芽を出し地面を覆うもの

20.絹の房(draw a curtain)

「ね、ミオソティス、お菓子買ってきたの。一緒に食べない?」

つんと澄ましたようなミオソティスはミネオラの誘いに対して、ええ、どうしようかな、ともったいぶるような態度を取りながらも席についた。机の上に広がるのはアソートのキャンディだった。袋の中にはキャンディの他に、ラムネやチョコレート、硬いゼリーなんかが入っている。ミオソティスはそれらを珍しそうに眺めた。キラキラしたオーロラのフィルムがチカチカと光を反射して、きらめく海岸みたいに見える。ミオソティスはそのうちの一粒を手に取って、光に透かし見てから口に放り込んだ。それは透明な素地に色のある線がいくつか入った、簡素な飴細工だった。

「こういうのが好きなの? ミネオラって子供っぽいのね」

「そ、そうかな。このくらいならわりと普通だと思ったんだけど……」

その質問には答えないままミオソティスは、最近どうなの、と綺麗に切りそろえられた自身の爪の先を見ながら尋ねた。ミネオラは指を手の中でくるくると回し、前に教えて貰った編み込みの練習してるよ、と答えた。ミオソティスは興味なさげに頷いて見せたが、そう、と言った声はどこか嬉しそうだった。二人が飴を食べていると、そこへ白衣を着たベルベナがやってくる。ベルベナは座っているミオソティスを見て足を止める。

「ああ、来ていたのか、ミオ。様子はどうだ。そっちでなにか変化はあったか?」

「私は別に……あっ、それより聞いてよ。ミネオラが編み込み出来るようになったんだって。随分上達したと思わない? 髪をピンで留めるのも苦労していたこの子が!」

「楽しそうだな。良かったじゃないか」

ベルベナはミネオラの背を叩くミオソティスをいつも通りの無表情で見やり、手に持っていた飲み物のボトルを並んで座る二人の前に一本ずつ置いた。

「ん、なあに……ジュース? ヴァーヴェ、くれるの? ありがとう、嬉しいな」

「たまにはな。周りには内緒だ。誰にでもあげると思われては困る、頼むぞ」

投げやりに言って腰を下ろしたベルベナの前に何もないのに気がついて、ミネオラは受け取ったばかりのボトルをそちらへちょっと滑らせる。

「これ、ベルベナの分だったんじゃない? あーし、お菓子あるし、気持ちだけ受け取るからベルベナが飲みなよ。あ、ベルベナもお菓子食べる? チューイングキャンデイもあるよ。おいしいよ」

ベルベナは目を瞬き、差し出されたボトルとミネオラの顔を見比べた。それからオーロラのフィルムに目を移す。

「そうか? それなら言葉に甘えるとしよう」

そうしてラムネ菓子を貰ったベルベナが、それと気付かず炭酸水を口にしたため、口から泡を吹き出して見ていたミネオラをパニックに陥れた。気にするな、大丈夫だ、とベルベナは言ったが、言葉を一つ零す度に口から大量の泡を吹いたので、慌てるミネオラの隣でミオソティスは指をさして笑い続けた。それもあんまりおかしそうに笑うのでミネオラはいつベルベナが怒り出すか気が気で無かったが、幸いなるかなベルベナが機嫌を損ねることはなく、こぼれた炭酸水を吹くための布巾を取りに行ったり、泡だらけのベルベナにハンカチを差し出したりしている間に事態は一定の収まりを見せた。

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