第3話 新生活?


...。

「えっと、どちらさまです?」

「あれ、聞いてなかった?俺だよ俺、向洋陽太だよ。」


向洋陽太むかいなだようた。俺の数少ない友人だ。と言うか友人と言うのであればこいつしかいないのかもしれない。

こいつとは小学校来の付き合いで中、高と一緒だ。少しばかり背が小さいが、本人はあまり気にしていない様子。いつもニコニコと笑っていて、その雰囲気の暖かさから学校内でもそこそこ人気はある。それこそ、俺とはかなり対照的な存在だ。

最も、逆にそれのおかげで衝突しないのかもしれないが。



ところで。

何その某ハンバーグみたいなリアクション。

いつもこいつといる時なら、ふっと笑うところだが、今はそんな気分ではなかった。


「んなモン知ってるよ...というか、お前なら特監生って言っても違和感はねーよ。まあ、実際お前がここにいると知ったときは驚いたけどな。...いつからだ?」

「ほら、お前と帰ることが途中からなくなったろ?去年の冬くらいからか?あのころからここはもう俺の居城って訳よ。」


俺は入学以来こいつと登下校をしていたが、途中から登校だけになっていたことはすっかり忘れていた。

「あー...。すっかり忘れてたわ。すまんすまん。」

「ねぇひどくない?泣いちゃうよ?」

「勝手に泣いてろ。」


俺が冷たくあしらうと、陽太は大げさに嘘泣きを始めた。

そんな光景に思わず笑みがこぼれてしまう。



しかし、理由はどうあれここにいる特監生が顔見知りでよかったよほんと。

自分で自覚しているがあまり人付き合いが得意なほうではないので、ガッツリ初対面とかだとさすがに気がひける。



「...。コホン。とりあえず突っ立ってないで座ったら?まだコタツあるし。」

「は?コタツ?」



といわれて陽太のほうを改めて見てみると、足がちゃっかりコタツの中に入ってた。

それだけではない。畳で言えば12畳ぐらいだろうか。そのスペースには少し改造されてそうな机以外にいろいろと家電製品が置かれていた。冷蔵庫。パソコン。ほんの少し旧型のテレビ。それ以外にも色々と。

しかもそれらにはちゃんと電気が通っており、使用できそうだ。


...何ここ。家?


当然ながら疑問を抱く。


「...。えっと?ここ学校だよな?」

「そうだけど?」

「これら...。何?どこから持ってきた?」

「んー、家からなんだけど、いくつかは資材だけ持ってきてここで作った感じ。ほら、このコタツとか?」


そういって陽太はコタツの机の部分をバンバンたたく。

おいおいまじかよと思ってとりあえずコタツに入ってみたが、入った後でこいつの実家がリサイクルショップだったなと思い出した。


「そっか。そういやお前んち確かリサイクルショップだったよな?」

「そ。そこからどうにもならなさそうなのを譲ってもらって、それを改修してここで使ってるわけ。」

「お前そんなことできるのか?」

「うーん...親が何かいじくるのは昔からよく見てたしなんなら手伝ってたのもあるしなぁ...。けどやっぱり...、才能?感じちゃうよね???」

「すまん、馬鹿に聞いた俺が馬鹿だった。」

「なんでだよ!」


とは、言ってみたものの、もし本当なら大したものだと思う。

確かに工作とか理科数学とかは得意にしてたはずだけど、それでだけでどうにかなるものでもないだろ。


「...まあ、そういうこと。他にも持ってきてほしいものとかあったらじゃんじゃん言って。なるべく用意するから。スペースのほうも...まあ、そろそろコタツ片付け時だしな。なんとかなるっしょ。」


確かにもう寒いとも感じないし、コタツにも電源も入っていない。四月になっても残ったままというよくあるパターンだろう。


「もって帰るのか?」

「いや?この建物の中に倉庫あるからそこにしまっとくだけ。どうせ冬になったらまた使うだろうし?」

「また使うって...。お前特監生やめるつもりないのか?」


「ないよ。」

即答だった。綺麗にすっぱり切られる。

一瞬だけ真顔に戻った陽太だったが、すぐにいつもの平装を取り戻して話を続ける。


「はっきりいってここはいいよ。特に何かをやって怒られるわけでも無し。先生も担当はちはやちゃんだけだし、あの人部屋の管理俺に委任してるから何も言わないし。時々上からあれやってくれこれやってくれって来るけど、決して面倒くさがるほどでもないし。飯もここに来て良いわけだから。悠もさ、特に急いで家帰る理由とかないでしょ?」

「そういや...そうだな。」

むしろそれを防ぐためにここにつれてこられたんだよな...。


というか、先ほども言ったが俺も自分から暴力事件を起こしたいわけじゃない。外に触れることがないのなら、問題も起きないだろう。

ますますここから離れる理由がなくなる。


「ま、そんな訳だよ。今日からよろしく。」

「...。はぁ。よろしく頼むわ。」

特に嫌という訳でもないしこいつもいるし...。

まあ、なんとかなるか。きっとなるだろう。


...なるよね?






かくして、俺の特監生としての学校生活は始まったのだった。



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