2.ビックウルフと魔法

 取り敢えず僕は、火を起こすのを諦める事にした。




 というのも、この世界に転生したのはいいけれど、手持ちの荷物は一切なし。


 おまけに、火を起こす知識なんて前の世界では必要なかったから無いし・・・。




 という事なので、潔く諦める事にしたという訳なのです。




 しかし、何だか嫌な気配を感じるのは気のせいだろうか??


 グルグルと唸るような音が聞こえたり、足音の様な音が聞こえたり・・・。




 しかもその音、確実に僕のいる場所に向かって近づいて来ているような気がするんだけど。


 何だか結構ヤバくないか、これ??




 そう思って、逃げようかと立ち上がった時には、時すでに遅しだと気が付いた。


 目の前の草むらから、オオカミの様な、でもそれにしも少し大きい気がする生き物が現れた。




 「ヒィーッ!?」


 我ながら、情けない声を出したなとふと思ったんだけど、そんなこと言ってるより、とにかくヤバイ。


 今の情けない声で、その生き物、う~んと、"ビックウルフ"と名付けよう!


 ビックウルフが僕に気が付いてしまった。




 もう、絶体絶命のピンチ!!


 何やってるんだよ僕は・・・。




 そんな事を思って硬直していると、ビックウルフが僕目がけて飛んできた。


 「あぁ、せっかく異世界に来たのに、こんな何にもない森の中で死ぬんだな・・・。


叫んで硬直する暇があったら、木の棒でも何でも手に持っておけばよかった・・・」




 そう呟いたけど僕は、せっかく異世界に来たんだ。


 諦める前にせめて、可能性があるなら!!




 そうして、目を瞑りながらも手の平をビックウルフの方に向け、火の玉が出るよう心の中で願う。


 そう、ここは異世界。


 もし、もし魔法がある様な世界なら、少しでも希望があるなら僕はそれに賭けてみる!




 そうしている事数秒・・・。


 目の前で「ポスっ」っとした音が鳴った。




 そうだよね、きっと一思いに噛まれたんだよね。


 魔法なんてあるわけないよね・・・。




 いやでも、何でだろう。


 痛みが無い、ビックウルフの鳴き声や息も聞こえない。




 恐る恐る目を開いてみると・・・




 「え・・・!?どうなってるのこれ!?」


 本日何度目だろう、思わず叫んじゃったよ。




 だって、目の前には焼け焦げたビックウルフが転がってるんだもん!!




 「あれ??魔法使えたのかな??えぇーーー!?」


 また叫んじゃった・・・。




 取り敢えず、我に返って自分の身体を確認。


 うん、しっかり地に足を付いてるし、どこもケガをしていないね。




 手は??きっと右手から火の玉か何かが出て、このビックウルフを倒したんだよね??


 そう思い、右の手の平を見てみたけれど、特に火傷とかもしていないみたい。




 「良かった~」


 もしこの世界に、変な病原菌がいたり、医術とかが発展していなかったりしたら、ただの傷一つ、火傷一つでも怖いもんなー。




 目の前の危機が落ち着いたからか、何とか落ち着いてそんな事も考えられるようになったみたい。




 「ひとまず今回は何とかなったけれど、次もそうとは限らないしな。そうだ!!さっき拾い集めた木の棒たち、それで簡単でもいいからナイフかなんか作ろう!」




 「それと、よくよく見るとこのビックウルフ、犬歯がえらいどデカいな。腕の肘から指先ぐらいまであるし、それをナイフで取って剣の代わりにしちゃおう!」




 「それからそれから、お腹空いたし火の魔法も使えたし、このオオカミさん食べてみようかな!!」




 その後も、生き抜くために色々なアイデアが浮かんでは消え、浮かんでは消えていったとさ。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る