第陸話ウール村

内ケ島椛葉は鬼人きじんの村と聞いて内心は荒くれ者が住む怖い村と想像していた。しかしその印象を改めないといけないと思った。


「わぁー、にんげんだ!」


「ぼくらとかわらないスゲェー」


「かみがキレイ」


様々な角には形と色をした子鬼こおにが駆け寄って内ケ島を包囲した。

次々とされる質問攻めに同じ視線にするため屈む。


「えへへ、かわいい」


純粋無垢な好奇心と愛情に内ケ島は苛酷な人生を忘れるほど癒やされていた。


「わぁー、おねぇちゃんがあたまをなでた」


「ズルいぞつぎはぼくだ!」


「ううん、わたしのばん!」


「うーん、きもちいい♪」


「ほらケンカしないでね。

ちゃんと順番を守るんだよ」


「「「はーい!」」」


そんな微笑ましい光景を離れた刀鍛冶屋の外にある床几しょうぎを座るガロンは眺めていた。

床几と言ってもバツ状のあしの一人掛けイスではなく、

横長の複数を腰掛けるイスだ。


「子供がこうして無邪気にたわむれていると穏やかになるもんだなぁ」


野太い声を発したのは中にいる刀職人であるヴォーン。筋骨隆々りゅうりゅうひげを生やした顔はドワーフのよう。

ガロンは一瞥いちべつもせず内ケ島と子供達を向いたまま。

ヴォーンは時々、つちで刀をカン、カンと叩き鉄を鍛えては手を止めて子供の方へ向いていた。


「ふん、そうだなぁ。魔物や他種族が跋扈ばっこする魑魅魍魎ちみもうりょうな世界でもこの光景は尊いものだ」


「へっ、違いねぇ」


(それにしても、アイツはこうして無邪気に笑うんだなぁ)


年相応の笑みにガロンは、どこか安堵していた。ヴォーンが入れた熱いお茶を飲む。


(この平穏を守るために転生者を一人残らずに倒さないといけない・・・それが俺の宿命なんだ)


そう静かに誓うガロンだった。


「バイバーイ。

帰り道に気をつけてね!」


内ケ島は手を振って子供達は帰っていく。夕日に照らしていく時刻に時間を忘れるほど遊んだの久しぶりだなぁと思っていた内ケ島。ヴォーンの1人、息子である赤い髪の少年おそらく10才!と推定した内ケ島は手をつないで刀鍛冶屋に向かう。


(あれ?ガロンさんがいない!?)


内ケ島椛葉はガロンがいないことに心細くなっていた。


(ううん。もう一人でやって行くんだから頼るなんておかしいよね)


孤独を知りすぎた自分は誰かの温もりや優しくされると頼ってしまってダメになると思っていた。


「とうちゃん!」


「おぅ、帰ってきたか!」


ヴォーンは、駆け寄る息子の頭をなでる。こうしていると赤い髪や体育会系が似ていると思った。

内ケ島はガロンはいないかなぁーと中を見回す。


「ガロンなら、村一番の戦士と模擬練習しているぜぇ」


ヴォーンは内ケ島の分かりやすい行動に熱い笑みを浮かべて言った。


「そ、そうなのですか。

あの、ありがとうございます!」


「気にするなぁお嬢さん。

そろそろ帰ってくるから、また息子と中で遊んでくれ」


深く頭を下げてお礼をした内ケ島は言葉に従い赤い髪の少年ヴァレストと一緒に2階に上がり古風な居間に入る。たたみに向かい座って何を遊ぼうか悩む。


「おねえちゃん、あの角なしこわいおにいちゃんのこいひどか?」


「こ、こ、恋人!?違うよ・・・

あの人は、

わたしの命の恩人で仲間だよ!」


「へぇー、そうなのか」


まさか子供にそんな事を訊かれるなんて予想もしなかったよ。っと少し慌ててしまった魔法使いの少女。


「あれ、角なしってやっぱり嫌われたりとかしているの?」


内ケ島椛葉の培った知識では角なしだと蔑視べっしされ差別されていると。虚構ではよく取り扱われている。黒い角した少年はポカンと呆然ぼうぜんとなってそれからため息をこぼす。


「あはは、なにをいっているんだよ。

おねぇちゃん!角がないからって

さべつなんかしないよ」


「へぇー・・・本当に優しいだね鬼は」


ここにガロンがいれば、俺のような凶悪な奴がいるがなぁ!と

言っていたことだろう。もちろん通り魔のような事をする鬼だっている。優しい鬼人としか合っていない内ケ島はもうそういう認識であった。


「へっへへ、そうだろ。鬼はやさしいんだぞ!」


「フフ、そうだね」


褒められた事に少年は有頂天になっていた。内ケ島はそんな少年に慈愛に満ちた微笑を浮かべる。

その後は睨めっこや達磨だるまさんが転んだを遊ぶ。


「おまえら、夕食が出来たぞーー」


(あっ、ガロンさんの声だ!?)


指相撲で死闘しとうを繰り広げている中で階下からガロンの声がした。


「はーい、今すぐに行きます」


返事をした内ケ島は少年ヴァレストと一緒に降りていく。

刀鍛冶の場所へ降りると入口から向かい奥に立っていたガロン。


(あれ、もしかしてガロンさんが作ったのかな?)


よく食事を作るガロンに、ついそう考えていた内ケ島。ガロンは組んでいた腕を解き奥の暖簾のれんをくぐる。それに続いて歩く内ケ島とヴァレスト。

和風な家から一変、洋式の居間があった。ちょっとした瞬間移動を感覚に酔ってしまいそうになる

内ケ島。ダイニングテーブルの上にはカレーがあった。


「カ、カレーだぁ!?

まさか、カレーを食べれるなんて」


「そうだが流石さすがに食べたことがあるじゃないのか?」


ガロンの疑問に内ケ島は叫んだ事に頭後ろにさするようにして羞恥と困り混じった苦笑する。


「えへへ、そうなんですけど

なかなか食べれなかった環境でしたので」


「・・・そうか、おかわりはいくらでもあるから遠慮えんりょなく食べるといい」


「ふぇ、あっ、うん・・・・・」


ガロンの配慮に戸惑いながら頷く内ケ島。そしてガロンは内ケ島に

極貧困街の出身と解釈して憐憫れんびんな感情でいた。


「おねえちゃん!はやくたべないとさめちゃうよ」


すでに座っていたヴァレストが

カレーを食べていて、内ケ島を早く隣にと促す。


「あー、うん。そうだね。

やっぱり作ったのってガロンさんなんてすか?」


「不満なのは分かるが――」


「ううん、そんなことないよ。

作ってくれてありがとう」


「――っ!ふん、早く座って食べるんだなぁ」


「はい!」


内ケ島椛葉は魔法を使えないと伝えた後にも接し方が変わらないガロンに優しい人――もとい鬼!と

認識となると満面な笑みで食卓を囲み談笑をした。

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