第5話 初めての依頼

No5

初めての依頼





 冒険者登録は無事にすんだ。フロア長のフローラさんの事情聴取も問題なく済み、受付嬢のアリーナさんが説明する冒険者ギルド規定もちゃんときいた。


 冒険者ギルド規定は、簡単に言うと、ランクアップ制で依頼もランクに応じて難易度も依頼報酬も変わる。


 冒険者は自分のランクに見合った依頼を受け、規定の数をこなし冒険者ランクをあげる。ランクはS、A、B、C、D、E、F、Gと8段階に別れる。依頼ランクも同様に。


 そして、一般市民、冒険者同士、貴族に関しての争いには不干渉を基本としてる。さらに、冒険者ギルドはどの国や組織にも属さない中立を提言してる。


 また、複数ギルドに所属する事も認めている。各ギルドによって規定内容は多少細かい違うがあるが冒険者ギルドで聞いた内容とほぼ変わらないようだ。


 自分の知ってる異世界ファンタジー知識もその様になってるので大丈夫だろう。


 でだ。現在直面してる問題は金が無いことだ。冒険者ギルドでは、角ウサギの角が換金できたが、銀貨一枚にしかならなかった。


 アリーナさんにそれとなく貨幣価値を教えてもらったが、銅貨、大銅貨、銀貨、小金貨、金貨、大金貨、白金貨と、7種類の硬貨が存在する。


 銅貨一枚で100円で大銅貨一枚で1000円だと判断すれば、銀貨は10.000円だ。


 街の宿屋が一泊二食で大銅貨4枚からが普通でグレードが上がれば値段もあがる。なので、2泊もすれば3日目からはホームレスになる危機的状況だ。


 最低でも、日に大銅貨4枚、先の事を考えて銀貨一枚は稼ぎたい。


 まずは、金稼ぎが当面の課題になった。


「って、考えてもな....あの角ウサギを毎日一匹狩るのもな....別に異世界に来たからといって何か特別な力が備わった感じもしないしな....」

 俺は、ブツブツと独り言を言いながら、受付嬢のアリーナさんに紹介された宿に一人歩いていった。


 街も良く知らず今夜泊まる宿もないと話すと、安くて料理も旨くそれなりのサービスが受けられる宿を紹介してもらい向かってる最中だ。


「おっ?!....ここかな?看板には森と湖の絵が書かれている....」


 宿のドアを開けると左に食事スペースがあり客で賑わっていた。正面には受付カウンターがあり向かって歩いた。


「あの冒険者ギルドで宿を紹介されて来たのですが...」

「はいっ!ようこそ、"森の恵み亭"へ。宿泊ですか?」

「はい、今夜泊まれますか?」

「はい、冒険者ギルドの紹介でしたら、大銅貨3枚になります。食事も朝、夕付きますよ。飲み物は別になりますけどね」


「では、一泊お願いします。」

「はい、..銀貨一枚ですね。では、大銅貨7枚のお返しです。二階、階段を上がって左に行った"剣のマーク"が付いてる部屋ですね。案内しますか?」


「分かると思いますので平気です」

「では、夕食はすぐに用意しますか?」

「はい、荷物を置いたら下に降りてきます」


「分かりました、用意してお待ちしてますね、何か分からなければお聞き下さい。私は、女将のアンと申します。あと、給仕には娘のシーナとお手伝いのニーナがいます。あの、腕に黄色の布と腰エプロンをした二人ですね」


 俺は女将さんの指差す方を見ると、年若い女の子の二人が食堂を忙しく回っているのを見た。


「何かあれば私かシーナ、ニーナに聞いてくださいね。体拭きの湯が必要なら呼んでください。銅貨3枚でお持ちしますので」

「分かりました、ありがとうございます」

と、手荷物を部屋に置き鍵をしめて食堂に向かった。


 そこで、出された食事は前の世界の味とは若干違うが1日振りに食べる温かい食事は、身も心も温かくなった。


 お湯の依頼をして部屋に戻り、しばらくして女の子がお湯を持ってきてくれた。


「お湯をお持ちしましたー!!」

 と、元気な声の女の子が扉を開けると重たそうにお湯が入ってる桶を持っていた。


「おっと!!....重いな....ありがとう。大変だったね....使い終わったらどうすれば良いのかな?」

「あっ、ありがとうございますっ!桶は部屋の隅に置いてくれればいいですっ!では、失礼し--」


「ちょっ、ちょっと待って.....はい、チップ...お駄賃? お礼だから貰ってね」

 と、銅貨一枚をお湯を持ってきてくれた女の子に渡した。


「えっ?あっ、ありがとうっ!!」

 と、照れた顔が可愛らしかった。別にやましい意味は無い.....


 女の子は嬉しそうにしながら挨拶をして戻っていった。俺は、備え付けのタオルを濡らし体を拭き、少しサッパリするとベッドへと寝転がり、今日の出来事を頭の中で考えていると気づいたら朝を迎えていた。


 ちなみに、あとで知ったが部屋を照らしていた灯りは魔石を利用した魔導具だと教えてもらった。


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 翌日は窓に差し込む朝日によって目を覚まし、女将さんに言って、裏にある井戸を借りて顔を洗い朝食を食べるとハルジオンの街を見て回った。


 俺は、まず街の文化と情報を何でも良いから入手しようと午前を使って散策した。


 まず、最初に思ったのが活気がある事と露店で売られている物の多さだった。交易街という事だけあって様々なものが売られていた。


 食料品から服、装飾品、生活用品、武器、防具など、見る店ごとに店員に質問して商品を説明してもらった。

 金が無いから買えなかったが、旅人だと説明して若干言い訳しながら説明してもらった。


 あちこち見るとすぐに昼時になり、近くでケバブのような料理を売る露店を見つけ、そこで一つ買って食べた。


 味はスパイシーで独自の調味料を作ったのか、複雑な味をしていたが別に不味くはなかった。近くの露店で果実水を買い喉をうるおし冒険者ギルドへと向かった。


 ちなみに、果実水が入った木のコップはちゃんと店の返却棚に返した。


「以外と文化レベルは低くないな、街中もイヤな匂いはしないし、綺麗だしな。日本とは言わないが、近代中世より上の文化か?」


 まだ、メイン通りくらいしか歩いていないが、別に不快な思いをする街じゃないのがわかったのは良いことだ。まだまだ、文化レベルは日本とは比べ物にはならないが、生活するには困らないだろうと思った。


 困った所で行く宛はないのだが....


 そして、昨日来た冒険者ギルドに着いた。中に入るとギルド内は人の姿がチラホラとしかいなく、昨日とはまるで違った。

受け入れカウンターに向かうと、昨日と同じ受付嬢がいた。


「あっ、アリーナさん。こんにちは」

「セイジロウさん、こんにちは。ずいぶんとゆっくりなんですね」

「えぇ、午前は少し街中を見て回っていました。今日はギルドで何か依頼を受けよう思ったのですが、実はまだ字が読めなくて....」


 そうなのだ!........言葉は喋れるのだが字が読めなかった。街中に書かれている字も読めなかった。別に、物を買うのには対して困らないが、ギルドの依頼書が読めないのは、かなり困る。


 それにこの先、書き事をしないとは限らない。自分の名前も書けないのはさすがにちょっと恥ずかしい。30才過ぎて名前が書けないなんて.....


「あー、そうですね。異国からでしたからね.....セイジロウさんはランクもまだ低いですしこの周辺の土地勘もないですからね、常設依頼でもどうですか?」


「どのような依頼なんですか?」

「そうですね、薪を拾ってくるとか、薬になる薬草を採取するとか、あとは、お店の手伝いとか....簡単な依頼になりますよ」


「では、幾つか紹介してもらいますか?字が読めないので読み上げてくれると助かります...」

「はい、大丈夫ですよ。では、ランクに合ったものと常設依頼を説明しますね」


 と、受付嬢のアリーナさんから説明を受けた。

 常設依頼は、ギルドで随時張り出されている依頼で薬草採取や薪拾い、低級魔物の討伐など。


 Gランクの俺で受けられるのはさっきの説明された依頼とあとは、物置や倉庫の整理、お店の手伝いなど、子供のお使いみたいな依頼しか出来なかった。


 その中で選んだのが、薬草採取と冒険者ギルド内に併設されている食事処の手伝いを受けた。


 採取してくる薬草は、異世界ファンタジーで出てくる怪我を治すようなポーションでは無く、薬草学で使われる物に関する薬草だ。漢方とかそんな感じだと思っている。


「では、よろしくお願いしますね。採取した物や素材なんかは買取りカウンターで引き取ってくれますからそちらにもっていってください。買取りカウンターで書類を渡されるはずですからソレを私たちに渡して下さい。査定対象になりますから、忘れないで下さいね。ランクアップにも響きますよ」


「わかりました、では」

「あっ、街の外には危険がありますから、出来れば早めに武器、防具を揃えてくださいね。」

「はい、ありがとうございます」


 と、近くにある武器屋で刃渡り20センチ程の片手ナイフを買った。大銅貨4枚した。オイオイ、すでにホームレスに片足突っ込んだぞ....


 俺は、門を出ると歩いて1時間程の森にやって来た。アリーナさんから聞いて薬草が取れる場所を聞いといた。

ちなみに、頭陀袋も貰った。銅貨2枚だったよ、クソッ.....無料じゃないのか....


「マジで薬草を採らないと今日の宿に泊まれないぞ....まぁ、ギルドの食事処の依頼があるから別に、最低でも宿代は確保できるが、それだけじゃ何も出来ないしな....」


 俺は、予め薬草の見本を見せてもらい手持ちのメモ帳に書き写してきたものを参考にしながら森を歩き回った。


 幸い、獣や魔物には遭遇せずに済み、薬草もそれなりに見つかった。夕暮れになる前に街へと帰りギルドで買い取りカウンターへと納めた。


 結果、大銅貨4枚になり何とか金を稼げた。"恵みの森亭" に向かい女将さんに部屋を確保して貰った。2泊分....早く金がほしい。


 トンボ帰りで冒険者ギルドに向かい食事処へと進んだ。

「いらっしゃい、注文は?」

「いえ、ギルドの依頼できました。」


「おぉ、手伝いか!助かるよ、夕食時には何だかんだいって忙しくなるからなっ!前に手伝ってくれていたヤツが辞めちまってな忙しくて手が回らなかったんだっ!今日は頼むぜ!!....ちなみに、今日だけか?」


「まぁ、やってみて長くできそうならお願いしたいとは思いますが.....」

「そうか、まぁ、そうだよな.....ガラの悪いヤツもいるが此処はギルド内だからな、滅多な事じゃ斬られないから心配するなよ!ワハハハっ!」


 いや、斬るってなんだよ.....はぁ、終わったら指の本数が減ってたりして...ハハハ.....


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 陽も暗くなり始めた頃、ゾロゾロと冒険者が食事処に集まり始めた。

「おーいっ!エール3つと湯豆を1つだ!」

「こっちもエール4つに、炒め豆だ!」


「わかりましたーっ!!.......おたせしました!」


「こっちはワイン割りとオーク肉のステーキだ!」

「こっちもワイン割り4つに、焼きベーコンとソーセージの盛り合わせをくれ!!」

「おーいっ!モツ煮スープとエール5つだ!!それと、ワイン割りを3つだっ!」


「わかりましたーっ!!......お待たせしましたっ!」


「焼きベーコンとソーセージ盛り合わせですっ!」


 と、こんな感じであって言う間に各テーブルは埋まった。テーブル数は20席程しかないが客数は60人以上いる。


 そんな中をたった四人で回していた。前の世界で注文を取るんじゃなくて次から次へと各テーブルごとにメニューと数を言うだけだ。


 メニューは固定されていて、エールにワイン割り、湯豆と炒め豆、オーク肉のステーキ、モツ煮スープ、焼きベーコンとソーセージだけだ。


 メニューは少なく酒の種類も少ないが目が回る忙しさだ。

 料金は前払い方式になってる。


 冒険者は依頼が終わり、ギルドで報酬を貰う、軽く食事処で一杯とつまみを食べて街へと繰り出す。こんな流れを働きながら感じた。


 忙しいのは陽が暮れてからの2、3時間程だ。あとはまばらになり、夜が更ける頃には客はいなくなる。


 俺は、仕事が終わると同時に食事処のオッサンに依頼のサインをもらい受付で手続きをして、報酬を受け取った。


 大銅貨4枚.....もうちょい欲しいと思ったがまぁ、危険もなく稼げたのは良いことだ

、と思いを納得した。


 "恵みの森亭" に戻り遅い夕食を貰った。ちなみに、料理は少し冷めていたが美味しくいただいた。お湯を貰い簡単に体を拭いて泥のように眠った。


 マジ、疲れた~~~~~~.....


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