第53話 掛け替えのないもの


『キャラクター紹介


 佐藤恋詩 主人公。約半年前に幼馴染の彼女にフラれた人。

 影静 恋詩が出会った妖刀の女。人の姿になることができる。

 御堂朱里 恋詩をフった人。日々”鬼”と戦っている。最近”術”が使えなくなった。

 林道柊子 恋詩の友達。気が強い。裏では怖いことをしているらしい。

 一ノ瀬結衣 前髪で目隠れている系女子、恋詩と柊子とはよく喋る。』



 俺は落ちてくるバレーボールを両手で受け止め、また上に弾く。そのボールを柊子が両手を組んで弾く。それを一ノ瀬が弾き、また俺にボールが回ってくる。俺と柊子、一ノ瀬は三角形になるような形を取り、パスを回していた。


「これであとはもうっ、何もねえな」俺はパス回しをしながら話す。

「そうね、期末テストも終わったし、あとは楽だし」と柊子。


 場所は体育館。今は体育で、生徒が各々グループを作り、バレーやバドミントン、バスケットボールなどをしていた。球技であれば好きにやっていいと体育教師は話していた。


「……」


 後半のテストが終わったのは昨日のことだ。放課後柊子達と自己採点をし、なんとか大丈夫そうだった。


「明日どっかいこーよ」と柊子がボールを上げながら言う。

「お、いいね。どこ行く?」俺もそのボールを受け止めながら、応える。


「別にどこでもいいけど、普通にカラオケとか? 結衣はどこか行きたいとこある?」

「甘いものとか食べたいなぁ」

「いいね、じゃあっ、最近できたチョコのお店は?」

「行きたい!」一ノ瀬がいつもより大きな声で言う。


「恋詩もそこで良い?」

「あり、でもカラオケかボーリングも行きたくね?」

「行きたい~」と一ノ瀬と柊子。


 というわけで明日は柊子と一ノ瀬と遊ぶことになった。

 テストが終わり、あと数コマの授業が終わればもう夏休みになる。

 俺たちはその開放感で胸がいっぱいだった。


 周りを見渡しても、みんな笑顔で楽しそうだ。テスト終わりかつ、自分で球技を選べる、休憩も自由という授業だ。最高以外の何者でもない。

 

「疲れた~、一旦休憩しよ」と柊子が言う。

「そうだね」と一ノ瀬。


 体育館の壁の近くに3人で座る。


「そういえばさー、1組の〇〇と☓☓が付き合ったんだって」

「えー、そうなの?」

「へー」


 誰と誰が付き合ったとか、誰が誰に振られたとか、そんな他愛のない話をする。柊子も一ノ瀬も人の恋愛話が好きなのか、話が盛り上がる。


「そうそう、しかも〇〇の部活の先輩らしくて、だからさヤバいんだって」

「修羅場だ、こわいね」


 俺はというと、ぶっちゃけ興味がなかった。というか人の恋愛話や噂話はあまり好きではなかったので話半分に聞いていた。というか聞き流していた。


「ねー恋詩聞いてる?」

「聞いてる、聞いてる」

「じゃあ今、私なんて話してた?」

「……」

「……」

「いたっ」柊子が俺の足をつねる。痛い。


 そんなこんなでそろそろまたやろうかと言おうとしたとき、舞台側のコートで一際大きい歓声が上がった。視線を向けると別のクラスの生徒達が、5対5でバスケットの試合をしていた。周りにはギャラリーができている。


「……」


 俺はその中に、朱里の姿があることに気づいた。

 体操着にビブスを着用した彼女は、自分よりも体格が良い男達をプレイで翻弄していた。


 彼女が点を決めるたびに、歓声が湧く。

 

「いつも凄いね、朱里さん……」と一ノ瀬がぼそりと呟く。

「そうだな」


 俺はどこか朱里から眼を離せなかった。


 笑顔で友達とバスケットボールをしている彼女。

 だけど、今日はその笑顔が作り物のように見えた。


 まるで、辛さを表に出さないようにしているように。


「恋詩…?」朱里を見る俺を怪訝そうに柊子と一ノ瀬が見る。

「いや、なんか体調悪そうだと思ってさ」


「そう? 別に普通でしょ」柊子が吐き捨てる。

「……」


 沈黙が場を支配する。


「ね! 今度はバドミントンしよ!」一ノ瀬が今の空気を打破するように、大きな声で言う。その手にはいつの間にか3人分のラケットが握られていた。


「そう…ね」

「そうだな」


 そうしていると、鐘の音が鳴り今学期最後の体育の授業が終わった。




「じゃーね、恋詩。明日は遅れないでよ」

「恋詩くん、またね」

「おう、また明日な」


 放課後になり、柊子と一ノ瀬は先に帰った。

 

「俺も帰るか…」


 一人呟き、帰る準備をする。

 外を見ると、まだ明るい。


 冬であれば、もう既に薄暗い時間帯。


 もう夏だな、ほんと……。


 自分の荷物をとり、教室を出て階段の方へ向かう。

 窓から見えるグラウンドでは部活に勤しむ生徒達が見える。

 上の階からはバンドや吹奏楽の音色が聞こえる。


 教室では、残って駄弁る生徒や、課題をしている生徒。

 窓際に寄りかかって話すカップルらしき男女。


 どこの学校にもあるような光景。

 俺はその光景を見て、自分が異物のような感覚を持ってしまった。


「……」


 俺はもう普通じゃない。

 半年前から。


 彼女にフラレて、異世界に迷い込んで、影静と出会った。

 そして戦った。色んな奴等と。


「……」


 だからか、この平和が、この日常の光景が、いつ崩れてもおかしくない。そう思えてしまう。

 この世界には分からないことが多すぎる。

 世界だけじゃない、自分自身のことも。


 結局、あの腕のない剣士はなんだったのか、

 なぜ異形が出現する数が増えているのか、

 

 そして俺の瞳に浮かぶ黄金の輪の紋様は、何なのか。

 分からない、何も。


 俺はきっとこれを早く知らないといけない。

 そんな気がする。


 そう考え事をしていると、いつの間にか靴箱まで歩いてきていた。

 靴箱から靴を取り出し、下に置こうと振り返った瞬間、俺は固まった。


「「あ」」


 朱里が同じような姿勢で俺を見て固まっていた。

 珍しく彼女の周りには誰もいない。


 朱里は一度俺を見た後、俯きながら靴を履き替える。

 その動きは少し慌てているようだった。


 言葉はなかった。


 俺も、もう自分から関わるのはやめよう。そう決めていた。

 朱里にも事情があるから。


「なぁ、大丈夫か?」

「……え」


 そのつもりだった。だけど、どこか疲れた様子の彼女の姿を見ていつの間にか声をかけていた。朱里は固まっていた。周囲を見ると、人影はなくその場にいるのは俺と朱里だけだった。


「……別に話したくねえならそれでもいいけど」

「あっ……別にっ、大丈夫」

「……そう」


 俺はそれを聞いて、特に何も言わず外に出た。

 外面では平静を装っていたが、頭の中は「何やってんだ俺」という後悔のような気持ちで溢れていた。





 

 帰り道、空は夕焼けに染まっていく。

 

「そういや、ティッシュもうないって言ってたっけ」


 影静に帰りに買ってきてほしいと言われていた物があった。

 俺はスーパーに寄り道し、切らしていた日用品をまとめて購入する。


 スーパーから出て、自宅に向かう。

 

「……」


 帰宅途中の学生や、集団で走っている部活生、サラリーマンらしき集団、スーツをきたキャリアウーマン、お爺さんなど色んな人の姿が見える。


「……?」


 俺はその光景にどこか違和感を抱いた。

 なぜだろう。どこにでもあるような光景のはずなのに。


 そして気づいた。

 何人かの男女が、なにかを探しているように周りを見ていることに。

 その眼光は鋭く、明らかに普通ではない。


「こわ~」


 ヤのつく職業の人達なのだろうか。

 俺は眼を合わせないようにしながら、その場を離れる。


「触らぬ神に祟りなし」


 だが、奇妙なことに自宅に近づくにつれ、なにかを探している様子の奴等は増えている。ような気がする。気の所為だろうか。


「気の所為、気の所為」


 気の所為でないと困る。

 俺は現実逃避しながら、歩みを進める。


「……」


 と気づけば自宅の近くまで来ていた。


 ギシギシと音が鳴るボロいアパートの階段を登り、部屋につく。


「おかえりなさい恋詩」

「……ただいま、影静」


 影静がいつものように俺を迎えてくれた。

 

「恋詩? どうしたのですか?」

「なんでもない」


 なぜ、突然そう思ったのかはわからない。

 だけど、この当たり前にある自分を待ってくれている人がいるということ。


 それが掛け替えのないものに思えた。


 

 

『お久しぶりです~、きつねこです!。

 いつも読みに来てくれてありがとうございます!

 今月からまた更新頑張りますね!


(3月から更新するよって言ってたのに、いつの間にか10日……10日……)』





 

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彼女にフラレて山を彷徨ってたら妖刀拾った きつねこ @sthgknsk12

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