじゃろ。

 オルセン国の王としても、お主には礼を言わねばなるまい。感謝する」


「いえ、あ、そうだ。

 父さん、オルセン王に昔の件でちゃんと謝罪してくださいね。

 それを条件で手を貸してもらったので」


 と、言った所でだんだんと、映像が消えていく。


「はっ? それは、ちょっと……

 え……こいつに? おい、フェルどうしてもやらなくちゃダメなのか?」 


 と、往生際の悪い父さんの声が少しずつ遠ざかっていく。


「さあ、次はどこ?」

「あ、いや、もういいかな」

「そう、ならもう少し繋いでても良かったかしら」

「いいや、言いたい事は言えた。ありがとうな、リーア」

「いいわよ。あんたにはまだ返しきれてない借りあるし」

「ほぉー、リーアが借りねぇ。めずらしい」

「何よ、じゃあもう何もして上げないわよ!」


 と、リーアともう慣れて来た問答をしていると。


「フェル様、そんな話より待っていた皆さんに声を掛けて上げて下さいな。

 皆、ずっとフェル様の事を見守っていたのですから」


 と、ケアリー母さんに言われ皆を放置していた事に気が付く。


「ああ、そうだな。皆から俺に話したい事は無いか?」


 と、告げると一番に口を開いたのは珍しくアルファだった。


「私は生きている間、言えなかった事がある。それを後悔している」


 アルファはうつむき目を伏せた。


「……言ってくれ。どんな事でも受け止める」

「私はあの時、あなたが助かれと言ってくれた時、あなたに恋をした」


 全員が固まった。

 俺も、恨み言を言われるものだと覚悟して構えていたのでどうしていいのか分からなくなり、固まってしまった。


「くっそ、何故今、思考加速が無いんだ。

 今、間をあけたらアルファが困るだろうが……

 ってあれ、ここ、思考漏れるんだっけ……」


 アルファが赤い顔で『そんな優しい所が好き』と呟いた。


「はいはい、すとーっぷ、ちょっとアルファ? あんた裏切るつもり?」

「私たちは同志、悲しみをシェアするもの。喜びもシェアしても良いと思う」


 アルファは顔を紅潮させながらもゆっくりと首を横に振り、私達は仲間なのだからわけて欲しいと訴えた。


「馬鹿な事を言わないでくれる? 旦那をシェアする馬鹿がどこに居るのよ」

「アデルさんとはシェアしてる」

「アルファさん……シェアしてる訳ではありません。

 フェル様がどうしても、と言うので仕方なく我慢をして差し上げて居るのです」

「なぁに? 随分と上から目線じゃない? やろうっての?」

「はぁ、この世界でやり合おうとか。あなたの頭は女神と同程度ですか?」


「どう言う事?」とリーアはきょとんとした顔で首を傾げた。

 だが、彼女の問いかけに答えるものは居らず話が流れていく。


「そう。アデル、あんたの気持ちは分かったわ。

 アルファ、二人してアデルからフェルを取るわよ。頑張りなさい」

「もう限界まで頑張った。けど、取るつもりは無い。シェアする」

「ねぇ、どういう事?」


 と、その時俺は、上目遣いで好きと告白されて固まっていた状態から回復した。

 そして、話がカオスな方向に向かっている事を少しずつ把握させられ、口を開く事が出来ず状況が変化していく。


 だが、無理やりにでも口を開かねばならぬ時がきた。


「ならば、私も参戦します。フェル君は私のです」

「いや、あんた母親だろ! ちょっとは自重しろ!」


 全く、何をいいだすんだか……と呟きご立腹を露にしていると……


「あら、生まれ直すのなら私もよろしいですか、フェル様?」

「とうとう、最後の良心、ケアリーさんまで……」

「ふふふ。私、未婚のままでしたし少しうらやましくて」

「お兄ちゃん、私も女として大好きなんですぅぅ!!」

「兄さま、お慕いして居ります。出会った時からずっと……」


 もう、収取が付かなくなっている状況で、俺は、言葉が出なくなっていると。


「あ~もう、めんどくさいわね。じゃあこうしなさい。

 記憶が無いままに転生。それからはフェルとの相性次第よ。

 記憶が無いんだし恨みっこないし。これでどう?」


 と、いつまでも終わらない話を〆ようと、提案した。

 皆、同意した様だ。ほとんどの者が『女神のわりに』と付けていた。


「でも、今度は能力面で優遇は出来ないわよ。力も無いし。

 それと、私も行くわ。ちゃんと記憶も消すしいいわよね?」

「いやいや、ダメだろ。お前が記憶消しちゃったら星の統治を誰がやるんだよ。

 天変地異とか起きちゃうんだろ?」

「大丈夫よ。死んだらちゃんと思い出す様にして置くし。

 最初に生れ落ちる時に、念のため200年は持つようにして置いたんだから」

「ああ、そうなのか。じゃあ、またよろしくな。リーア」

「し……仕方ないから宜しくしてあげるわ。友達として、友達として」


 大事な事だったのだろう。二度言った彼女は、少し狼狽しながらも言った。


「でも名前も人格も立場もすべてが違うのだから、きっとわからないわよ」


 だが、皆はそんな事は気にしておらず、俺をゲットする事に燃えていた。

 そして俺は、チャンスが多々ありながら今回の経験できなかった事を心底嘆いた。


「じゃあ、村じゃ寂しいから町にするわよ。私あまり重労働とかしたくないし。

 皆、同い年の子供で性別はそのままって事でいいかしら?

 言いたい事があったらまだ時間も取れるけど?」


 全員が頷き、話がまとまった。


「じゃあ、行くわね、女神リーアミールの聖名において我が子等よ。

 再び地に降り生を営みなさい」


 と、彼女のイメージにそぐわない言葉の元に俺達は再度、人の生へと戻っていく。

 

 今度こそ、今度こそ魔法使いを卒業できますように……

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魔法使いが魔法使いになりたくて異世界転生をする オレオ @oreo1

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