家族。その2

 天谷を連れ、私が向かったのは一階の端っこにある大きな本屋……の目の前にある小さなギターの専門店。

 その店は、このモールの中でも店の規模は小さい方で、その見た目は暗い店内も相まって、とても地味で周りにはほとんど人がいない。

 私は天谷を連れて、ゆっくりと店の中に入っていく。その手は、今も天谷の手首を握っている。

 ゆっくりと動いていく私の視界には、壁に引っかかったギターが写っていく。

 私が愛した、姉さんが愛したギターが。

「この店、ギターしか売ってないな」

 天谷は壁中に引っ掛けられているギターを眺めながら言う。

 それはどこか、独り言のようにも聞こえた。

「まあ、ギター専門店だからな」

 私も、まるで独り言を言っているかのように答える。

「ギターの専門店なんてあるのか」

 こいつ、全く興味を持ってないな……。

 まあ、しょうがないか。こいつ、興味ないことにはとことん興味持たなそうだもんな。

 そんなことを思いながら、私はこの、天谷翔という男を見つめる。

 容姿は完璧。整った顔立ちに、スラーっと伸びるモデル体型。これをイケメンと言わずして何をイケメンと言うのだろうか。そう思えるほどに天谷はイケメンだ。

 多分、昔の私だったら、一目見ただけで恋に落ちてただろう。

 あの時の、まだ恋愛に憧れを持っていた私ならば。

 そう思い、私は手を離す。


* * * * * *

 

 一ノ瀬の行くがままに、俺はギター専門店を後にする。

 そもそも、なんで一ノ瀬は俺を連れてきたんだ。

 ふと、そんな疑問が頭をよぎる。

 それもそうだ、ショッピングいうものは女性同士で楽しむものであり、男は所詮荷物持ち。

 ただ、一ノ瀬はその荷物でさえ自分で持っている。

 服を見たり、ギターをみたり、いろんな店に行く道中だって、真彩だったり音山とかと来た方が楽しかったはず。

 なのに、一ノ瀬は今日という日に俺を誘った。

 ゴールデンウィーク最終日という、言わば遊び納め。

 そんな大事な日のショッピングに俺を誘った。

 その理由を俺は知りたかった。

 そんなことを考えながら、一ノ瀬の方を見ると、店の前に置かれているギターの前に、座り込み、ギターをそっと優しく撫でていた。

 その瞳や表情や、手つきは、ゴールデンウィーク初日に同じ場所で見たのと一緒で、とても優しく、暖かかった。

 確か、お姉さんがギターを好きだったんだっけ。

 そんな情景に浸っていると、一ノ瀬の目から、涙がこぼれ落ちる。

 それが、悲しみからくる涙なのか、なんなのか俺には分からない。

 ただ、一粒一粒、綺麗にこぼれ落ちるその涙は、とても美しかった。

 一ノ瀬はとても優しく、穏やかに笑っていた。

 そして、ギターをそっと小さく抱きしめる。店のギターを傷つけないように、そっと、優しく。

 そして、何か決心がついたように、バッと立ち上がり俺の方を向き言った。

「よし、決めた!私、これを買う!」

 そう言い、一ノ瀬はギターを抱き上げ、店の中まで持っていく。

 まあ、本人が決めたなら別に文句はないんだけど。

 俺はふと、そのギターの値段が視界に入る。

 …………ギターってこんな高いの?

 

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