すまん、親友を庇って謹慎なんだが

重い・・・。

何が重いかって?

そりゃこの教室の空気がだ。

では何故こんなにも重くなっているのか?

ついさっき午後の授業開始のチャイムがなり、遅れて担任の教師が入ってきたと思ったら何やら神妙な顔つきである。

そんな教師の第一声が、


「先程、女子更衣室が何者かに荒らされている事が発覚しました・・・」


だって。

そりゃ重くなるわ。

ホモの俺にとって女子更衣室なんて関係ないけど、一般的に考えたら一大事だぞ。

そんな訳で今各教室では、その話で犯人を捜しているらしい。


「先生たちは生徒を疑う事なんてしたくありません。外部犯の可能性を考えています。ですがもしもこの中に何か心当たりがある人がいれば放課後職員室まで来て下さい。校長先生は警察沙汰にする前に申し出てくれれば通報はせず、自宅謹慎で済ますと言っています。」


これだからうちの学校は軽いんだよなぁ。

普通は即通報だよ?

まっ、俺には関係ないけどね!

そうしてこの話はこれで終わり・・・のはずだった。


「あの先生・・・」

「どうしました?」


一人の女生徒が手を上げる。

・・・まさかこいつが・・・な訳ないか。


「あの、私見たんです・・・」

「えっ?それって犯人をですか?」

「いえあの・・・」


なんだ煮え切らないな。

見たんなら早く言ってしまえ!

更衣室荒らすような奴は皆の前でばらされたって自業自得だ。


「さっき教室に戻るときに、女子更衣室の近くを静別君が通るのを・・」


終わったな。

これでそいつはみんなから女子更衣室を荒らした奴認定され学校に来ることもなくなるな。

そんな事をしなければ良かったのに。

・・・・・・ん?

待て、今なんて言った?

静別?

いやいやいや・・・えっ?

チラッとどころか思いっきり首を代の方へ向ける。

俺だけでなくクラス全員、さらには教師までもが代を見る。


「・・・え」


当の本人である代は何が起きたか分からない顔をしている。

口なんてあんぐりだ。


「それは本当ですか?静別君」

「え、あの、お手洗いに行った後にそこは通りましたけど僕は何も・・・」

「分かりました。放課後職員室まで来て下さい」


代が言い終わる前に教師が口を挟む。

もちろんそんな事をすればもう代が犯人扱いだ。

教室の誰もがヒソヒソと代の影口を言っている。


「うそぉ~、静別君が」

「うへ~信じらんない」

「そんな事する人だったなんて」


好き勝手言いまくるクラスの連中。

それを尻目に俺の心中はと言うと、


(あの糞アバズレ女がぁ~~~!!!代がそんな事する訳ねぇだろうが!!何なの?代の可愛さに嫉妬してんのか!!なぁそうだろ!!ピーするぞ!!出会い系サイトにてめぇの顔写真載せてやろうか!!!あぁぁん!!)


教師にとんでもない事を言いやがった女生徒を全力で罵倒していた。


(後教師!!まだ代が喋ってただろうがぁぁぁ!!代の可愛い声をお前の汚声で汚すんじゃねぇ!!警察署の前で抱いてくださいってプラカード持たせてやろうかぁぁぁ!!)


後教師も。

まだまだまだ罵倒し足りないがそんな事をしている場合では無い。

代を助けねば!!

代の方に向き直ると今にも泣きそうになっている。

目の端に涙が溜まっている。


(なぁにぃ~!!可愛い!!じゃなかった)


不謹慎にもこんな状況でも可愛いと思ってしまった。

すまん代。

その償いも兼ねて今俺が、親友の俺がお前を助ける!!

俺は迷いもなく席を立つと教師を睨む勢いで・・・と言うより実際睨んで叫んだ。


「先生!!俺がやりました!!」


ポカーンとする教師にクラスのみんな。


「ちょっ、ちょっと新聖君?どうしたの急に」

「女子更衣室は俺が荒らしました!!代は・・・静別君は全くの無実です!!全部俺がやりましたぁ!!!」


まるで好きな娘に盛大に告白するかのような勢いで言葉を発する。

俺の覇気がすごかったのか、クラス全員が何が起きているのか分かっていない顔で俺を見ている。


「新聖君?そ、それは本当なの?」

「えぇ本当です!!女子更衣室の匂いを堪能したくて!!女生徒がここで着替えているんだぁと想像したくて!!色々とナニをしたくて俺がやりましたぁぁぁ!!!」


吐きそう!!

そんな事したいとも思わないしお金を払われてもしたくない!!

だがこれで代を無実だと証明できるならばぁぁ!!


「わ、分かりました。新聖君、放課後・・・いえ今すぐに私と職員室へ行きましょう」

「分かりましたぁ!!」


俺は教師に連れられて教室を出ていく。

未だにポカーンとしているクラスのみんな。

そんな奴らは眼中にないと言わんばかりに俺は代を見る。

目が合った。

代が真っ直ぐに俺の眼を見ていた。

いや見つめていたと言っても良いだろう。

教室の扉が閉まり代との繋がりが断ち切られる。

これで良い。

俺は代のために今できる事をしただけだ。



結果からお伝えしよう。

自宅謹慎です。

先生方にめっちゃ怒られた。

校長にも怒られた。

みんなにはキモがられた。

ただ教師が言っていたように警察沙汰にはならなかった。

だが俺にはそのどれもが気にはならない。

今一番気にしているのは、


「代・・・大丈夫かな」


親友の事が気になって仕方がない事だけだ。

まぁ謹慎が明けるまでは大人しくしておくか。

・・・後最後に一言、更衣室荒らした犯人・・・てめぇだけは許さん!!!

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