第弐拾話―亜人の領土―

亜人の領土。

その容姿は人と動物の半分が混ざった種族である事と伝わっているが、詳細は不明。亜人と呼んでも様々なタイプがある。動物の毛皮が多く生まれた者や猫耳しか持たない者などがいる。


表上は人類の保護下であるが、実質の支配下にあり無休と無給の強制労働などしいたげられているが、最近は転生者側による反発があり扱いを奴隷よりもわずかにだが良くなっている。しかし、亜人の領土に入ればそれを疑わしくなるものであった。


「相変わらず、ここはひどい所だな」


ガロンがそう言うのも仕方ない。

荒廃した土地、開発途上中は頓挫とんざした建物。唯一、発展していると言うならば農業であろうか。


「うん・・・何もなくて、

どうしてこんな」


「弱者は虐げられる。

それが、魔物と違い言葉を通じる亜人だからこそできる人の所業しょぎょうだろう」


「しょぎょう・・・」


「悪い行い意味だ」


畑があるが何者かが荒らされ収穫はごくわずか。さらに年貢も高く自分達が売ることや食べる物など入れると爪の先ほどしか残らない。


「ガロンさん。ここにいる人達を助けること出来ませんか?

少しだけ暮らしを楽にするとか」


「人達か・・・そうだな。

社会という大勢の力でもなければ救うのは難しい。俺だけじゃあ、出来ることなど限られてくる」


建物や畑に亜人が、暇を持て余している。壁にもたれ空をただ見上げる者や、懸命にたがやす人もいるが活気がなく生気を感じず酷いものだった。内ケ島椛葉が心を痛めて亜人を人と呼称した事にガロンは好感を持ってた。


「でも、わたしは助けます。

ガロンさんが、そうしないなら」


きつねの色が濃い幼女二人が荒地にある岩石を座っている方へ内ケ島は近寄ると、二人の幼女はビクッと身体を震え身体を寄せ合う。


「ひっ!?」


「あ、あぁ・・・」


ウエストポーチから内ケ島はリンゴを取り出し施すそうとする。

狐人きつねびとの幼女二人はどうするか、顔の表情で相談して警戒心よりも空腹感に負けて

二人分のリンゴを受け取りおそるおそるとかじる。


「っ〜!おいしい」


「うん、おいしい!」


「うん。まだ、あるからゆっくり食べてね」


よほど空腹か美味だったか、二人はいただいたリンゴを勢いよく食べる。


「子供、好きなのか?」


ガロンは内ケ島がよく子供を声を掛けるので、そう思った。本人が子供だから気持ちがよく分かるのが理由かもしれないが。


「うーん、こういう時って好きとか嫌いじゃないと思うんです。

苦しんでいる子がいると、反射的に動いたと言うのか・・・そんな感じです」


「よく分からんが、感情的であることは分かった」


狐人の幼女に逃走の際に手に入れたリンゴを全部、渡した内ケ島は手を振って二人を明るい笑みで別れる。


「ここまで、するとはなぁ」


「かわいいかったですので、つい。全部あげてしまいました。えへへ」


「アンノーンオーブの使い手は亜人が人気なのだが、どうしてだ?」


「かわいいからです!」


迷いもく言い切った内ケ島にさすがのガロンも言葉を失った。

何か狙いがあるのではないかと高度な謀略を巡らしていると思ったのだが。


「なら、異世界からの住人はこうも亜人が好きなのか?」


「はい。少なくとも、わたしの日本では嫌いな人はいないと思いますよ。グッズとか

フィギュアとかありますので」


「にほんやグッズなどは分からんが、ようするに扱いは違ったことか」


ガロンの認識では、内ケ島の発言した――にほん(おそらく地名か首都)には、住む亜人はちやほやされていると勘違いしている。


「はい、そうですね」


アニメ、マンガ、ラノベなどの異世界ものなら絶対的に出てくる種族であり萌え属性。決してアークブルーの全種族に理解し難い価値観。異文化の違いで苦労することになるが、それは先の未来。


「すまないが、アンノーンオーブを知っていることを教えてくれないか?」


ガロンは、痩せ細った中年の男性に話し掛けた。男はガロンを見てどうしてそんな事を訊くのか

怪訝に思ったが何をされるか分からず答える選択以外はなかった。


「し、知らねぇよ。そんなの」


「そうか、これはお礼だ」


「うわぁー!?これって柿?」


携帯食と持っていた柿をガロンは

受け取れと言わんばかりに前に差し出した。男は、受け取るとガロンは腰を上げて去ろうとする。傍観していた内ケ島はついて歩く。


「ま、待ってくれ。確か煉獄の焔を使うソウガって言うアンノーンオーブが亡くなったって聞いたぜ」


「そうか、情報を感謝する」


すでに知っている情報なのだが、指摘もせずガロンはお礼して次に別の人に声を掛けた。狼人オオカミびとの23歳の青年。


「すまないが、アルボルグにいるアンノーンオーブを教えてくれないか?」


「ああ、けど俺は知らないんだ。すまない」


「いや、こちらこそ、すまない。

これは心のお詫びと思って受け取ってくれ」


ガロンは梨を取り出し狼人の掌に乗せてお礼の品として渡した。狼人は茫然自失ぼうぜんじしつとなる。ガロンはきびすを返そうとする。


「待ってくれアンタ。渡されたなら応えないといけねぇなぁ。

アンノーンオーブに氷の使い手が凱旋するって噂があるんだ」


ガロンは聞きたかった情報に足を止めて振り返る。そして言葉には氷の使い手が凱旋をしようもしていることに。


「なるほどなぁ。貴重な情報を感謝する。追加のお礼だ」


ガロンは梨とリンゴを一つずつ投げ渡した。キャッチした狼人は「へへ、サンキュー」と言って去る。


「ガロンさん。もしかして食べ物で釣ろうとしていません?」


「ただであげるのは、勿体もったいないだけだ。そこの子供、アンノーンオーブを知らないか?」


水ぼらしい格好した犬人いぬびとの少年はガロンが突然、声を掛けられた事にビクッと肩を震え首を横に降る。


「そうか。受け取れ報酬ほうしゅうだ」


いもが入った紙袋を取り出し少年の前に差し出した。犬人の少年は警戒して受け取り紙袋から干し芋を手に持ち匂いを嗅ぐ。ガロンは踵を返して次は誰に声を掛けるか視線を巡らす。


「ガロンさんやっぱり優しいですね」


「突然なんだ?」


「ただであげるのはもったいないと言ってましたけど、気を使わないようにしている気がするんです」


「・・・気のせいだ」


内ケ島に図星を言われガロンは捨てるように言葉を吐き出して

考え過ぎだと表情に出す。内ケ島椛葉はガロンの態度にかわいいと思うのだった。

ガロンが情報を訊いては果物などを渡していくこと数分。


「欲しい情報は無かったが、まぁいい。そろそろ人類の領地に向かうぞ」


携帯食が、そろそろ少なくなって

情報収集と渡すことやめて次の目的地に向かおうとガロンは内ケ島に言った。内ケ島椛葉は今になって気づいたことがある。それは自然に話をしてくれたこと。


「了解しましたガロンさん!」


弾くような笑顔で答える。


「向かうと言ったが夜は近い。

今日はここで休むことにする」


ガロンは、前もって焚き火するために腰に紐で結んでいたオーガ領地の山中から集めたまきを取り出す。火を起こすのは初級焔魔法で火を起こす。すると、子供の亜人達が寄ってくる。


「わあぁー!」


「なにをつくるの?」


「えーと、家に帰らないの?」


内ケ島の問いに返るのは沈黙。


「おそらく孤児だろう」


「そうなんですね。ガロンさん食事どうします?」


「オーガの地に戻って食料を獲ってくる。おまえは、そこで子供の相手でもしていろ」


ガロンは今日、来た道のオーガの山岳地帯に走っていく。内ケ島は追いかけるべきか悩むが、魔物ぐらいなら大丈夫だろうと思って鬼人の言われた通り面倒を見ることにした。静寂な星々と月光の下、ガロンが獲物のクマなどを獲って戻ってきた。


「なんだか、すごいアウトドアでワイルド」


戻ってきたガロンに内ケ島はそう呟いた。それから、増えた人数を作ることを強いられたガロン。


料理が出来て子供達と食べると、食事していると、大人も混ぜって大勢で食事することになり、今度はガロンと腕自慢の

亜人と食料を獲る流れとなった。


ひっそりと食事のつもりがうたげとなったことにガロンは未完成の建物に入ってため息をこぼす。


「どうして俺が大人数の食事を作らないといけなくなったんだ!」


「すごい人数でした。まさか、あんなにいたなんて・・・」


ガロンと内ケ島は疲れていた。未完成の建物は宿泊として建築しようとしたのが窺える。まぁ、少し踏むだけできしんでいつ壊れてもおかしくない危険な所だが襲撃をされると危険がある平な場所で就寝するには危険と考え、

建物の中に休むことにした。


(軋むなら、警告音の代わりにもなるだろうから上に泊まるか)


「2階に上がるぞ」


「ガ、ガロンさん。ここで泊まるの怖いのですが、落ちそうで」


「俺達は追われている身だ。

場所を選べる余裕はないだろ」


「わ、わたし。入口の近くに寝てもいいでしょうか?」


地面や壁がもろく不安もあったが、それ以外にも照明器具があるわけがなく狭く暗い場所は苦手でゾンビなど現れそうで上がりたくない理由でもあった。そんな事を言うとバカにされそうで言わないが。


「別に構わないが、誰かが襲ってきても俺は助けられないぞ」


「うっ・・・分かりました。

2階に行きます」


肩を落として階段を上がっていく彼女をガロンは訝しんたが、頭の隅に置いて置くことにした。

先頭を上がるガロンは周囲に警戒する。魔物が住み着いているかもしれないからだ。


(どうやら杞憂きゆうだったようだなぁ。当たり前だが――)


「ガロンさん・・・こ、ここで寝るのですか!?」


「・・・やはり一階で寝るとしよう」


2階は特にほこり蜘蛛くもの巢があり、とってもじゃないがここで寝ようなど考える人はいない。仮に寝ても何かしらの病気が罹ってしまう。病気?状態異常と同じなのが病気だ。


「おまえのアンノーンオーブでなら何かしらの病気になっても治れるか?」


「あっ、はい・・・出来ますけど?」


「そうか。なら、ここで

寝ることも――」


「ガロンさん早く降りましょうよ」


とんでもない事を発想したガロンに内ケ島は何がなんでもここには寝たくないと強い意志で独白の途中を遮り促す。ガロンは、少し呆気に取られ少ししてから降りる。

一階に降り立つと、内ケ島はすでに寝袋を取り出して中に入る。


「それじゃあ、

お休みないガロンさん」


「もう寝るのか」


「だ、ダメでしたか?」


「いや、好きにしろ。お休みだ」


不器用なガロンはお休みと言葉を言って硝子ガラスがない窓を仰ぎ見る。


「・・・・・いつか、必ず」


静かに照らす月、夜空のイルミネーションとなる星に心を奪われて。

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