第2話 増減

15歳の頃、頭を強打する事故に遭い入院した。


それまで病気らしい病気もしたことがない私は運動好きで、


「食べる」ことにそう重点を置いていなかったこともあり、


痩せていた。痩せすぎと言われるほどに。


入院中は、たいしてすることもない。


頭を強打していたため、当然のようにテレビも観られなければ、


読書もできない。いや、読書と言っても読むのはマンガなのだが。


勉強はあまり好きではなかったので、できなくて有り難いほどだった。


入院の原因となるものは、頭の強打。


つまり、食事制限はないのである。


これが危険の始まりだったことに、当時は全く気付かず。


なぜなら、私の辞書に「太る」という文字はなかったからだ。


入院当初は、多分点滴だったんだろう。その辺、あまり記憶がない。


頭を打って数日間は動けなかったのだから、それはそうだろう。


入院中の食事、どうだっただろう?それも記憶に薄い。


ただ、「お見舞い」は多かった。


当時、「友達」が入院するという珍しい一大事に、友達たちはこぞって見舞いにきたものだ。


たいしてすることもない私は、口から物が食べられるようになったことで


母もやたらと食べさせたがらせ、私は口から物を食べる美味しさにようやく気付き、


私はそのお見舞いたちを有り難くいただいた。



数週間の入院を経て帰宅した私が体重計に乗って驚いたことは言うまでもない。


160cmで40そこそこだった私の体重は、50を超えていた。


私はメモリを見間違えたかと思い、体重計に二度乗りした。


背筋がゾッとするとは、この時のことを指すのだろう。


私の辞書に「太る」という言葉が載ったのは、この日だ。


マズイ、痩せなきゃ……


が、家でもしばらく安静だった私は、それこそ食っちゃ寝の数日を過ごし


ようやく外に出られるようになったとき、自分の身体の重さに気付いた。


あんなに運動好きで動いていた私が動けないのだ。自分でも驚いた。


そうなると、人は動かなくなるものだ。


いや、人は……と、一括りにするのは申し訳ない。


「私」は、ちょっとした運動でも身体が思うように動かないことを感じ、


運動することが億劫になって、しなくなっていった。


この時も、自分の辞書に「太る」という文字が付け加えられたことを自覚し


大変でも、少しでも身体を動かし続けていればよかったのだ……


そうすれば、さらに増えることは避けられたに違いない。


今さら、遅いのだが。


……と、今さら遅いとずっと思っている間中、たとえ少しでも運動すればよかった。


今さら遅いのだが。


いや、そうだ、今からだってできる。


それはわかっている……頭の中ではわかっている。


が、簡単ではない。


私は、体重が簡単に落ちることがないと、あれからずっと知っている。




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