第12話 新たな発見

 一年間、空き家だった我が家は埃と蜘蛛の巣だらけだったが、幸いなことに食器や寝具などは売り払われずに当時のまま残されていた。


 女の子たちも自分の部屋割りを決めたようで、それぞれの部屋の掃除を終えていた。


「ふぅ、綺麗になりましたね。結構、いらない物も出たんであとで解体してもらって再構成し、経験値上げに使おうと思います」


 俺は各部屋から出てきたガラクタを、ラディナさんと一緒に庭へ並べていた。


「本当にいいの? ご両親やおばあちゃんの形見とかもあるでしょ?」


「ええ、形見は見つけましたし、それに、ここはもうみんなが住む家ですからね」


 掃除中に出てきた、この世界の女神が描かれた銀細工の腕輪を眺める。


 うちの家で代々、この腕輪が嫁への婚約品として贈られてきたものと聞いていた。


 ばあちゃんもじいちゃんから贈られたし、父さんが母さんにプロポーズした時に渡した物でもあるんだよな。 


 形見としては、この腕輪があれば十分だ。


 そ、それにこれを渡したい人もいるし……。


 チラリと視線を横に向けると、心配そうにこちらを見ていたラディナさんの顔があった。 


「あ、あのー」


「なに、フィナンシェ君?」


「おーい! フィナンシェ、狂暴女ー! 掃除終わったでー! 今から作戦会議やー」


 腕輪を渡そうとしたら、ラビィさんが、掃除が終わったことを告げていた。


 いいタイミングだと思ったけど、しょうがないまた今度にしようか……。


 俺は形見の銀細工の腕輪をポケットにしまうと、ラディナさんの手を取って立ち上がる。


「いや、なんでもないです。ラビィさん、今行きます! ラディナさん、行きましょうか」


「うん! 行こっか」


 俺たちは二人で手を繋いで家に戻っていった。



 掃除を終え、一年間の汚れを落とした我が家の居間にみんなが揃っていた。


「さぁて、あの金髪馬鹿に三〇〇万ガルドを叩き返すのは楽勝やから置いておくとして」


 確かに俺たちのスキルとラビィさんがいたら三〇〇万ガルドくらい、すぐに用意できそうだ。


 本当に昨日からガラッと、俺の人生が変わったんだ。


 借金に喘いで、ゴミを拾う生活ともおさらばできる。 


「フィナンシェ、お前のスキルは成長することが判明しとるんやから、もっと育てなあかんなー。今、LVいくつや?」


「えっとLV4ですね」


「LV4だと駆け出しって感じかー。経験値はどうやったら入るねん?」


「ラディナさんの解体した廃品を再構成して成功すると、経験値が1ポイント増えるみたいで。失敗したら入らないです」


「ほほぅ。成功しかダメか。じゃあ、普通品質作りまくりやな。元材料集めとして街中で廃品回収でもしたろかー」


「は、廃品回収ですか?」


 ラビィさんとラディナさんと出会って、ようやくゴミ拾いの日々から解放されると思ったのに……。


 今度は廃品回収か……。


「おう、廃品回収や。あの金髪馬鹿が一週間も時間をくれおったからな。街の不用品集め、フィナンシェのスキルで新品にしてLV上げに専念し売った方が、ワイらの利益の幅が広がるっちゅーもんや」


 LV上げかー。


 確かに、LV上げて成功率を上げておけばいい品質のが作りやすくなるものな。


 伝説品質は高く売れるけど、大量の失敗作を必要とするし、安定的に作れる品質を上げた方が効率いいかも。


「そういうものですか……。でも、ラビィさんが言うならやってみる価値はありますね」


「じゃあ、荷馬車はワイが調達してきたるわ。フィナンシェたちはさっきの不用品を作り直してくれやー」


「やっときますけど。ラビィさん、荷馬車のあてはあるんです?」


「おぅ、ここに来るまでの間に目星は付けてあるから安心せい。ほな、頼むで」


 そう言ったラビィさんは荷馬車を借りにいった。


 残った俺たちは、不用品を庭で解体し、新しくすることにした。



「よいしょっと。フィナンシェ君、解体するよ」


 ラディナさんが手袋を外し、不用な品を解体していく。


 不用になった品は壊れた食器や壊れた道具類、両親の使っていた錆び付いた武器や防具、衣服類もくたびれた物だ。


 どれも無価値な品物で、タダでもいらないようなものである。


「ありがとう、ラディナさん。さぁ、じゃあこれを新品にしていきますか」


 俺は廃品になった品物を手にするとスキルが発動した。


―――――――――――

 リサイクルスキル

  LV:4

  経験値:14/30

  対象物:☆陶器の皿(分解品)


 >陶器の皿(普通):93%

 >陶器の皿(中品質):73%

 >陶器の皿(高品質):53%

 >陶器の皿(最高品質):23%

 >陶器の皿(伝説品質):13%

―――――――――――


 元々、割れていた陶器の皿だが、ラディナさんの力で廃品化され再構成ができるようになっていた。


 経験値を稼ぐため、普通品質でスキルを発動させる。


 光が収まると、見慣れた陶器の皿が新品同然になってできていた。


>陶器の皿(普通品質)に再構成に成功しました。


>陶器の皿(普通品質)

 

 資産価値:三〇〇ガルド


「それにしても、フィナンシェ君の力はすごいわよね。壊れた物も直せるんだもの……最強のスキルなんじゃないかしら」


 再構成された皿を眺めていたラディナさんが感心していた。


「でも、この力はラディナさんが居ないと発揮できないですしね。ラディナさんがすごいんですよ。俺はおまけですから」


「ううん、違うわ。フィナンシェ君がいるから、あたしの力も役に立つの。本当はこんな力いらないってずっと思ってたけど……フィナンシェ君のためにあたしの力はあったんだなって分かってからは神様に感謝してるの」


 ちょっと照れた顔でそういうこと言われると、こっちも照れてしまう。


 俺もラディナさんと出会うため、このスキルが授けられたんだと思ってますから。


 借金を返して、落ち着いたらキチンと俺からも告白して――。


「ラディナさん、フィナンシェさん、イチャイチャしてサボってちゃダメですよー」


「お熱い二人だこと」


「見せつけてるのかな?」


「……イチャラブしてる」


「わたしもラビィさんとイチャイチャしたいー」


 ラディナさんとイチャついていたら、村の女の子たちからサボるなとご指摘が飛んできた。


「怒られましたから、仕事続けますね」


「そ、そうね。いちゃつくのはいつでもできるしね。今はお仕事しましょう」


 ラディナさんも村の子たちに茶化されたことで真面目にやる気が出たようだ。


 それから俺たちはドンドンと不用品を解体していった。


 そして、すべてを再構成したところでラディナがぽつりと呟いた。


「もう解体する物がないかなって思ったけど、これって解体してみていい?」


 ラディナが俺に差し出したのは、魔物を倒した時に手に入れた魔結晶であった。


「魔結晶ですか? 貨幣の代わりになりますけど、解体とかできます?」


「一個、やってみるね」


 ラディナが素手で魔結晶に触れると、周囲に光が爆発的に広がった。


 ───────────────────

 >魔結晶の解体を検知しました。

 >【リサイクル】スキルの経験値にしますか?

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 ん? 経験値にしますか?


 魔結晶ってリサイクルスキルの経験値になるの?


 まぁ、やってみればいいか。


 どうせ、ゴブリンから得たクズ魔結晶だし。


 俺は了承を意識した。


 ───────────────────

 >魔結晶(超極小)を経験値化します。

 >経験値1ポイント取得します。

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 ラディナさんによって解体された魔結晶が放っていた光が、俺の身体に取り込まれる。


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 >経験値:15/30→16/30

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 経験値の数字が増えた。


「ラディナさん、この魔結晶は俺のスキルを成長させるための経験値になるみたいです!!」


「そ、そうなの!? あ、じゃあ魔物をいっぱい倒せばフィナンシェ君のスキルもいっぱいLVアップするのかしら?」


「た、多分そうなるかと」


「魔物退治でも成長するスキルか……ますます、フィナンシェ君のは、すごいスキルだと思わない?」


「え、ええ。自分でもビックリするくらいすごいスキルだと思ってますよ」


「じゃ、じゃあ、これも全部解体するね。LV上げに使った方が絶対いいものね」


「そ、そうですね。確実に経験値になるんでありがたいかも」


 ラディナさんが残りの魔結晶を解体していく。


 次々に魔結晶から発生した光が俺の身体に取り込まれていった。


 ───────────────────

 >経験値:16/30→28/30

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 解体した魔結晶からの経験値は、ゴブリンは1ポイントだったが、オークからは2ポイント獲得できていた。


 ラディナさんのおかげで、また一つ俺のリサイクルスキルの謎システムが解き明かされた。

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