二度目の告白。

 スマホのホーム画面を見ると14時と表示されていました。

 少し遅めの昼ごはんを終えた私たち四人はフードコートのテーブルに腰を掛け、休憩タイムに勤しんでいる最中です。

「それで、この後はどうするんだ?」

 私の対面に座っていた天谷くんは、テーブルに肘をつき、退屈そうにしながら言います。

 うー、やっぱりいつ見てもかっこいいなぁ、天谷くん。

 さっき行ったお店の店員さんだって見惚れてたし、あーもう!ライバル多すぎ!

「正直、もうすることないよなー」

 私の隣に座っている一ノ瀬さんは、これまた退屈そうに言う。

「そうねー。もう帰る?」

 天谷くんの隣に座っていた真彩ちゃんも、これまた退屈そうに言う。

 あれれ?みんな退屈そうだよ?まあ、欲しいものは買えたし、帰るでもいいけど、そうなったらまだちょっと、心の準備が整ってないよー。

「だな。雨も降りそうだし」

 そう言って天谷くんは上体を少し起こし、窓の方を見る。

 それに釣られるように、私も窓の方を見ると、雲行きがさっきよりどんどん怪しくなっていた。

 はわわ、そういえば傘持ってきてない!?

「わ、私、傘持ってきてない」

 俯きながら私は言う。

「やば、私もじゃん」


「私もだわ。これは……早く帰らないとまずそうね……」

 窓の方を見ながら真彩ちゃんは言う。

「じゃあ、そうと決まればさっさと帰るか」

 そう言い、天谷くんは席をバッと立つ。

 それに釣られるように、みんなも席を立ち、私も席を立つ。

 そして、私は一回二回と心臓を押さえながら深呼吸をする。

 大きく息を吐いた後、パッと目を開けると、目の前には天谷くんがいて何やらスマホをいじっていた。

 そして、スマホをポケットへとしまい、私の方を見て、わかったよとアイコンタクトで伝えてくる。

 私はそれに、ありがとうと目で伝え一つにっかりと笑う。


* * * * * *

 

 空一面が雲で覆われた空。ちょっとずつ雨もぱらつき出し、着ていた服が段々濡れてきている。

 そんな中、私たちは星空駅と書かれた駅まで来ていた。

 ここから、帰る人たちはそれぞれ道が違う。

 いや、真彩ちゃんと天谷くんは一緒なのか……羨ましい。

「じゃあ、私はこれで。また今度な」

 そう言って、一ノ瀬さんは荷物を傘がわりに頭の上に持ち、小走りで帰っていく。

「じゃあ、私たちも。じゃあね美桜」

 そう言って。手を振りながらくるっと一回転して天谷くんを連れて一緒に帰ろうとする真彩ちゃんだったが、天谷くんはその場を動かずに止まって言った。

「ちょっと俺、用があるから先帰っててくれ」

 真彩ちゃんの方を向き天谷くんは言う。

「え、あ、うん。わかった」

 真彩ちゃんは少し驚いてはいたが了承をした。

 なんか、私の方を見てニヤッと笑った気がするけど、多分気のせいだと思う。

 そう、思いたい。

 そして、天谷くんは真彩ちゃんが曲がり角で見えなくなるまで、見送り、見えなくなった瞬間に私の方を見る。

「それで……。話があるんだろ?音山」

 そう言った天谷くんの表情は相変わらずの無だったけど、その声色からは優しさを感じ取れた。

「う、うん。天谷くんに伝えたいことがあるの」

 私はまた、大きな深呼吸を二回する。

 スーと吸ってハーと吐く。これだけの動作でものすごく緊張が解ける。

 そして、私は告白をする。

 人生で二度目の告白をする。

 結果は分かってるけれど。

 私は伝える。

 この胸がはちきれそうなくらいの思いを伝える。

「私は、天谷翔くんのことが好きです。大好きです」

 私は言った。

 ありったけの思いを乗せて言った。

 「そっか……」

 それを聞いた天谷くんは、一つあははと笑いながら言う。

 それが、苦笑いなのか、愛想笑いなのか、はたまた違う笑いなのか、私には分からなかった。

 ただそれが、嬉しさや、喜びからくる笑いではないことが私にはわかった。

「ごめん」

 直後だった。

 天谷くんは、俯きながら言った。

 そう言われた瞬間。私の頭は真っ白になった。

 結果は分かってたはずなのに、いざそう言われると胸が苦しくなってくる。

 でも、それでも私は言わなきゃダメだった。

 もし、告白しなかったら、思いを伝えずに胸に秘めていたら多分私は……。

「なんでなの?なんでダメなの?」

 私は理由を聞いた。

 これで、もしかしたら少しは自分の気持ちが楽になったらと思い。

「前に告白された時から、色々あって音山とも少しは仲良くなれたと思ってる。でも、それでも、俺は音山のことを好きじゃない」

 なにそれ……。脈なしじゃん……。そんなの、勝てっこないじゃん……。

 雨は段々と強くなってくる。

 まるで、私の気持ちを表してくれているかのように。

 それでも、それでも、私の初恋は終わらない。

 いや、終わらせてたまるか!

 こうなったら!とことん当たって砕けてやる!

 恋愛は戦だ。

 絶対、絶対に私が勝ってやる。

 例え。どんな手を使ってでも。

「あはは、あははははは、ははははは」

 私は笑った。

 なにも考えずに、ただ無我夢中に。

 笑って、笑った。

 狂ったように、笑った。

 私は天谷くんのところへ一歩一歩詰め寄っていく。

 そして、その距離がギリギリまで近くなったところで、私は天谷くんの心臓をグーで力を込めずに一発殴る。

「勝ってやる」


「……」

 天谷くんのその声にもならない吐息が聞こえたところで私は、天谷くんの心臓に触れている拳に力を込めて、言った。

「絶対勝ってやる」

 そう言った後、私は半歩下がりながら、心臓に置いていた手を離し、そのまま天谷くんの胸ぐらをガッと掴み、私の顔のところまで持ってくる。

 そして、私は天谷くんの頬にキスをし、こう言った。

「私に惚れられたこと。後悔させてやるんだから!」

 天谷くんの頬は、雨の味がした。

 こうして、私の人生で二度目の告白は呆気なく振られて終わった。

 ただ、私の初恋は終わらない。

 いや、今、この瞬間が、私の本当の初恋の始まりかもしれない。

 大雨に打たれながら、私はそう思いました。

 

 

 

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