第弐話―復讐の鬼と優しすぎる少女の邂逅―

異世界転生しチート能力、煉獄の焔を扱う有馬颯牙ありまそうがを討ち取った鬼人きじんガロンダーラはトドメを刺した槍を抜く。


「ガハッ!?・・・・・ハァ、ハァ・・・ぐっ!」


体には強く握られたような痛みが走る。骨はきしみ内臓は悲鳴を上げる。

最初にガロンダーラが討ち取った異世界転生したルーク・リチャードの

アンノーンオーブと呼ばれるチート能力で創られし青いマントの[アルティメットマント改]を煉

獄の焔に耐えて焼失した。


(あらゆる攻撃を防ぐ世界最強の盾もここまでか)


ガロンダーラもアンノーンオーブを持つ例外の存在。それは

[疾風迅雷しっぷうじんらい]。失った村を目に焼きつき気を失うと白い世界にいた。


そこで神はガロンダーラに与えられた。異能の能力。疾風迅雷は知覚、身体を数倍にする異能。


別の言い方をすれば世界のスピードを遅らせる能力。しかしデメリットは大きい。体と脳の負担が大きく

酷使こくしすれば間違いなく動けなくなるなるだろう。死の以外によることも。


「同じ墓か・・・約束したが

どうしたものか」


ここ悪魔の領地で墓を建てれば荒らされること確実。

されどこのままにするのも報われないすぎる。


「仕方ない。かなりバカなことだが・・・」


ガロンダーラは有馬颯牙とマリヤの武器の剣と弓を回収。

エレナとガイアに前へと歩き止まると、右手に持っていた弓を地面に置いた。次に鬼はふところから解毒剤を取り出し毒で硬直しているエルフのエレナの口に入れる。


「二人は死んだ。同じ墓に埋めることだな」


「・・・こ・・・・この人殺し・・・」


鬼は次に倒れているガイアに解毒剤を 口を乱暴に入れるとあごの下に片手を押し無理に咀嚼そしゃく。屈んでいた鬼は立ち上がりエレナを見下ろす。


「あのアンノーンオーブの使い手が倒せなかった俺におまえが倒せるのか?」


「・・・そ・・・それ・でも!」


倒れた幼いエルフは震える手足をおもむろに動き立ち上がる。

目には憎悪で支配された鋭さ、

その一方で深いかなしみで涙が止まらず頬に伝って地面に落ちる。


かがやけ[グロリアス]ウゥゥゥゥ!!」


詠唱。放つは八大元素の一つに数えられるせいの初級魔法[グロリアス]。杖から閃光せんこうが放たれ鬼の胸を貫こうと直進。しかし―――


「遅い!」


回収した有馬颯牙の剣を抜き

鮮やかな緑色の上段斬りで一刀両断。


「輝けぇぇ[グロリアス]!!」


「・・・・・」


今度は斬撃せず右に地面スレスレの跳躍ジャンプで回避と地面に着地すると後ろに一目散と駆け上がる。怒り心頭に発しているエレナは怨嗟えんさ咆哮ほうこうで魔法を次々と放つ。


「ちっ!」


後ろに振り返る鬼は命中の直前にアンノーンオーブ疾風迅雷を発動する。知覚と身体能力を3倍。

遅くなった一条の光を左に跳躍ちょうやくして避ける。


「輝けぇぇぇ[グロリアス]!」


鬼の俊敏力に加え疾風迅雷は速かった。右に走り避ける。

距離はどんどん遠くなっていく。


「ああっぁぁーー!輝けぇぇ[グロリアス]!」


姿が小さく見える距離になると命中率も激的に落ちてしまう。思考もできないほど怒りに支配されたエレナは何度も何度も放つ。


「輝け[グロリアス]!」


森に入って鬼の姿は見えない。

それでも何度も放っていけばいつか当たると信じて。


「やめるんだエレナ」


右手の甲を優しく重ねて制止するはガイア。


「離して!あいつだけは――」


「その前にマナが枯渇こかつする」


「そんなの・・・初級魔法ぐらいで」


「止めないと永遠に唱え放つだろう。それに・・・二人をソウガとマリヤをこのままにしたくない」


エレナは力尽きるように顔を下げる。納得してくれたかとガイアは微笑を浮かべる。内心は怒りがふくらませていた。


「あ、ああぁぁぁぁーーー!!」


エレナは杖を強く抱き青空に向けて泣き叫ぶ。哀しみと怒りは決して消えてなくらない。

そして、逃げきた鬼人ガロンダーラは木にもたれながら地面をつくと口から地を吐く。


「がハッ!ハァ、ハァ・・・」


解毒剤で回復した二人は亡骸なきがらを持って帰国するだろう。同じ墓に入れるかは二人の発言などによるが。


それよりも煉獄の焔に回避するときと近づいたときも怒り狂うエルフなどに使った疾風迅雷のダメージが大きい。


「それと奴らが無事に帰れるまでは隠れていかないとなぁ」


復讐相手である異世界転生者を討った。その討った本人の頼みを果たさないと気分が悪い。


「・・・ただそれだけだ」


自分にそう言い聞かせるように独白する鬼人だった。

ガロンダーラは気配けはいを殺し周囲の魔物を影で倒しながら数日後に二人は比較的に安全領域に入った。


「悪魔族の領土から西に鬼人きじんの領土を経由して亜人の領まで長かった」


誰にも聞いていない繁みに隠れながら独り言。鬼人と亜人の境目で

ある場所で鬼は約束は果たしたと心中で背負われた少年を見て。


こんな場所では棺桶かんおけも運ぶ物などないが二人が無事に運ぶだろうと鬼はまた道を歩み進む。


「・・・・・悲鳴?いや掛け声か」


見送ってから数時間が経つ。夜のとばりが降りた森林地帯を歩くと小さいが女子おなごの声が聞こえた。

鬼人の領土は基本的に強い。生息する魔物ごときに殺られたりしない。なら考えられるは――


「異世界転生者・・・アンノーンオーブの使い手がいる!」


枝を踏む音など立てずに音のした方へ走る。一日で連続の2回も遭遇に疾風迅雷に耐えれるか不安があった。しかし聞かなかったことにする選択肢は最初からない。

村を燃やされた、あの日から。


「やあぁーー!」


距離が近づき今度はハッキリと聞こえる距離。しかし脱力しそうな掛け声であった。


(戦闘や狩りに秀でた種族の鬼にしては覇気はきがなさすぎる。この距離まで接近したのに轟音ごうおんも聞こえないのは、どういうことだ?)


理由は検討もつかないが油断大敵。山につまずかずにして躓くこともある。


今回も慎重に木から木を移動。身を低くして

警戒し周囲を見渡すと・・・ガロンダーラは見た。純白の魔法使いローブした少女が廉価れんかの杖を振り回す姿を。


光沢こうたくのあるロングストレート黒髪と鈴を張ったような目。儚い印象が残るであろう美少女。


(相手はあかスライム3匹か・・・なに!?攻撃をやめただと)


少女は虫を殺さない環境で育ったためか魔物を倒さないといけないと使命があっても躊躇ちゅうちょする。


攻赤スライムは身体を中央に膨らませると飛ぶ。体当たり攻撃の動作モーションだった。


「きゃあぁぁ!!」


赤スライムの体当たりに尻餅しりもちをつく少女。

体当たりと言っても強い衝撃もなく転倒がせいぜい。さらに弾力もあって柔らかいと体当たりを受けた人は大抵はそう思うだろう。


「やだ・・・やめて・・・・・」


スライムは好機と思い果敢に体当たりで執拗的に果敢に攻める。


「やめ・・・・・やめてください」


(もしここで飛び出せば転生者が隠れているやもしれない。

だから助太刀すけだちする必要性は無いが。

こうも一方的に攻撃を見ていると憤りを覚える)


背中にある槍の柄を握る。

樹木に身を低くして潜んでいた鬼は出て走る。


赤スライムは気づいていない。

少女は頭を押さえ身を守る。

鬼は一番、近くの赤スライム一体を

ニ槍をクロスにしてで切り裂く。


「安心しろ。すぐに終わらせる」


「えっ?」


俺は距離を取ろうとする赤スライムを走り2つの槍で突き刺す。


「フンッ!」


プルンッと破裂する。2体目。


「次でラストだ」


振り返り顔の表情がないが絶望したのか赤スライムはそのまま

佇むだけ。それを走って突き刺す。最後も2体目と同じ末路を辿る。少女は助けが来たと胸をなでおろす。


「あ、あなた・・・は?」


その問に対してガロンダーラは。


「俺の名前はガロンダーラ。

種族は鬼人きじんだ」


振り返り槍を背に戻し少女を見下ろすガロンダーラ。


「わ、わたしは内ケ島うちがしま椛葉なぎはです。

しゅ、種族は人間です!」


立ち上がった内ケ島椛葉は頭を軽く下げ自己紹介した。

少女はもじもじと上目遣いで鬼を見て鈴を転がすような声で言う。


「わ、わたしなんか食べてもおいしくありませんよ」


「・・・・・はっ?」


唖然となる鬼ガロンダーラであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る