第12話 太陽の居場所


勇者が歩いた後の道は、いつも様々な色が付いた。




小金色の草原を歩けば、後方は虹色の草に変わり、




泥にまみれた道を歩けば、黄色い蕾が現れた。









勇者がたどり着いた場所は、常に誰かに新しい名前がつけられる。




新しい伝説が生まれ、新しい愛、新しい命もはぐくまれた。









しかし、勇者に名前を付けてくれるものは、ただの一人もいなかった。









どこか名前のない場所に行きたい。




時折つぶやく青年の眼に、色彩は感じられなかった。




空を見上げれば、太陽が居場所を探すように、西へ西へと進んでいる。









名前のある山の頂で、勇者は皮のマントを翻し、腰の長剣をサッと抜いた。




敵の気配を感じたわけではないが、まるで何かを威嚇するように




剣術の型を演じ始める彼の姿は、今にも空気と同化して消えてしまいそうだった。






太陽は青年の知らない大地へと向かった。


彼もまた、太陽を追いかけるように夜の山路を西へ進む。




冷え切った両手の平に自らの吐息を当てながら、




見上げた夜空には見覚えのない輝きの粒が散っていた。






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名も無き勇者の冒険~異世界幻想紀行~ 伊可乃万 @arete3589

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