第28話 決意の時


「逃げずに来たのは褒めてやろう! だが、その命はもらう!」


 冒険者ギルドの外では、フィガロの配下の武装した冒険者十数名が待ち構えていた。


 深呼吸だ……深呼吸。


「フィナンシェー、そいつらの攻撃はかわさず鎧や盾に当てるつもりでやればええでー」


 鎧や盾に当てる……。


 そうか! 品質を上げてる防具なら相手の攻撃も通らないってことか!


 それなら、俺にだってできるはずだ!


「うらああああああああああっ!!」


 仕掛けてきた冒険者の剣の軌道を見定める。


 見えていれば、鎧や盾に当てることは俺にだってできるさ!


 盾を構え、冒険者の剣を弾き飛ばす。


「今や! フィナンシェ、お前の剣でなら相手の鎧や剣に触れるだけでええぞ!」


「了解ですっ!」


 弾いた冒険者の剣に、俺の剣が触れると相手の剣先が飛んだ。


 武器が無くなれば、怖くないっ!


 一気に距離を詰めて、冒険者の鎧に自分の剣先を触れさせた。


「うあわああああっ!! 剣がぁ! よ、鎧がぁ!!」


「お、おい! フィナンシェの剣が触れただけで、相手の剣と鎧がぶっ壊れたぞ!」


「な、なんなんだよっ! あいつずっとこの街でゴミ拾いしてただろ! なんであんなに強いんだよ!」


「ええぇい! このバカ者が! みんなでかかればいいだけの話だろう! 行け!」


 フィガロが痺れを切らして、全員で俺に襲いかかるように指示を出した。


 全員か……気合を入れないと。


 俺は絶対に生きてラディナさんの元に戻るって約束したから!


 それに二人で作ったこの装備なら、絶対にあいつらには負けることはない!


 俺は剣を握り直すと、挑みかかってきたフィガロの配下の中に飛び込んでいった。


「もらったぁ! しねぇえええ!!」


 この間合いだと、盾は間に合わない! けど、鎧で受け止める!


 冒険者の剣が俺の肩口に振り下ろされた。


「ぐぅううっ! なんだ、この硬さ! お前、その服の下に何を着て……はっ! 鎖鎧か!」


「ご名答! でも、ご褒美は盾だけどね」


「むぐぅううっ!」


 鎧に剣を弾かれ、手が痺れ動きの鈍った冒険者の顔面に盾の攻撃を加えていた。


 やっぱり、鎖鎧がしっかりと剣を止めてくれるし、打撃の痛みもない。


 これならどれだけ数がいようが、大丈夫だ!


「きゃあああっ、フィナンシェ君! かっこいいっ!! 頑張ってー!!」


「女にうつつを抜かしやがって! その顔、ずたずたにしてやるぜ!」


 短剣を持った冒険者が顔を狙って切り付けてくるが盾で弾いた。


「腹ががら空きなんだよっ! 死ね……って刃が通じない」


「ですよ!」


 スパッと冒険者の短剣を斬り飛ばした。


「くそ! 攻撃が通じねぇ! 露出部分をねら――」


「そうはさせないですよ。悪いが皆さんの武器は斬らせてもらいます」


 囲まれる前に動いて、相手の武器を無効化すればいいだけさ。


 防具が絶対に刃を止めてくれると思えば、身体もすくまずに動けるぞ。


 俺は次々に冒険者たちの手にしていた剣を叩き斬っていった。



「ば、馬鹿なっ!? お前はゴミ拾いのフィナンシェだろ……なんなんだ! その強さは!」


 腰を抜かしてへたり込むフィガロの周りには、武具を俺の剣によって叩き斬られ失神させれた冒険者たちがいた。


 やれるとは思ってたけど、本当に勝っちゃったよ……この俺が……。


「お、俺とラディナさんの運命の力が、卑屈な底辺冒険者から一人の独立した冒険者に変えてくれたんだ」


「あらー、情熱的な告白ね。ラディナちゃんが恥ずかしくてとろけちゃってるわよ」


「エ、エミリアさん! それは言わないでください! は、恥ずかしい、フィナンシェ君からの告白をまた聴けるなんて……」


 うわぁ……照れてるラディナさん、めっちゃ可愛いなぁ……。


「フィナンシェ! 油断するんやない! 最後の詰めを怠るな!」


 ラビィさんの警告でふと我に返ると、腰を抜かしていたフィガロが剣を手に立ち上がっていた。


「スキルもまともに使えない底辺冒険者のフィナンシェごときが、こんなことをできるわけがない……。そうか、あのクソ兎が手を貸したのか、クソ、クソ、くそがぁ! 絶対に許さん! この私にラディナさんの前で恥をかかせたことを後悔させてやる」


 そう言えば、フィガロが自分で剣を使うのって初めて見るかも……。


 俺が所属してた時は、いつも別の人が戦って、フィガロは偉そうに後ろから指示出してただけだしな。


 もしかして……フィガロって弱い?


 フィガロの構えは、どう見てもさっきの冒険者たちよりも剣の構えが歪んでいて、とてもSランク冒険者とは思えない有様だった。


「死ね! フィナンシェ! 私を虚仮にした報い――」


 やっぱり、さっきのやつらよりもへっぴり腰だ。


 もしかしなくても、こんな程度なら。


 撃ちかかってきたフィガロの剣を斬り飛ばすと、がら空きの顔面を盾で殴り飛ばしてやった。


「むげらあばあぁあっ! わ、わたひがふぃなんしぇごときに負けるなんふぇ……あり、えない」


「これで決着はついたよね。俺は、ラディナさんとラビィさんとエミリアさんとで新しくパーティーを立ち上げる。そして、今後一切ラディナさんに付きまとうことは俺が許さないから」


「ちくひょう……ふぃなんしぇのくせに……」


 それだけ言うとフィガロはドサリと地面に倒れた。


「おい、これで勝負ありや。そこの金髪馬鹿を連れて帰るんや。それとも、フィナンシェの剣で三枚おろしにされたいんか?」


「ひぃっ! 嫌です!」


 ヨロヨロと立ち上がったフィガロの配下たちが、こちらをチラリと見ると、倒れていたフィガロ担ぎ一目散に逃げだしていった。


「これにて、一件落着や。あんだけこっぴどくぶちのめしておけば、今後こっちに手出しはせんやろ。まぁ、したところで返り討ちやがな」


「フィナンシェちゃんも冒険者として、リーダーとして、ラビィちゃんの後継者足りえる実力はありそうね。愛する人に対し、恋人への熱烈な愛情を持ったところも似てるわ」


「ワイは恋人への熱烈な愛情なんて持ってへんわ!」


「そりゃあ、わたくしとラビィちゃんは配偶者ですもの。愛の絆は一段上ですわよ」


「ちゃうわ! むぐうううっ! やめいやっ!」


 胸に抱きすくめられていたラビィさんが、エミリアさんの愛の抱擁を受けていた。


「フィナンシェ君はこっち」


 ぐいっと俺の顔を動かしたのはラディナさんだった。


「本当にあたしでいいの? 今までフィナンシェ君も好きって言ってくれてたけど……。さっきのは、恋人としてって受け取ってもいいよね?」


 もじもじしてるラディナさんも可愛い……。


 でも、年上のお姉さんに可愛いって言うのは失礼かな。


 あー、でもでも可愛いすぎだ。


「あ、あの、その、あたしは物を壊す能力しかないんだけど……それでもいい?」


 その視線って、ずるいですよ。


 そんなことされたらますます好きになってしまった。


「はい! 俺はありのままのラディナさんが大好きです!! ラディナさんもこんな俺でよかったらこれからよろしくお願いしますっ!! あとこれ、うちの代々の婚約の腕輪……受け取ってもらえますか?」


「フィナンシェ君…………本当にいいのね……こちらこそ、よろしくねっ!」


 目に涙を溜めたラディナさんが、婚約の品とした腕輪を受け取ると、俺に向かって飛び込んできた。


 もう、自分を卑下して下なんか見て歩かない。


 俺はラディナさんに見合う男になってみせるぞ!



 その後、俺がパーティーリーダーとなった『奇跡の冒険者』は、フランさんによって承認され、正式な冒険者パーティーとして結成されることになった。


 そして、俺はSランク冒険者のラビィさん、エミリアさん、そして恋人となったラディナさんとともに、リサイクルスキルを成長させるため世界を巡る冒険の旅に出ることにした。

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