名も無き勇者の冒険~異世界幻想紀行~

伊可乃万

第1話 そして、幕開け

そして、幕開け

青年は、ただひたすらに平原の先を見据え、歩いていた。








様々なことを、想いながら。








暮らしていた集落は、




唐突に現れた異形の者達とそれらを操る甲冑を着込んだ一人の人間によって消し去られた。








七人兄弟の末子である彼は、








たった一人だけ生き残ってしまった。








父親は串刺しにされた。








母親は激しい炎に焼かれた。








彼には、何もなくなってしまった。








荒れ狂う心に平静が保たれた頃、








これからどうすればよいのか、青年は様々な思いを巡らせた。








彼はまだ、この世界の何もかもを知らない。








自らを取り巻く運命の過酷さを








人という物の醜さを








愛する事の切なさを








この先に待ち受ける困難を








やがて自らに迫り来る悪意を








そして、戦う という言葉の重みを








彼はまだ その全てを知らずに歩いていた。








今、心底にあるのは 悲しみ ただそれだけ。








歩き始めたきっかけは、そう、








悲しみ。









異形の集団は他の集落では魔王と呼ばれ恐れられていた。





魔王。











平原を越え、自分がこれまで暮らしていた世界とは違う景色が見えてきた頃、









青年は魔王を倒す者になろうと決意していた。









家族の仇を取りたい。









何かを成したい。









この悲しみの鎖を、自らの手でぶった切りたい。








あの異形の集団をこの手で葬りたい。




銀色の甲冑を着込んだ人間を探し出して復讐したい。





きっかけは、そう悲しみ。そして怒り。














そして その先に待つものは ただひたすらに 戦い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る