セメコとドラゴン(その3)

「はぁ……これだから人間は嫌いなのよ!」

「セメコ?」


 セメコの態度があきらかに悪くなる。


「私とタツヒコのモロ見せプレイを邪魔しやがって。このクズども!」

「――なっ!」

「モロ見せプレイだと! そんなの草原ですんなよ!」


 くっ、盗賊にツッコまれるなんて悔しい。

 あと、そんなプレイをした覚えはないからな!

 クソッ。態度が悪いだけじゃなく、頭も悪いぞこいつ。


「へっ、なかなか威勢のいいねーちゃんじゃねーか」

「俺たちをクズ呼ばわりとはナメやがって」

「ちょっと痛い目みてもらおうか」


 盗賊三人に囲まれる。

 やばいな。剣とか卑怯だろ。

 セメコは木の棒と笛。

 俺は全裸。

 戦力差が違いすぎる!

 囲まれてるから逃げれないし……。

 ドラゴンに戻るか説得して穏便に済ますか――


「あんたは、ヒゲがキモい! あんたは、目がエロい! あんたは、服がダサすぎる! よくそんなんで外に出れるわね」


 セメコは盗賊三人をビシッと指差して、罵倒した。


「全裸の奴らに言われたくねーよ!」


 盗賊たちは、身体を震わせ、


「「「ぶち殺してやる!」」」


 怒り狂ったように襲いかかってきた!


「バカー! 挑発してどうすんだよ! おいっ、早く俺をドラゴンに戻せ!」


 そう言ってセメコを見ると、ポカーンと口を開けていた。


「私、戻せないよ」

「はあっ!」

「タツヒコがドラゴンに戻りたいって念じないとムリだと思う」


 えっ、じゃあ、こいつらどうすんだよ――


「邪魔だ! 変態野郎!」


 ボゴッ!


「うげっ!」


 俺は顔面に右ストレートをくらって、ぶっ飛んだ。


「タツヒコ! きゃっ、やめっ! やめろ!」


 いってえええええええええ!

 殴られたのとか何年ぶりだろ?

 パンチってこんなに痛かったっけ……。

 日本じゃこんなことないのになー。

 帰りてー。このまま倒れとくか。

 これ以上痛いの嫌だし。


「やめろ! はなせ! ヒゲくんなー!」

「この木の棒は金になんねーだろうな。いてっ、デルボ。もっとちゃんと押さえとけ」


 盗賊たちは、セメコを力で押さえつけて、金目の物を探す。


「おっ、なんか売れそうなのはっけーん!」

「触んな! それは私の宝物なんだ」

「ほう」

「――!」


 あいつらのやりとりに、思わず起き上がった。

 だが、助けようとはしない。

 そもそもあいつは、人殺しのサイコパス野郎だ。

 助けなくていい。

 自業自得だ。


「おいっ、お前ら聞いたかよ。このちっぽけな笛が宝物だとよ」

「ブヘヘヘヘッ」

「こんなのが宝物かよ! 安っぽいなーお前の宝」

「黙れ! いいから返せ!」


「ったく、生意気でムカつく奴だ。おっと、手がすべった」


 笛は、ヒゲ男の足元へ「カラン」と音をたてて落ちていった。


「だめー!」

「うるせーんだよ、てめー!」


 ドンッ!

 生々しい音が聴こえる。


「うっ……」


 セメコは突き飛ばされ地面へ倒れた。


「――!」


 その瞬間、俺の頭に血がのぼる。

 あいつは、サイコパス野郎だ。

 俺を殺したクソ野郎だ。

 ほっとけ。挑発したあのバカが悪いんだ。

 あんな奴助ける義理なんてないっ。

 何度も自分の頭に言い聞かせる。


 だが、倒れるセメコの姿が俺を熱くする。

 あいつの宝物をバカにしたアイツらを許せない。

 異世界とか、わけわからんことに巻き込まれて、正義感が強くなったのか。

 日本じゃあ、面倒ごとは無視するのが正解なのに……。

 なぜだか……とても腹が立つ。


「おい、盗賊ども。忠告しとくぞ! 日本じゃあ、こういうの正当防衛っていうんだ。なにされても文句いうなよ!」

 

 俺は、そう口にして奴らに両手を突き出した。


「ニッ……ポン? なんだそりゃ」

「なんだあれっ。手からなんか出んのかよ。ブフッ」

「なにかできるもんならしてみろよ! 早くしねーと宝物踏んじまうぞ!」


 うっせーな。念じるのは得意なんだ。黙って見てろ。


 ドラゴンに戻れ。ドラゴンに戻れ。ドラゴンに戻れ。


 クソッ。早く戻れよ。おいっ、戻れって!

 あの笛はあいつの大切なもんなんだよ。頼む!

 

「ブーッ。時間切れー」

 

 その瞬間、ヒゲ男は片足を上げた――


 やめろ! そう思ったとき、


『これはお母さんから貰った私の宝物。だから、タツヒコに気にいってもらえて嬉しい』


 あのとき、そう言って笑ったあいつを思い出す。


 あいつのことは大嫌いで、関わりたくはなかった。……だけど、あいつの悲しむ顔は見たくない。

 悔しいけど、あの笑顔見たらそう思ったんだ。


 だから、あいつのためにドラゴンに戻れよ、久々利くくりタツヒコォォォォォォ!


 全身に力をいれる。

 

 ――瞬間、光が俺の身体を包む。


 まばゆい光に目を閉じる。


「「「なっ、なんだ!?」」」


 光が消え、ゆっくりと目を開ける。


 はるか遠くの景色まで見渡せる目線の高さ。

 どんなものも潰せる黒い腕。

 誰もが恐れる鋭い爪。

 禍々しい鱗。本能的に恐怖を与える巨大な姿。


「タツヒコー! いやーん。ステキー!」

「ひいいいいいいいいい!」

「ドッ……ドラゴン。なんでここに」

「ぜっ、全裸野郎がいねぇ……まさか」


 セメコは、俺の姿を見てピョンピョンと跳ねて喜んでいる。

 どうやら、ケガはしてないみたいだ。

 盗賊たちは腰を抜かし、尻もちをついた。

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