これがいわゆる

 香月が姉貴とご飯を食べている頃。俺は一人、疲れと汗を流すようにシャワーを浴びていた。

 シャワーを止め、風呂場に残るのは自分の息遣いと髪から滴り落ちる水音。

 ガラガラと扉を開け、俺はあらかじめ用意していたバスタオルを手に取る。

 未だに残る熱気と、濡れた床の上で俺は体を拭く。

 そこで俺は、一つ大きなため息を吐いてしまう。

 全く想像のつかない、これからの展開を考えると、気分が落ちる。

 それも、大まか良い展開にならないことが、なんとなく察せれることも気分が落ちる大きな原因と言えるだろう。

 多分、めっちゃハッピーエンドってことにはならないだろう。

 それだけは、どこか確信がある。

 まあ、なにが基準でエンドとなるのかは分からないけど。

 香月の問題が、なんらかの形にエンドとなった時に、全員笑顔でいられるかと言われると。

 まあ、そんなこと考えてもしょうがない。

 結局は、俺には何もできないんだ。

 そもそも、香月が何を抱えてるかも定かではない。

 そんなことを考えながら、俺は自分の部屋へと戻っていく。

 部屋着へと着替え、首には汗拭き用のスポーツタオルを掛けている。

 ベッドに倒れ込み、俺はズボンのポケットへと手を伸ばす。

 ……あれ、スマホがないんだけど。

 洗面所に置いてきたか? まあ、家で使った記憶はあるからどこかで落としたとか、忘れたとかではないだろう。

 俺は、焦らずにと心の言いつけ、ゆっくりと洗面所へと向かう。

 ふわーと、だらしないあくびをしながら俺は、洗面所のドアを開ける。

 あくびで出た涙を拭いながら、ぼやけた目でスマホを探す。

 すると、棚の上にスマホが置いてあるのが見えた。

 俺は、ふうと一安心して洗面所を出ようと振り返ると。

「な、な、な……」

 体を大きなバスタオルで隠しながら、顔を真っ赤にしている香月の姿がそこにはあった。

 ってことは、そのタオルの下は……。おっと、天谷翔。皆まで言うな。

 ここは、そうだな、何もなかったように、しれっと出ていけば、まあ、なんとかなるだろ。知らんけど。

「おお、香月。お前も、風呂か。ゆっくりと浸かってけよー」

 俺は出来るだけ広角を上げて、何も知らないように無垢な笑顔で言う。

 よし、良いぞ天谷翔。そんな純粋な笑顔をこんな状況で出せる人なんてそういるまい。

 これで後は、脱衣所から抜け出せることができれば。

 だが、ドアノブに差し掛かろうとした俺の手を、香月がガッと掴む。

「なんでだよ!」

 思わず俺は、素に戻って香月の方を振り返ってしまう。

 すると、香月は頬を赤く染め、俯きながら俺の手を掴んでいた。

「わすれて……」


「え?」


「だから!今見たことは全て忘れる!分かった?!」


「は、はい!分かりました!」

 そう言って、俺は急いで部屋から出ていく。

 はー。緊張した。色々な意味で。

 これが、俗に言うラッキーなんちゃらってやつか。 

 まあ、これから俺が学んだことは、脱意所には気安く入るべからず。

 

 

 


 

 

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