騙されるな! そいつはカクヨムダイヤモンド会員だ! 追えーー!!

ちびまるフォイ

アンリミテッドに作家を鼓舞するもの

「え!? あの人気作品がここで読めるのかよ!?」


アニメや漫画化により飛ぶ鳥を落とす勢いの作家の新作が、

なんとカクヨムで公開されていると聞いて慌てて接続した。


冒頭からワクワクするような展開が続いて読む手が止まらない。


「この先、どうなるんだろう!!」



-- 【この先はプレミアム会員にのみご覧いただけます】 --


「……あれ?」


その先はスクロールしてもすりガラスのようにぼやけて文字が読めない、

老眼鏡やモザイク消し機を使っても効果はない。


「プレミアム会員ってなんだよ……?」


リンク先のページを見てみると月額の料金表が書かれていた。


「なになに……カクヨムは広告収入で運営する方式をとっていましたが

 思ったより広告収入が入らなかったので新たな料金体系を確立しました。

 プレミアムカクヨム会員になれば一気にモテモテ!

 便利な機能であなたの素敵なカクヨムと異世界ライフを応援します! って……」


見る人が見れば、怪しいサプリとかのサイトにしか見えなかった。

プレミアム会員はどうでもよかったがどうにも作品の先が気になる。


「プレミアム会員になれば、先が読めるのか……」


嫌だったら月額でやめちゃえばいいし、まずはお試しで入ってみた。

途中まで読んでいた作品を早速ひらくと今度は制限なしにガンガン先を読み進められる。


「なんかずいぶん快適になった気がするなぁ」


読んでいる間も読み込みの待ち時間が短くなったような気がする(当社比)。

前までは先が気になる気持ちがわずかな待ち時間さえも苛立たせていたのに。


現時点で更新されている部分まで読み切ってしまった。


「はぁ、楽しかった。やっぱり〇〇先生の作品はいいなぁ」


やることがなくなったのと手持ちぶさただったので、

プレミアム会員になったメリットを調べてみることにした。



<プレミアム会員になるとこんなにお得!>

●普段では読めない作品も読めちゃいます!

●作家の下書き状態や、予約投稿作品も先に読めちゃいます!

●高品質な小説分析が利用でき、より読者に刺さる作品が書けます!

●カクヨム専用回線でスムーズに読み進められます!

●カクヨム専用回線で血液がサラサラになります!

...and more



「いらない機能もいくつかあるけどこれはこれで便利だなぁ」


俺の小説に訪れた人の足跡や統計データ、

カクヨムに投稿されたカテゴリーの分布や人気のあるキャラの要素。

さまざまな分析結果がボタンひとつで確認できるようになった。


インターネットを知る前と後くらいに劇的に執筆生活は変化した。


「うーん。俺の小説は20代の男性が多いのかぁ。

 この年齢層が支持している作品は現代ファンタジー系ね。

 カクヨム内でのヒロイン属性の分布はこれだから……よしこうしよう」


今までは「自分はこれが好き」「これが面白いと思う」といった

自分本意な作品作りだったがプレミアム会員で読者を分析するようになって

「ちゃんと人気が出るように」作品が書けるようになった。


底辺を這いずっていた俺の作家としての人気もジワ上がりしていたころ。



-- 【この機能はダイヤモンド会員にのみご利用いただけます】 --



「だ、ダイヤモンド会員!?」


間違えて押したボタンの先には新しい世界の扉が待っていた。

一度プレミアム会員の便利さを知ってしまった今もう手放すことはできない。

その上のダイヤモンド会員になったらいったいどうなるのか。


「今より……今よりもっとできることが増える……!」


もはや月額料金表を見ることもなくダイヤモンド会員に登録した。

特典は思っていた以上のものだった。



<ダイヤモンド会員になるとこんなにお得!>

●文脈に応じて自動で挿絵が生成されます!

●途中から開いてもこれまでのあらすじが自動要約で確認できます!

●キャラの設定や世界観の設定をいつでも確認できます!

●AIによる自動執筆機能で小説の骨組みを作ってもらえます!

...and more


プレミアム会員からダイヤモンド会員になるためには

目が飛び出すような月額料金が必要になったが後悔はなかった。


むしろ、ダイヤモンド会員をもっと早く知っておきたかったという思いさえある。


「さぁて、次はどんな小説を書こうかなぁ。

 ハイ、カクヨム。扇風機とバトルロイヤルで小説を作って」


音声認識で俺のマイページには未公開作品がひとつ生成される。


あとはこの小説から機械らしい言い回しや表現を抜きつつ、

自分なりの展開や超爆笑間違い無しの小ボケを挟めばバッチリ。


「投稿、と」


ダイヤモンド会員で一番便利な機能が自動生成だった。

ゼロから小説を書き始めるよりも、1を2にする作業のほうがずっと楽。


それでいてちゃんと面白い作品ができあがるんだからすごいと思う。


「わはははは! 俺も人気作家の仲間入りってわけだな!

 俺の拙作を持ってサイン会に訪れる女子が目に浮かぶぜ!!」


キノピオもびっくりするほどに天狗の鼻が伸び切っていたが、

ダイヤモンド会員になってからは投稿するほどに人気が上がっていた。


挿絵があるだけでも、他の小説より一気に有利になれるのだ。


すっかり人気作家に仲間入りしたころ、ひとつのメッセージが届いた。


『今度、自主企画イベントをするのですがよければ参加してもらえませんか?

 普通に自主企画を開催してもあまり参加してもらえないので、

 先生が特別ゲストとして参加してもらえればきっと活気づくと思うんです』


「はっはっは。いやぁ、まいったなぁ。忙しいんだけどな~~」


ゲスト、という響きが背中をこそばゆくさせてくる。

今じゃ客寄せパンダになりうるだけの実力と名声を手に入れたということだ。

人気者は辛いぜ。


「当たり前田のクラッカー、と」


爆笑間違いなしのネタをぶちこんで俺のギャグセンスの高さを見せつけると、

さっそく自主企画の作品作りへと移ることにした。


ゲストなので別に自分は書かなくてもいいのだけれど、

俺が批判したことで作家が「じゃあお前のはどうなんだ」と逆ギレしたときに

口先だけのやつだと思われたくはない。


「さて、それじゃスマホと異世界と太郎とハーレムを入れて

 なにか作品を……」


いつものように作品の下地を作ってもらおうとしたが「START」のボタンが押せなかった。

もし……。もし、俺がダイヤモンド会員だと知られたらどう思うか。


"結局、AIにおんぶにだっこの弱小作家じゃないか"


「うるさい! アイデアを出しているだけもすごいだろ!」


幻聴の批判が聞こえてきてつい反論してしまった。

今度はいちから自分の作品を作ろうと画面に向かう。


しかし真っ白な画面は俺になにも答えてくれない。


今まではすでに文字が埋まっていてそれを治すだけだった。

最後にいちから書いたのはいつだっただろうか。


「……に、煮詰まってきた。少し気分を入れ替えよう……」


コンビニでエナジードリンクを買った帰りだった。

顔を上げた瞬間にはすでに車が突っ込んできていた。


「うああああ!! し、死ぬぅぅぅ!!!」


が、トラックはギリギリのところでアクセルとブレーキを踏み間違えて止まる。

確実に死を覚悟して放り投げたコンビニの袋はガラスを破って民家の中へ。


「こら――!! 大事なツボを良くも割ってくれたな――!!」


死傷者ゼロの事故は俺の財布にだけ大打撃を与えて幕を閉じた。


「怪我がなかったのならいいじゃない」


「良くないよ!!! ぜんぜんよくない!! もう今月すっからかんだよ!

 これじゃダイヤモンド会員どころかプレミアム会員すら入れない!!」


母親はぽかんとしていたが事態の緊急性を認識しているのは俺だけだ。


これから逆ギレ批判対策に超品質の作品を書かなくちゃいけないのに、

自動生成AIはおろか、カクヨムで人気のジャンルなどの分析もできやしない。


「くっそ! これじゃ小説を書くとっかかりすらつかめない! どうすりゃいいんだ!」


神社で祈願しても金をよこさない奴にはアイデアひとつ教えてくれない。

追い詰められた俺は運営に掛け合った。


「どうしてほしいっていうか、俺のような今をときめく人気作家がだよ、

 おたくの広告を小説に掲載しているわけじゃないですか。

 いわばショバ代、それを納めるのが人としての道理なんじゃないかなぁーー?」


「つまり……どうしてほしいと?」


「俺のような人気作家はダイヤモンド会員級の待遇を受けてしかるべき。

 そう思う私は異端でしょうか? いいえ、誰でも」


「そう言われましても……弊社はお金を払った人にサービスを提供するのであって……」


「ああ、そう! じゃあもういいもーーん。

 ものすごくPVを稼ぐ小説に広告のせてやんねーもんねーー。

 あーもったいない。別のサイトに移っちゃおうかなぁーー。あーこれは国家的な大損害だーー」


「わかりました! わかりましたよ!

 それじゃ特別にさらに上位の試作プラン"アンリミテッド"にして差し上げます!」


「あ、アンリミテッド……!?」


いったいどれだけ便利になるのか楽しみだった。

自分のマイページに「Unlimited」と会員表示されていて嬉しくなった。


「ふふふ。さぁて、何ができるのかなぁ……?」


試しても試しても、普通の会員と同じだった。

ダイヤモンドどころかプレミアムの特典すらない。


「あの野郎騙したがった! アンリミテッドとかその場しのぎの嘘をついて

 最初から俺を帰らせるつもりだったんだ! むきーー!!!」


文句をいい散らかしたかったがすでに時間はない。

分析も自動生成もできないが、それでも大人気間違いなしの作品を作らなくては。


「見せてやるよ……俺の本当の才能を!!」


出来上がった作品は自分で読んでも面白いのかよくわからなかった。

自分では面白いと思うが、ブームに沿っているのか、ターゲット層に合っているのか。

そういう答え合わせが一切できないことが不安だった。


「だ、大丈夫……だよな」


自主企画イベントは開催され、ゲストとして俺の作品も掲載された。

俺の不安はよそに最新作は今まで見たこともないほど好意的なコメントが寄せられた。


「本当に面白かったです! 最高!」

「やっぱり才能の塊ですね!!!」

「あなたこそこの時代を作る作家です!!」


「やった……やったぞ……!!」


なにもツールを使わずに書き上げた作品が評価されたことで

自分本来の才能が認められた気がして抜群に嬉しかった。


これからももっと頑張ろうという執筆意欲と、

今度はどんなものを書こうかという創作意欲が湧いて止まらない。


いい気分でいるとカクヨム運営から連絡がきた。


『その後、いかがですか?』


「え? 何が?」


『アンリミテッドプランですよ。試作段階のプランです。

 できればモニターされた感想をいただきたいのです。

 実際の利用者の感想を今後役立てていきたいと思います』


「あ」


感動ですっかり忘れていた。

思い出したらムカついてきた。


「白々しい! 何がアンリミテッドプランだ!

 なにも変わってない! ただの嘘じゃないか!! ふざけんな!!」


『そうでしたか……』


カクヨム運営は申し訳無さそうに頭を下げた。





『会員登録者の作品に自動で好意的な評価をつけてくれる

 アンリミテッドはプランはお気に召しませんでしたか……もっと改良します』

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