香月沙也。

香月沙也

 家に帰ると、聞こえるのは母と父のとても乱暴な怒鳴り声だった。

 僕のことなんか見ずに、二人は思うがままに日々の不満をぶちまける。

 それを、僕は自分の部屋で一人、うずくまって聞いている。

 これが、僕の日常だった。


 そんな僕は、想像の世界に逃げ込んだ。

 昔から好きだった、漫画や小説のキャラの真似をした。

 漫画や小説の強いキャラの真似をすれば、もしかしたら、僕も強くなれるかもしれない。そんな、単純な動機だった。

 漫画や小説などの、キャラが言っていた、技や魔法や設定を真似して、言ったり実践したり、正直、そんなに楽しくなかった。

 でも、少しは気を紛らわすことができた。

 キャラの真似をしている時は、現実を忘れることができた。

 ただ、それだけに、思い出した時の反動は大きかった。

 家に帰れば、嫌でも思い出してしまう。


 母と父の怒鳴り声。

 なんで喧嘩してるのか知らない。

 何を言い合っているのかも分からない。

 そして、父と母は一定の時間、言い合いをすると、決まって家を出ていく。

 まるで、僕なんていないように。僕のことなんて、忘れてしまったかのように。

 朝起きても、昼が来ても、夜が来ても、誰も僕のご飯を作ってくれない。

 誰も、僕の服を洗濯してくれない。誰も、僕を起こしてくれない。

 誰も、掃除をしない。誰も、何もしてくれない。

 誰も、僕の家族になってくれなかった。


 

 

 

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