第27話 パーティー結成からの決闘
「とまぁ、そういうわけで何だかよく分からないんですけど、俺がパーティーリーダーで新規の冒険者パーティーを立ち上げることになったみたいです」
「フィナンシェちゃん、えらいわよ。ちゃんと言えたわね。ラビィちゃん、これでわたくしたちは一緒に冒険できるわね」
ぐったりとして言葉を発しないラビィさんの傍らには、同じくぐったりとしたラクサ村のセーナが倒れていた。
何が起きたのかはラディナさんに目隠しされて分からなかったけど、そういうことで話し合いがついたらしい。
「フィナンシェ君、今後一緒のパーティーとして行動するけど、あのエミリアさんには絶対近づいちゃダメよ」
「え? あ、はい」
「ラディナちゃん、わたくしはラビィちゃんを愛する人にしか手を出さないから安心していいわよ。そっちはそっちでイチャイチャしていいからね」
エミリアさんが、こちらへウインクを送ってきていた。
「ということは、フィナンシェ君、ラディナさん、『赤眼のラビィ』殿と『爆炎魔術師のエミリア』殿の四名でパーティー立ち上げってことでいいかね? ミノーツのギルドマスターとしてはフィナンシェ君には恩義があるんで、できるだけ便宜を図るつもりだ」
ニコニコ顔のフランさんは顔面の圧が怖い。
きっと、ニコニコしてる理由は、俺の能力の一端を知っているのと、有名な冒険者二人が参加する新しいパーティーが、自分の管轄するギルドから立ち上げることになったからかな。
実際、俺もSランク冒険者二人とパーティーを組めるなんて夢かなって思ってるけどさ。
「あ、はい。四人パーティーで登録します。いいですよね、ラディナさんも、ラビィさんたちも」
「あたしはフィナンシェ君と一緒なら大丈夫」
「わたくしはラビィちゃんと一緒なら大丈夫よ。ねー、ラビィちゃん」
「むぐぅうう。ワイは自由の身になるんやぁ……認めへんでぇ、認めん」
「ラビィさん、エミリアお姉様の言うことはちゃんと聞いてくださいね。はい、これ署名用の万年筆です」
「やめい、やめいやぁ! ワイは自由にフィナンシェと旅がしたいんやぁーー!」
倒れていたラクサ村のセーナが、ラビィさんの手に万年筆を持たせて、申請書類にサインを書かせようとしていた。
さっきまでエミリアさんと険悪な雰囲気だったけど、俺の見てない間に何か取り決めがでもしたのかな。
それにしても、ラビィさんのあの嫌がりよう……。
「はーい、残念でちたねー。ラビィちゃんはわたくしと一緒に冒険旅行ですわ」
「最悪やー、フィ、フィナンシェー! お前だけが頼りや! ワイを、ワイをこの女から解放して――」
エミリアさんに拘束され、セーナに添えられた手で、書面にサインをしたラビィんさんが燃え尽きたようにぐったりしていた。
「申請書類は以上で完了……じゃなかった。パーティーの名前はどうしておく?」
フランさんが俺の新しく立ち上げるパーティーの名前を聞いてきた。
そう言えば、急な話で決めてなかったけど、何がいいかなぁ。
俺のスキルが発動するのは、ラディナさんの解体スキルのおかげだし、『奇跡の手』ってのもありか。
もしくは、『奇跡の冒険者』……も捨てがたいかも。
「ラディナさん、ラビィさん、エミリアさん、『奇跡の手』と『奇跡の冒険者』のどっちがいいですかね?」
「あたしは『奇跡の冒険者』かな。リーダーのフィナンシェ君が特別な冒険者って意味にも取れるから」
「ワイも『奇跡の冒険者』でええで。フィナンシェとの出会いは奇跡みたいなもんやからな」
「ラビィちゃんがそういうなら、『奇跡の冒険者』で問題ないわ」
全員一致で『奇跡の冒険者』というパーティー名を推してきた。
「『
「フランさんがそう言っていただけるなら、パーティー名は『奇跡の冒険者』として登録してください」
フランさんが申請書類にスラスラとパーティー名を書き込んでいた。
いやぁ、なんかトントン拍子にぼっちだった俺が、Sランク冒険者二人を擁するパーティー結成したって話になったけど……。
やっぱ、夢を見てるみたいだよなぁ。
「これで、名実ともにフィナンシェ君がパーティーのリーダーね。これからもよろしく頼みます。フィナンシェリーダー」
「判断に迷ったら、ワイがアドバイスくらいはしたるから安心せい」
「フィナンシェちゃんには、Sランク冒険者のわたくしがついてるから安心していいわよ」
「ちょ! ちょっと! 待ったー!! 私がそのパーティーの成立を認めない!」
パーティーの結成を遮ったのは、さっき逃げ出していったフィガロであった。
なんか、いっぱい配下を引き連れてきてるんだけど……。
もしかして……さっきの仕返しかな……。
「ほぅ、金髪馬鹿が吠えよるなぁ。さっきはせっかく見逃してやったんやから、お家でかあちゃんのおっぱいでも吸うとればよかったのになぁ。そいつらをけしかけるつもりなら覚悟せいよ」
「うるさい! 私を金髪馬鹿と言うな! クソ兎めっ!」
突然、フィガロの金髪が勢いよく燃え上がった。
「わちちち! 何が起きた! 水だ! 水! 火を消せ」
慌てた配下たちが、近くの樽からすくった水をフィガロの髪にぶっかけた。
あーあ、火は消えたけどおかげで髪がチリチリになっている。
「わたくしのラビィちゃんの悪口は許しませんよ」
発火の原因はエミリアさんの魔法か……。
今も指先からとんでもなくデカい火球が浮かんでるけど、あれってかなり威力の魔法だよね。
「貴様ら……私をこの街のトップパーティーである『黄金の翼』のリーダーフィガロだと知っての狼藉だろうな?」
「しらんがな。いや、お前が金髪馬鹿なのは知っとるが」
「ぐぬぬっ! 言わせておけば」
険悪過ぎる空気……マズいよね。
でも、冒険者としての新しい第一歩を踏み出すって決めた俺の邪魔はもうさせない。
たとえ、それがこの街のトップパーティーのリーダーであるフィガロであってもだ!
もう『ゴミ拾い』のフィナンシェと言われ、卑屈になって下を向いていた俺から変わったんだ。
「フィガロさん! いや、フィガロ! 俺はもう一人の独立した冒険者だ。その俺が新しく冒険者パーティーを作るのに何の問題があると言うんですか!」
「フィ、フィナンシェ君! 君は大恩ある私に意見しようと言うのかねっ!」
「借財の肩代わりをしていただいた恩は忘れてません。けれど、それとこれとは全く関係ない話。いつから、冒険者パーティーを結成するのにフィガロの許可がいるようになったんですかね? フランさん?」
「そんな規約を私は作った覚えはないが」
「ですよね? フィガロ、ギルドマスターはそう言ってますけど」
冒険者ギルドにいた冒険者たちからも、フィガロに対し失笑が漏れる。
顔を真っ赤にして……怒っているのかな。
「フィ、フィナンシェ君! 君というやつは……底辺冒険者の癖に私を虚仮にするとは! もう、許さん! 皆の者、こいつらを一人残らず叩きのめせ! あ、ラディナさんはもちろん傷つけるなよっ!」
真っ赤になったフィガロが、配下を俺たちにけしかけてきた。
剣を抜いた冒険者十数人がじりじりと寄ってくる。
「この冒険者ギルド内で喧嘩をするなら、先に剣を抜いたフィガロたちの冒険者資格を停止させてもらう。それでもやるのか?」
フランさんが、物々しい空気を察し、冒険者ギルド内での喧嘩をしないように牽制してくれた。
「フン! フランめ、いらぬことを言いおって! 外に出ろ! フィナンシェ君、もちろん君も逃げはしないだろ? 逃げればラディナさんは私の物だ」
フィガロは配下を冒険者ギルドの外に出すと、挑発するような視線を送ってきた。
もちろん、逃げる気なんて全くないし、大事なラディナさんをフィガロの手に委ねる気はない。
「もちろん逃げることなんてしないよ。俺はもう卑屈な『ゴミ拾い』だったフィナンシェじゃないから」
「フィナンシェ、お前の力見せてやれや! お前の装備ならこないなポンコツ冒険者どもなんぞ、目じゃない」
「そうね。今回はフィナンシェちゃんのリーダーとして素質を見せてもらうことにしようかな」
「フィ、フィナンシェ君! あたしも戦うから」
「いいや、ラディナさんは俺が絶対に守るから! そう決めた! す、好きな人を守れない男にはなりたくないから!」
い、言っちゃった!
その場の勢いで言っちゃったよ!
これって、プロポーズの言葉とか思われちゃうよね!
ああ、ラディナさんの顔が真っ赤になって固まってるし!
「公衆の面前で愛の告白なんて……風紀違反です」
「あの顔ラディナが、別世界に行ってる」
「……相思相愛」
「わたしもラビィさんとエミリアお姉様と相思相愛になりたい」
「運命ってあるんだねー」
俺の告白を聞いたラクサ村の子たちが茶化していた。
「フィナンシェ君の本当の気持ちを聞けたから……嬉しかった。けど、あいつらと戦うなら盾を持って、盾。お願いだから死なないでね」
ラディナさんが心配そうな顔で、俺に盾を差し出していた。
俺に剣の腕はないけど、ラディナさんと一緒に再構成したこの装備があればきっと負けない。
きっと勝ってみせる!
「俺はラディナさんを残して死ぬ気はないから! じゃあ、行ってくるよ!」
「フィナンシェ君! あたしと一緒に絶対に冒険に出ようね!」
俺はラディナさんから受け取った盾をつけると、腰の剣を抜き、冒険者ギルドの外に出た。
冒険者ギルド内は始まった喧嘩に騒然としていた。
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