エピローグ

 それからのことは、特段話すにも当たらない。


 日常などただの日々の反復と少しの気まぐれな変化の繰り返しに過ぎないからだ。


 王立騎士団特務課ヘルシングのヤンからは時折出動の要請があるが、新参の私の任務など簡単な調査など高が知れていた。おそらく監視の意味合いの方が強いのだろう。


 それよりもまさか仮とはいえ吸血鬼として市民権が改めて得られるとは思っていなかった。政府も随分と亜人に対して寛容になったものだと感心した。


「…それ、美味しいんですか?」


 蝋燭の灯る仄暗い夕食時、私はレティシャから採取した血液を入れたグラスを傾けていた。レティシャは私を訝し気に見てくる。彼女がここまで厭そうな顔をするのは珍しい。


「美味しいですよ」


「…私の料理とどっちが美味しいですか?」


「甲乙つけがたいですね」


「…うそですよね?先生が嘘をつくとき、少しだけわかってきましたから」


「レティシャの血はとても美味しいです」


 私がそういうとレティシャは顔を赤くした。


 レティシャには私が吸血鬼であること。人の食事は余り口に合わず人の血液が主食であること。赫手のこと。出来る限りのことは話した。


 私とレティシャの関係性も以前から変わったようだ。


「なんだか……すごい…複雑です…」


「そうですか?」


「……………でも、先生が元気ならそれで一応いいということにしておきます……ご飯の作り甲斐はないですけど……」


 レティシャはあきらめた様にため息をついた。


 最後に、諸君に言っておこう。


 少なくとも私はこの世の偏在する地獄の存在を知っている。おそらく諸君らの一部、若しくは大部分そうだろう。


 だが、私を例に出すまでもなく世界とは不条理であり、安寧の夜の後に波乱の朝が続くこともあるが、その逆もまた然りだ。つまりは、地獄の沙汰の後の幸運というのも十分にあり得る。


 そのようなありきたりな結論で結ばせてもらおう。

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サマー・オヴ・オウルズ 藤原埼玉 @saitamafujiwara

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