保健室と言えば昼寝の場所だにゃ!

 キーンコーン……


「っしゃあー!! お昼にゃっ!!!」


 今日も、チャイムが鳴り出したのと同時にニャアは覚醒する。

 何か物言いたげな顔で教室から出て行くモッブ先生を尻目に、ニャアはエルラルの席に駆け寄った。


「お昼にゃ! 飯にゃ! お魚にゃ!!」

「猫だから魚って安直よね」


 エルラルが机の横に掛けている弁当箱を取ると、席から立ち上がる。

 この学園には食堂があるんだけど、母子家庭のエルラルは、毎日お母さんがお弁当を作ってくれるらしい。

 そしてニャアは、コンビニで買ったシャケ弁当を持っている! 


「ねぇ、知ってる? 猫が魚好きなのは、魚を気軽に食べられる日本のような国特有の文化なのよ? イタリアの猫はパスタを食べるの」

「にゃん、だと……」


 イタズラにゃ笑みでサラリと爆弾発言をしたエルラルが、教室から出ようとする。


「何処に行くにゃ?」

「今日は部活の集まりがあるって言ったでしょ?」

「えっ」

「先週言ったわよ」


 先週!? 

 そんにゃ昔のこと覚えてにゃいに! せめて前日には通知して欲しいにゃ!? 

 そんにゃ、ニャアの叫びもむにゃしくエルラルは颯爽と教室から出て行った。


 取り残されたニャアは、一人ポツンと弁当を持って途方にくれる。


「ぼっち飯ェ……」



 ………………

 …………

 ……



 突然できた一人の時間。

 ニャアはお弁当を秒でかきこむと、保健室へ遊びに行くことにした。

 保健室といえば、綺麗で優しい養護教諭! でもこの学園にいるのは……


「失礼しますにゃ~」

「アレェ~、まおサンじゃなァいかァ~昼にくるなんてェ珍しいネェ?」


 和服を着た男の人── クレテリア学園の養護教諭、藤杜氷雨ふじもりひさめ先生がニャアを出迎える。

 黒髪ショート、キツネ目、麻呂眉といった特徴が印象的にゃ、この学園で唯一の日本人。

 日本人と言えば勤勉で真面目にゃイメージがあるんだけど、氷雨先生は働いてる姿を見たことがにゃい通称保健室のニート。

 しかも笑顔が胡散臭くて、喋り方も間延びしたザ・ジャパニーズ英語みたいにゃ、微妙にゃ発音にゃのである。


 ようするに、何処からどうみても養護教諭には見えにゃい変人にゃ。むしろ何故解雇されにゃいのかが不思議にゃレベル。


「まあにゃ! どうせ暇してるだろうと思って、ヒサメんに会いにきてあげたにゃ!」

「えェ、どうせって酷いナァ〜俺だって忙しい時はあるんだヨォ?」

「保健室のニートにゃのに?」

「あははッ! にーとはァにーとなりに忙しいんだヨォ〜」


 この日本人のイメージを全力で否定してくる先生は、生徒の間でそれにゃりに不評だけど、実はニャアとは仲良しだったりする。


 ウマがあったと言うのかにゃ? 

 ニャアにとって氷雨先生は、と◯メモみたいにゃゲームで『主人公に攻略対象の情報や好感度を教えてくれる友達』みたいにゃポジションだ!


「ヒサメんの忙しいって、どうせ妹さんの事を考えてただけだにゃ?」

「ウンウン、正解。アカザはそろそろ次の授業の資料をもって移動してるんだろうナァ~ってェ考えたりィ~アカザは今頃忘れ物に気づいて職員室に戻ったりしてないかナァ~ってェ心配したり……ネェ?」

「ねぇ? って言われてもにゃ……」


『アカザ』っていうのは、近くの小学校に勤めているヒサメの妹さんの名前。

 さっきは説明し忘れてたけど、彼は重度のシスコンで気づいたらいつも妹の話をしているんだに。

 正直いい迷惑だけど、ニャアは優しいからちゃんと聞いてあげるんだにゃ! 


「失礼します……」


 コンコンとノック音が響いた後、また一人保健室にやってきた人物がいた。


「おや、マオさん。お怪我でもされたのですか?」

「アール先輩!」


 長い茶髪を首の横でまとめた可愛い人物── アール・ハルク先輩。三年生で保健委員長。

 誰でも初見は女の子かにゃ? って思っちゃう容姿だけど男子高校生だに。


 アール先輩は奨学金入学枠の特待生で、成績はにゃんと学年トップ! 

 しかも可愛くて性格も良くて、家事スキルまで極めちゃっているものだから、『異性として見れない男子ランキング』も常にトップという、男としてはちょっと不名誉にゃ称号も持っているにゃ。


 そのせいかに? アール先輩は「男らしくなりたいです」と言って、日々筋トレに勤しんでいるらしい。


「ニャアは遊びに来てるだけだから大丈夫ですにゃ!」

「そうでしたか。何事もないようで安心しました」


 うーん、天使! 

 ニャアの無事を心底喜んでくれるアール先輩は、まさに保健室の天使だにゃ! 

 イケメン枠ではにゃいけれど、ニャア的には全然オッケー! 可愛いは正義だからね!


「ところでアール先輩は、これから保健委員のお仕事ですにゃ?」

「ええ、備品のチェックと昼休み中に怪我された方がいらっしゃいましたら手当を」

「どれもこのニートの仕事にゃのに、偉いですにゃ……」

「もうその件は諦めていますから」


 そう言ってアール先輩が少し苦笑すると、早速棚の薬品や包帯のチェックを始めた。

 その間当の氷雨と言えば、ベッドにごろんと寝転がってケータイを弄っている。

 多分妹さんにメールでも送っているんだろうにゃ。

 マジダメ人間。


 その後、それぞれのことをする二人を横目に、ニャアは保健室で自由に過ごした。

 この日は怪我人が出る事もにゃく、実に長閑にゃ昼下がりって時間だにゃ! 


「ふわぁ〜また眠くにゃってきちゃった……」


 午後の授業が始まる五分前。

 保健室を出たニャアが、大あくびをしにゃがらボヤく。


 午後の授業ってどうしてこんにゃに眠いんだろうね……

 確か血糖値がどうのってテレビで言ってたようにゃ? 


「ふわぁ〜」


 うん、午後の授業は多分ダメだにゃ! 

 にゃんて事を考えながら、教室へと戻るのだった。

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