第9話

 戦いの場には、クラリスも立っていた。

 クレア伯爵家軍の指揮官として、全責任を負っていた。

 自身を囮にして、ウェストミース公爵家を誘い出す覚悟だった。

 絶対の自信があったわけではない。

 当主のボルガは慎重狡猾な面もあり、確実とは言えなかった。


 だが、番いの呪縛に囚われたタイガは、誘い出せると確信していた。

 予想通りタイガが青虎獣人を率いて援軍に現れた。

 クレア伯爵家軍の戦士と激烈な戦闘になった。

 赤狐獣人相手には圧勝だったクレア伯爵家軍も、相手が青虎獣人では苦戦した。

 圧倒的な不利とは言えないが、じりじりと不利になっていった。


 だがここに予想外の援軍が現れた!

 ダルハウジー王家の王太子ブルーノと第一王女ファランが現れたのだ。


「やあ、クラリス。

 余が君の本当の婚約者ブルーノだよ。

 これから末永く宜しくね」


 完全な奇襲だった。

 ブルーノ王太子直衛の親衛軍とファラン王女直衛の近衛嬢子軍は、連携をとって確実にタイガ率いる青虎獣人を屠って行った。

 事の急転直下にクラリスは動揺したが、それでも自軍の指揮は忘れなかった。


「罠に嵌ったな!

 ブルーノ!

 ファラン!

 儂がお前たちの企みに気がつかないと思っていたのか!

 お前たちがのこのこ姿を現すのを待っていたのだ!」


 罠に嵌めた心算が嵌められて……


「馬鹿はお前だ、ボルガ。

 お前を誘い出すために、余達は姿を現したのだ!

 ボルガは罠に嵌ったぞ!

 ボルガの首を獲った者は貴族に取り立てる。

 励め!」


「「「「「おう」」」」」


 クラリスにはどちらが真実を語っているか分からなかった。

 戦場で士気を維持する為に、嘘を言っている可能性もあったからだ。

 ですが直ぐにブルーノが本当の事を言っていると証明された。

 王家の近衛騎士団と獣人騎士団が援軍に来たのだ。


 ブルーノ王太子とファラン王女を包囲して殺そうとしていた、青虎獣人軍の背後を奇襲して大打撃を与えた。

 ブルーノ王太子がボルガを斬り斃し、ファラン王女がタイガを斬り斃した。


 多くの青虎獣人が討ち死にしたが、ウェストミース公爵家は取り潰されなかった。

 伯爵家に降爵されたが、青虎獣人族の貴族家として残った。

 クレア伯爵家は侯爵家に陞爵され、クラリスは王女としてブルーノ王太子に嫁いでいった。

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人狼姫はつがいが現れ婚約破棄された伯爵令嬢を護る。 克全 @dokatu

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