第参話ふたりだけのパーティ

「待って、俺は魔物じゃない。

よく見ろ!落ち着け」


食べないでと必死に懇願されれば魔物か悪魔など思われたのだろう。とガロンダーラはそう思った。


「えっ・・・あっ!す、すみません。その据わった目をなされていましたので」


ガロンダーラは前のように優しいと呼ばれないことに寂寥感せきりょうかんを覚える。


「それより、どうしてここにいる。早く亜人領に行け」


「い、いえ魔物を倒さないといけないんです。ですので行けません」


「スライムも攻撃できないくせにか」


赤スライムを憐憫には思っているよりも攻撃行為が嫌っている。と

鬼はそう判断して発言した。


「うっ・・・」


「お前には無理だ。早く帰れ」


「でもお金が無いから、こうして倒さないといけないんです」


内ケ島椛葉うちがしまなぎはは鬼の忠告を受けても手元の少なさに戻れない。


(そう言えば人間の間では物々交換ではなくお金と呼ばれる物ではないと食べ物や宿に使うだったなぁ)


ガロンダーラも人の街に行くこともある。関所で厳しくチェックされるがそこを超えるだけのメリットはある。文化が著しく発展している人類の作った武具やアイテムなど多種多彩とある。


「親切にどうも。失礼します」


亜人領に行かず鬼人の領土の森深くに足を進めようとする。


「待って。見たところお前は魔法使いだろう」


「えっ?」


きびすを返し怪訝そうにする内ケ島椛葉。


「どうなんだ」


「は、はい。魔法使いです・・・・・一応は」


「なら一緒に行動だ。魔法使いがいれば魔物を倒すのに便利だからなぁ」


「そ、それってパーティに入れことですか?」


パーティか。集団で組んだ独立的な部隊で人類では頻繁に使われている単語。鬼は種族の壁を感じながらも、


「好きに思え」


どう思うか本人と投げやりに返事して内ケ島を前に行き首だけ振り返り、ついて来いと動かす。


「あっ、は、はい!」


当惑しながらも内ケ島は鬼のガロンダーラと行動することを選んだ。二人だけのパーティ。すぐに夜が訪れると山中で野営やえいすることになった。


まきを燃える。丸太を倒し腰を降ろした内ケ島椛葉はただ薪が燃える焚き火を見ていた。


「まさか見るのが初めてなのか」


「あっ、いえ・・・本とか映像では見たことがあるのですがリアルで見るのは初めてです」


「そうか」


小さな丸太を倒し座る鬼は指をあごに当てて考察する。


(貴族と呼ばれる令嬢れいじょうか?スライムの戦闘で魔法を使わないのも分からん)


「お前は赤か青または治癒ちゆのどちらだ」


「ふぇ?ご、ごめんなさい。

どういうことですか」


「決まっているだろう。得意魔法で呼ばれる属性使いの名称だ」


魔法は全部で八つの魔法がある。それを八大元素はちだいげんそまたは八大魔法。焔、水、風、雷、土、氷、聖、えんの八つとなる属性。


魔法使いは基本的にあらゆる属性を扱えるが個々に属性資質がある。

焔属性が得意なら赤の魔法使い。

水属性か得意なら青の魔法使い。

別枠になるが回復魔法が得意なら

治癒の魔法使いと呼ばれる。


まさか、魔法使いなのにそんな基礎も知らないのかとガロンダーラは心中で呆れていた。そんなことなど知らない内ケ島椛葉は

理解しましたと表情を示す。


「そうなんですね・・・たぶんですけと、わたしは治癒の魔法使いだと思います」


「・・・随分ずいぶんと自信がなさそうだが?まぁいい。

それならスライムの戦いで杖を殴打するのも当然か」


「あの、ガロンダゥンさんのジョブを教えてくれませんか」


名前を間違えていることにガロンダーラは気づかない。


「俺のジョブは狩人だ」


吐き捨てるように応える。


「へぇー狩人なんですね。

やっぱり強いんですか?」


「強くは技術による。主に弓を使うが俺はこの槍と仕込しこ篭手こてを使う」


片方だけサイズがある篭手を前に出して見せる。好奇心が旺盛なのかきらきらした目で見る。


「わあぁーー」


「期待の目で見ているが恐ろしい兵器だぞ。中には毒矢が放つように改造している」


「ど、毒矢・・・・・」


ゴクッと呑み込む内ケ島椛葉を見て戦いの恐ろしいさを教えれば戦いを捨てると思い話しを続ける。


「致死はしないが身体を動けなくなる毒はある。動きをできない獲物をゆっくりと、この槍で刺してトドメをさして殺す」


篭手の左腕を下げる。淡々とした説明をすれば穏やかな女もおののくだろう。


「か、カッコイイです」


「・・・カッコイイだと?」


「はい。プロのたくみって言うんですか?とにかく、こういう秘密兵器って感じでカッコイイです!」


「落ち着け」


前のめりになる美少女に戸惑いを隠せないガロンダーラ。

珍妙な生き物だなと思いながらも

こんな顔をするのかと思い。

純粋な眼差しが、今のガロンダーラにはむず痒かった。


「いいから寝ろ。朝は早いぞ」


「そうですねぇ、分かりました」


素直に従い腰を上げて寝ようとする内ケ島椛葉の動きは止まる。

背だけで、どんな表情しているか知らないが視線をあっちこっちと動かしている。


魔物が活発化する時間だがガロンダーラはここは比較的に危険度が低い場所で万が一のために罠をいくつか仕掛けている。


何があったと声を掛けようと口を動かす前に自称、治癒の魔法使いは困った表情で振り返る。


「あ、あの・・・わたしどこで寝ればいいのでしょうか?」


「好きなところに寝ろ!」


まさか寝所を探していたのか。

普通に寒々とある風が吹くのだから焚き火の近くを指す。


「あ、ありがとうございます」


魔法使いは持参した寝袋に入り

視線をガロンダーラに向ける。


「それじゃあ、おやすみなさい」


「ああ」


ぶっきらぼうに返事。ガロンダーラはこのまま仮眠を取る。


野営するのは危険と隣り合わせ。

活発化する魔物がうごめ

く暗夜に熟睡などしないのが鉄則。サバイバル生活に慣れているガロンダーラはこれを苦痛とは思っていない。


そして日が昇り目覚める内ケ島椛葉は寝袋から出て久し振りにぐっすりと眠れたと満足していた。

両腕を快晴の空を向けて伸ばす。


「うーん・・・気持ちいい」


「おい、朝だ!」


「ふぇ?あっ!朝食ですか。

もしかしてガロンダゥンさんが作ったのですか?」


「・・・ガロンでいい」


名前の発音が良くなかった鬼人は

そう呼べと言う。内ケ島椛葉はそれよりも朝食が気になった。

よだれを流れていないがそんな雰囲気があった。


「ガロンさん!朝食はなんですか!!」


すごい食い付きだなぁとガロンは思った。きのみと魚を現地で獲った食材で使ったスープ。


ガロンは見慣れた食材、内ケ島は見慣れない異世界の食材であった。必然、顔を満面な笑みから疑問へと変わる。鍋を覗いた内ケ島は果たして美味しいのだろうかと考える。


「こ、これはなんだかアウトですね。わたし的には」


「あっ!批判を言うなら食べてから言うんだな。ほら、喰え」


お玉杓子たまじゃくしで掬い器に入れて差し出す。スープの色は悪くない。けど魚の種類が禍々しい姿で受けつけられないと。


「・・・背に腹は変えられない。

あ、有り難くいただきます!」


決意に満ちた内ケ島の笑顔にガロンは(血路を開くような深刻な表情じゃねぇか)と心でそう思った。


内ケ島はスプーンをゆっくりと口に入れようとするのをガロンは早く入れてくれねぇかなと苛立って見ている。その自然に気づいた内ケ島は機嫌が悪い・・・もうやるしかない!と今度こそ覚悟して口に入れ咀嚼そしゃく嚥下えんげ


「う、上手いです・・・おいしいです!」


ガブガブと勢いよく食べていく。


「フッ、食べ過ぎだ。ゆっくり食べろ」


美味しそうに食べる内ケ島を見てガロンは珍しく上機嫌になる。

故郷の村で料理が得意だったガロンは誰を美味しそうに食べるのを久しぶりに満足感と舞い上がるような気持ちになっていた。


朝食と顔を洗い終えると旅支度と罠の解除して進行。草木だけ変わる風景に沈黙の二人。


「魔物がいるぞ」


ガロンは小さな足音で気づく。

プニプニとした音・・・スライム。


「は、はい!あの、わたしは

どうすればいいのでしょう」


「そうだな・・・」


ガロンは、パーティというの経験がなかった。なので仲間と協力を知らない鬼はどう指示するべきか

迷っていた。


「なら、隠れていろ。戦闘が終われば回復を頼む」


「分かりました。わたしはあそこで隠れていますね」


生い茂る中に迷いなく隠れる。

なんの躊躇いもなくするのは傷がつくとか入りたくないと反応が無かったことにガロンは軽く驚いた。


「また謎が増えたなぁ。

魔物を攻撃を躊躇ためらってそれ以外の行動は速い。

まぁ、俺には関係がないこと」


鬼は数メートルの青スライムに二本の槍を背中から抜き駆け出す。


「ハアァァァーー!」


横薙ぎによる二本の槍を柄の上部分である太刀打ちに。

青スライムは破裂するように飛ぶ。肉塊が飛び散るようなものとガロンはそう認識しているがスライムの生体はそこまで詳しくない。


続けて槍の太刀打ちを赤スライムと青スライムを打撃していき

倒していく。槍の打撃を続け9体のスライムを数分も掛からず終わる。


「す、スゴイですね」


背後から内ケ島が先の戦闘に称賛の言葉にガロンは槍の先端をまだ

生き残っているスライムを向ける。


「残している。トドメをさして

経験値にしろ」


「えっ・・・トドメを」


杖をギュッと抱きしめる内ケ島をガロンはなんの迷いがあると思う。


「奪いたくないなら戦うことはやめて人間の国に戻れ。

お前には向いていない」


昨日を見たガロンはそう強く思っていた。本人が挫折して諦念するしなければ戻らないだろう。


優しい無邪気なコイツには絶対に不向きな生き方だ。しかし

内ケ島は震える手足で進む。

スライムの前に立つと

杖を高く掲げる。


「・・・え、えい!」


ポン。と振り下ろしスライムは飛び散りそれから動きが止まる。


「ハァ・・・ハァ・・・・・や、やりました」


「他のもやれ。もし出来なければ―――」


「や、やります!」


残りのスライムも腑抜ふぬけな掛け声で杖で倒していく。

治癒の魔法使いはレベルアップが困難。その手伝いではなかったが内ケ島はそう思っていた。


「こ、これでいいでしょうか?」


「・・・ああ。これからも同じやるわけだが嫌なら戻って――」


「いえ、やってみせます!

ですので見限られないでください」


意志は固く目的を達成する是が非でもしないといけない力強さの声音だった。尋ねようとかと思ったガロンだったが長続きはしないだろうと尋ねるのはやめた。


それから歩き続き内ケ島は沈黙に耐えられず話を振る。


「あの、ガロンさんって槍を刺さないで振り回したりするのは、

どうしてですか?」


素朴は疑問だった。ガロンはそんなことも知らないのかと呆れ嘆息。


「刺すのはすきが大きい。基本的に槍は打撃で攻撃するものでトドメか大技などでしか使わないだろうなぁ。他にも使う場面があるのは集団で数多の槍を突き出す槍衾やりぶすまだろうなぁ」


「へぇー、マンガとかゲームでは、ひたすら突くイメージでした」


「マンガ?ゲィム?・・・・・とりあえずお前がいた場所が平和なんだなぁ」


「はい・・・少なくとも日本は」


内ケ島の見上げた顔には寂寥感が漂っていた。ガロンも釣られて仰ぎ見るが燦々さんさんと輝く太陽と雲。過去を思い出しているのか答えにたどり着くガロンは

ふっと思い出す。

そう言えば転生者も日本とかアメリカと言っていたことに。

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