第2話 バスケ部の山口君

 【檸檬が遅れて来た恋を思い出させてくれた②】


 仕事帰りにコンビニに行くといつも山口君は黙々と働いていた。

 レジで見かけることはあまりなくて、いつも商品の補充をしている姿を見掛けていた。

 声を掛けるほど彼の事を知らないのでいつも目当ての物を買ったら店を後にしていた。


 彼を見てどうして『輪切りレモン蜂蜜漬け』を思い出したのかが分からないままに数日が過ぎた。

 私はいつも自転車で通勤するのだけど、ある日のこと帰り道で急にチェーンが外れてしまった。

 仕方なく自転車を押しながらいつもの道を歩いて帰る、夏の日の夜は蒸し暑い、日が暮れてからも、太陽に焼かれた地面からは熱が放出されているみたいだ。

「どうせあのサイクル店は休みだよね」

 近所の大きな自転車屋は全国チェーンで出張で直してくれるサービスもある。

 以前パンクした時に電話したら「今お待ちの方が5人いるので1時間以上かかります」そう言われたのを思い出したから電話するのは諦めた。

しかもたった今閉店時間のはずだ。


 コンビニの前に自転車を停めて店に入ろうとすると、雑誌を整理している山口君と目が合った。

 ドアを開けた私に初めて声が掛かった

「あの…もしかしてチェーンが外れましたか?」

「あ…そうなんですよ、信号で停まって走り始めた途端に外れてちゃったみたいで…」

「この時間だと、もう店開いてないですからね…」

「そうなんです、とりあえず押して帰って明日にでも行こうと思って…通勤に使ってるから参っちゃいます」

 コンビニの中にはお客さんはいなくて、レジの中には多分オーナーだろう年配の男性が作業をしていた。


「良かったら僕が直しましょうか?何度も経験してるから多分出来ると思うし、ただまだ勤務時間なのであと1時間くらい掛かりますけど…」

「ホントですか、助かります」

 1時間後に会う約束をしてコンビニに自転車を置かせてもらいその場を後にした。


 私の家はそこから5分位先にある一軒家だった。

 母親と大学生の弟が家族だが、弟は県外の大学に通っていて実質母親と2人で暮らしている。


 とりあえず用意されている夕飯を食べた、母親は多分今頃は趣味のカラオケに行ってる頃だ。


 食べた食器を洗っている最中に頭に思い出したことがあった。


「輪切りレモンの蜂蜜漬け!!!」


 つけっぱなしのテレビから次の番組のお知らせが聞こえてきた、慌てて玄関の鍵を閉めて約束の時間のコンビニに向かった。



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